【第19話】- 魔術刀 炎獄断 -

[ - ジュウデン カンリョウ - ]

[ - システム キドウ - ]


「…ん」


「おぉ!目覚めよったか!」


「ありがとう、ございます」


三人が心配そうに、こちらを覗いていた。

エネルギーが満タンになり、起動できた。

ファーネがしんどそうにしているが、限界まで注いでくれていたのだろう。


倒れていた身体を起こし、立ち上がる。


「ご心配をおかけしました」


「ほんとうに、エレクトで動くんだね」


「ますますお前の事が気になるの…」


「あれ以上はやめてくださいね…」


二人から嫌な予感が漂っていた。

好きにさせてたら、分解されかねない勢いだ。


「おぉ、そうじゃ!お前が言っておった“玉鋼”や“日本刀”じゃ!」


「あ、説明が途中でしたね」


私は、地面に映像を投影し改めて説明する。

情報類は基本的にクラウドを経由して、取り寄せていたがこの世界には存在しない。

過去に私が直接見聞きしていた、情報を元に映像を作り出し投影しているのだ。

いつ、クラウドから切り離されてもいいように、膨大な経験(記録)はAIと一緒に、次の体に入っていた。

おかげでこうして、資料として見せれている。


私が口頭で伝えるよりも分かりやすいようだ。

ファーネとグロガルの目が点になっている。


「ファーネ!戻るぞ!!」


「はいさ!!」


私と、コハクを残して工房に消えていく。

どうやら、すぐに作りたくなったようだ。

新しい技術を前に、子供のように飛んでいく。

私にも手伝いが出来るので、後を追いかける。


「コハクは行かないのですか?」


「うむ、先に行っておいてくれ、後で行く」


そういうと、その場に座り込んで考え始める。

先ほどの映像で気になる事でもあったのか。


先に行った二人を追いかけて、中に入る。

中は慌ただしく走り回っていた。


「おい!早く用意しろ!」


「やってるよ!ちょっと待てよ!」


こちらに気付き、顔を向ける。


「おぉ、来たか!さっきの映像出してくれ!」


私は言われた通りに、何度も映像を繰り返す。

後から遅れてコハクも中に入ってくる。

どうやら、外は暗くなり始めたようだ。


コハクは先に帰る、とだけ告げる。

タルトーとクベアの事も気になる。

私も行こうとするが、掴んで離してくれない。


「おい、獣族の王よ!こいつ借りるぞ!」


「かまんが、あまりいじめてやるなよ?」


「ははははっ!大丈夫じゃ!出来たらこいつを向かわせるから、多少時間をくれや」


「うむ、“日本刀”とやらが妾にも必要でな…」


そう言い残すと、店を後にする。

私は逃げれなくなり、店に残ることになった。

それからは休むことなく試行錯誤を繰り返す。

何度も失敗しながら…何度も、何度も。


ファーネも負けじと補助に徹する。

二人の息は、先程までの喧騒からは想像できないほどに噛み合っていた。


陽が昇る頃には、玉鋼を作る事が出来ていた。

二人は休むこともなく、作り続けていたのだ。


完成した玉鋼を握り、エネルギー切れを起こしたかのように、その場で倒れ込む。

心配して駆け寄るが、寝てしまっただけだ。


私は立ち上がり、店の外に出る。

するとコハクの姿が目に入る。


「おぉ、ご苦労じゃな」


「おはようございます」


「どうじゃ?」


「はい、玉鋼は出来ましたので、後は日本刀を作るだけとなりました」


「うむ…待ち遠しいの…」


「恐らく、コハクの手に馴染む物になるかと」


「妾も同じ事を考えておる……ようやくの」


あの後の、タルトーとクベアの事を尋ねる。

二人は目ぼしい武器を見つけて、試しも含めて魔物狩りに森の中へ入っていたそうだ。


「それにの、タルトーがクベアを鍛えると…」


「それは、強くなれるといいですね」


「ラクーンの面影を重ねたのじゃろうて、昔鍛えてやっていたからの」


「ラクーンが、タルトーにですか…それなら、クベアも喜ぶでしょう」


「そうじゃの、ふふっ」


話しをしていると、店の中から声がする。

