【第18話】テストの結果

「 それでは……“はじめ”!!! 」


私の号令と共に、ファーネが飛び出す。

かなり大きい大剣を携えているはずなのに、動きは軽やかに駆け出している。

コハクは余裕があるのか、迎え入れる。


射程圏内を捉えたようだ。


飛び出した勢いを大剣に乗せ薙ぎ払う。

が、コハクは迫り来る剣筋に、剣を添えて流す。

流された大剣は、怯むことなく二撃目を備え。


自身を軸に回転しながら襲いかかる。

より速く、豪快な回転斬りとなって。


間合いは、先ほどより迫っている。

剣筋をもう一度読み、剣を添え、待ち構える。


読みは外れた、大剣はコハクに届かない。

ファーネは地面に突き刺し、それを自身の支えとして、強烈な飛び蹴りで襲う。


一瞬の隙をつかれ、後方へと蹴り飛ばされる。

体勢は保ちつつそのまま剣を構える。


「ほほぉ、やりおるの…」


「まだまだです!」


土煙を上げ、弧を描くように大剣を構える。

今度は、コハクが仕掛ける。


ファーネとは違い、静かだ。

鋭い剣戟が、雨粒のように降りかかる。

静かに、剣の衝突する音だけを鳴らしながら。


それを全て大剣の面で受け止める。

何度か防ぎ漏らすが、体を捻り避けきる。

なかなか攻めに転じる事が出来ないようだ。

次第に、苦しそうな表情を浮かべる。


コハクの剣戟は止まらない。

少しずつ隙を突いていき、追い詰める。


ファーネは反撃に打って出る。

大剣の面を、押し当てるかのように打ち出す。

もちろん、剣は弾き飛ばされる。

その間に後退し、体勢を整える。


身体を半開きに向け、少し腰を落とす。

両の腕を前に構え、深く息を吐く。

コハクはその隙を見逃さない。

追い詰めるように地面を蹴り、間を埋める。


[ 竜陣空拳りゅうじんくうけん 火龍かりゅう


ファーネの気配が切り変わる。

先ほどよりもさらに荒々しく猛る。

降りしきる剣戟の雨を、全て弾いていく。

を撃ち込む場所を見極め、一つ一つ。


まさに、雨が蒸発して消えていくように、コハクの剣が届く事なく、その場で散っていく。


たまらなくなり、その場から飛び離れる。

両者共に最初の位置へと立ち直る。


「面白いのぉ、お主」


「はぁー…はぁー…まだ、やれます…」


「ふむ、色々聞きたい事はあるが、こちらも隠しているものがあるのでな…」


コハクは全身の力を抜き、覇気がなくなる。


「妾も“業”というものを、見せようかの…」


静かに剣を構えるが、何も感じない。

先程までの静けさとは違う、何も無いのだ。


[ 狐月流コゲツリュウ 三ノ太刀サンノタチ …… ]


コハクがファーネの背後にいる。

だが、気がついた時にはファーネが倒れた。


[ 虚実月影キョジツゲツエイ ]