どうやら、私を探して大声を上げている。

挨拶を残し、急いで店の中へと戻る。


「妾も待っている間、クベアを鍛えてやるかの…」




中に戻ると、二人が起き上がっていた。

少し寝ただけのはずだが、気力が溢れている。


「もっと休まなくて大丈夫ですか?」


「かまわん!早く、昨日の映像じゃ!」


「せめてご飯だけ…」


「んなもん後じゃ!」


そう言い切られると、何も言い返せなくなる。

私は、渋々映像を映し出す。

玉鋼ができたので、これから日本刀作りだ。


コハクの要望はすでに伝えてある。

出来上がりをイメージさせながら、説明する。


作った玉鋼を熱し、馴染ませながら打つ。

熱し、叩いて、水に入れて、叩いてを繰り返す。

不要な物を取り除きながら、慎重に。

その後はさらに熱し、折り重ねていく。

ある程度出来上がると、刀の形に仕上げる。


仕上げた物を焼いていき、日本刀が完成。

その後の研ぐ作業はファーネがやるそうだ。

手先が器用なので、細かい作業に向くとの事。


その間に、次へまた次へと作成していく。

満足のいく仕上がりとはなっていないようだ。

ここまで来ると、私の出来る事はなくなる。


合間に、女店主が怒りながら食事を運ぶ。

怒りながらも、二人を見て嬉しそうにする。


何度かコハクが訪れる事はあったが、まだ完成していないと告げると残念そうに帰った。

聞くと、タルトーとコハクが二人がかりで、日本刀の完成を待つ間、鍛えているそうだ。


クベアは見ていないが、タルトーは何度か訪問していた、魔道具を作るのに工房を借りに来ていたのだ。

私は工房に入ることを禁止されていたので、訪問しに来た時に、話し相手をしていた。



数日経ち、ようやくその日を迎える。

完成したのだ。

コハクの為の一振りが。


私は急いで伝えに向かう。


「コハク!ようやく完成しました!」


「まことか!?よし、すぐに向かうぞ!」


「おぉ!ようやくか、どれ儂も行こうかの」


「姐さんの剣ですよね?僕も行きます」


コハク以外も気になっていたようだ。

全員で工房へと向かうことにする。

気のせいか、クベアが逞しくなっていたな…。

何があったかは後で聞いてみよう。


工房に着くと、私たちを待っていた。

コハクの手を引きながら、以前にテストをした奥の広場へと向かう。

そこは、巻藁が設置されていたので試し斬りにはもってこいとの事だ。


グロガルの手には、布で巻かれた日本刀が握られる。


広場に着くと、布を外し、その目に見る。

細く、鞘に収まった日本刀が。


「ほれ、完成じゃ。受け取れ」


「…おぉ、これが……」


「なんじゃ?前と同じ細さじゃの?」


タルトーは同じ職人として気になるのか、興味津々で後ろから覗き込んでいる。


コハクが持ち手を握り、鞘からその身を抜く。


鋭い音を鳴らし、その美しい刀身が現れる。

全身を抜ききると、その輝きは一層増す。

美しく反り、揺らぐ火のような紋様を浮かべ。

側面は鏡のように、自身を映し出している。


言葉が出ないようだ。

その場にいた誰もが、刀身の美しさに目を奪われ、惹き込まれるように何も言えなくなっていた。




「ふはははははっ!言葉が出ないか!」


「ハゲじい…やったね……」


「ハゲじい言うな!」


「いでぇ!?」


また頭を殴る。

鈍い音が鳴り、全員が我に帰る。


「あ、あぁ…すまぬ…あまりの出来に…」


「これは何ともいえんな……」


「姐さんいいなぁー…」


クベアが羨ましそうに眺めている。

まるで、待てをされている子犬のようだ。


「や、やらんぞ!だめじゃ!」


「安心せい!お主にも作っておる、ほれ」


そういうと、コハクの渡された物より短い小太刀ほどの長さを2本渡す。


「短剣を持っていったと聞いておったからな」


「ありがとうございます!!」


早速、布から取り出して鞘から抜き去る。

子供のように、大喜びで振り回している。


しかし、こちらもタルトーに殴られた。

危ないと怒られ、頭を抱えうずくまる。


「おい、グロガルや…これはもしかして…」


「おっ?気づいたか?」


コハクが、驚いたようにタルトーを見る。

タルトーも笑みを浮かべていた。


「がはははっ!気づいたか、流石だな」


「知っておったのか…?」


「当たり前じゃ、儂が少々手を貸しておったでな。まぁ、完成形を見たのは今日が初めてだ」


「ち、違う!そうじゃなくて纏の…」


「何年側にいてると思う、お前さんの親父からもお願いされておるしな…」


話が見えてこないので、何をしたのか聞く。



刀を作る過程で折り込んでいく際に、砕いた魔石を混ぜ込んで作ったそうだ。

柄の部分をトレントの魔物素材で作成。

刀でありながら、杖の役割を果たす事に成功。


「これを俺は、【魔術刀マジュツトウ】と名付けた」


「魔道具と、鍛治師の合作じゃな」


「お主ら…これならもしかして…」


「言っただろ?親父に頼まれたとな、“何かあったらコハクの力になって欲しい”とな。前から悩んだおったのは気づいていたが、儂では形に出来なかった、すまなかったな……遅くなって」


コハクが涙を流しながら、頭を下げた。

二人に心の底からの感謝を何度も、何度も。

タルトーもつられて涙を浮かべ、笑っている。


「さぁ、コハク。試し斬りを見せてくれ」


涙を拭い、巻藁の前まで歩いていく。

再びその手に刀を握り目を閉じる。

全身を集中させ、力を込めていく。


(…ありがとう)


《 炎ノ纏ホノオノマトイ焔羅ホムラ 》


あの日見た炎とはまた違っていた。

猛る荒々しい炎ではなく、優しく包み込む暖かい炎でその身に纏っていた。

吐き出す炎は、次第に落ち着いていく。


徐々に、羽織へと形を変えていきながら。


「おぉ、見てるか。お前の娘はやり遂げるぞ」


形作られた炎は羽織となり、その身を纏う。

美しく、触れると溶けてしまいそうな程の熱量を帯び、静かに佇みながら。


コハクは静かに、深く呼吸をする。



[ 狐月流コゲツリュウ 一ノ太刀イチノタチ …… ]


目を見開き、巻藁を見据える。


[ 円月斬華エンゲツザンカ ]


足を軸に、華のように美しく廻天する。

その剣筋は満月を描くように魅せる。

斬られた巻藁は、2つに分かれ燃え上がる。


燃え尽きた灰を散らしながら、消えていく。


散りゆく灰を背中に、刀を鞘に納める。


「ぶっ……はぁーーーっ」


纏っていた炎が、周りに消えていく。

維持しているのも限界みたいだ。


「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ………」


「お、おい大丈夫か!?」


「はぁーっ……ふふ、ふふふふふっ…」


「おい、コハク?」


声高らかに笑いを上げる。

悩みが吹き飛ばされるように、天に向かって。


「タルトーよ!本当にありがとうー!」


コハクはタルトーに飛びつく。

そのまま倒れ込むように、地面に背をつける。


「お主のおかげで光が見えたぞ!」


「がははははっ!そりゃ良かった!」


「まだまだ、制御が出来ぬがこれはいい!」


タルトーの上から飛び上がり、グロガルの方へと顔を向け同じく感謝を伝える。

よほど嬉しかったのだ、笑顔と涙が混じる。


「グロガルよ!この刀に銘はあるのか!?」


「銘とな?」


「ナディの映像にあったじゃろ!優れた刀には刀匠が銘を打つと!」


「おぉ、考えておらなんだわ…」


「なら、妾が銘を授けるとしよう!」


あまりの嬉しさに、グロガルの言葉を遮る。

しばらく考え、コハクは刀の銘を決めた。


手に持つ魔術刀を天に掲げ、銘を告げる。


【 魔術刀まじゅつとう 炎獄断エンゴクダチ 】


「地獄のような日々を、妾の炎で断ち切る」


「いい銘ですね」


今の私に腕はないが、手を叩きたくなる。

代わりに皆が手を叩き、喜びあった。

いつの日か、この銘が現実となるようにと。

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