「虚か実か、月が作り出す影に入ると月が見えなくなるじゃろうて。作るは自分自身だと気付かずにの」




「ゴホッ…ゴホッ… はぁー……負けた…」


倒れたまま、その場で横たわっていた。

手で目を覆い、流れる涙を隠していた。


「すまんな、手加減できんかった。大丈夫かの?」


コハクが心配そうに顔を覗き込んでいる。

私も、二人の元へと駆け寄る。


「はい…大丈夫です、流石ですね」


「なんの!お主も見事じゃった!」


「へっ?」


「最後の猛攻じゃが、見事なもんじゃ」


「でも…負けてしまった、です」


「ん?勘違いしておらんか?」


テストの合否は勝ち負けだと思ったらしい。

負けたのだから、大峰魔山には行けないと。


「え、これはテストだって…」


「そうじゃ?テストじゃて…」


「だから…手も足も出なかったから…」


「安心せい、妾に蹴りを入れた時点で合格じゃ」


「でも、続いていましたよね?」


「お主の限界を見たかった、これから危険な山に登るのじゃ、手の内は知っておきたいしの」


「これから…あの山に、私も?」


「そうじゃ?おかげで最後のも知れたしの」


ファーネの瞳から涙が溢れ出る。

大きな泣き声を上げながら、喜んでいる。


「それにの、最後の妾の攻撃を防いだのは未だかつて…このナディだけじゃ」


「え?私がですか?」


「ほれ、魔の森での」


「あ、あぁ…あれですか」


「ほれこんな程度じゃて、気にするでない」


「僕にはわけが分かりませんでしたよ」


「あれはの、“虚”と“実”じゃ」


「 ? 」


伝わってないのか、詳しく説明しようとする。

大丈夫だ、このAIを持っても理解は難しい。


「簡単に言うとの、自身の攻撃に意識を乗せるか、乗せないかな違いじゃ。意思なし攻撃は気づかぬものよ」


「ははっ、難しですね…」


「また教えてやろうぞ……そうとは言え、お主じゃ」


「は、はい?」


「なんで最初から使わなんだ?様子見かの?」



ファーネ曰く、最後に使ったのは無刀…すなわち剣を用いない戦闘方法として、編み出したものだそうだ。

剣の代わりに、五原を核として型を作る。


《火》…猛る火のように激しく荒ぶる。

《風》…掴めない風のように自由に動き回る。

《土》…大地のように不動にして守る。

《電》…電流のように不規則に迅く走る。

《水》…優しく全てを流していく。


何度か、剣を用いてこの戦闘方法を取り入れようとしたが、体がついていかず形にもなっていないそうだ。


「なるほどの、よく考えられておるの。妾もお主と同じじゃな」


「同じとは?」


「妾も狐月流の剣術を、纏を発現させながらやろうとしたが上手くいかぬ」


「あんなに強かったのに…」


「お主も強かろうて、妾と同じくまだまだ強くなれるのじゃこれからもよろしく頼む」


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


二人は握手を交わし、確かな絆が芽生える。


「おぉ!よかったのー!!!」


「げっ!?ハゲじい!近寄んなよ!」


「良かったの!良かったのー!」


「ちか…寄んなって、の!!」


よっぽど恥ずかしいのか、照れ顔を隠しながら、近づいてきては蹴飛ばしてを繰り返す。

何度か同じことを繰り返していると、こちらを向き。


「ありがとう!ファーネを宜しく頼む!」


土下座をしながら、こちらに感謝を伝える。

コハクは照れくさそうにしている。


「こちらこそじゃ、こんなに強いなら妾たちからもお願いしたいぐらいじゃしの」


改めてお礼を伝える。

よほど、嬉しいことなのだろう。

満面の笑みに、涙が頬を伝っている。


「なら!お前らの武器や装備は最高の物を作ってやる!この【グロガル】が責任持ってな!」


そういえば、初めて名前を聞いた気がする。

このお爺さんはグロガルというらしい。

店内の武器を見ている限り期待はできるが…


「妾の剣をお願いしたいが、店の中にあった物ではなかなかの…」


「ぐむむむむぅっ……ならオーダーじゃ!一から作ってやるわい!」


「感謝するぞ、容赦せんからの?」


二人がオーダーメイドの話をしようとする。

私に思い当たる事があり、二人を止める。


「あ、あの…」


「ん?どうしたのじゃナディ」


「最初にお伝えした“お話し”なんですが…」


「なんじゃはよ言わんか!」

 

「“玉鋼”という物に聞き覚えは?」


「しらん!」


「なるほど…」


「ナディよ、その…たま、はがね。とは?」


私は自分の中にあるデータの中から、玉鋼の製法とそれによって作られる“日本刀”について説明する。

言葉だけでは伝わりにくかったので、映像でも伝えようとするが…


「あ、マズイです…エネルギーが…切れそ」


「それはまずいぞ!おい、ファーネや!お主エレクトを使えよったな!?頼む!」


「え?あ、はい!」


「ここ……で… あな……あけた…そそ……」


「ファーネよ!急ぐのじゃ!」


薄れゆく意識の中、慌てた二人が穴の中にエレクトを放っていくのが確認できた。

とりあえず安心して、電源が落ちていく。

完全に落ちると100%になるまで、起動しない。

このまま、待つしかないのだ。




〜 遠いコハクの過去 〜


「はぁーっ!!とぉう!!!」


纏を発現させ、全身に炎を纏う。

安定した揺らぎを見せる。


「ここまでは順調、後は……」


コハクが剣を握ったまま構える。

纏を解かずに、狐月流を扱おうとしている。

目を瞑り、神経を研ぎ澄ませる。


「よし…一ノ《イチノ》…」


すると、纏が四方に散っていく。


「あぁ…また失敗だ…」


「ははははははっ!!コハクよ!またか!」


「あっ!お父さま!!」


コハクは父の元へと駆け寄る。

抱き上げられ,無邪気に喜ぶ。


「また失敗したところ見てたでしょー!」


「すまんすまん!ついな!」


コハクを降ろし、腰を落として目線を合わす。


「纏いを発現しながら、狐月流で動こうと?」


「うん!これが出来たら凄いでしょう!?」


「あぁ!凄いさ、俺にも出来ないのだからな」


「だからね!これが出来るようになってお父さまに教えてあげたいんだ!」


コハクの笑顔が眩しく笑っている。

子が親のためにしようとする事は、親が子にしてあげたいと思う事と同じなのだろう。


「おぉ、そうかそうか!それは頼もしいな!」


「だから、コツとかないかな?」


「あれ〜?俺に教えてくれるんじゃないか?」


「違うもん!ちょっとだけだもん!」


「はははははははっ!そうかそうか!」


「また馬鹿にしてーっ!」


コハクは頬を膨らませ、怒り顔を向ける。

大きくなったと思ったが、まだまだ子供だ。


「そうだな…俺のお祖父様に聞いた話だが…」


纏とは己が身に羽織る衣也。

狐月流とは己が研ぎし刃也。

衣を纏い、刃を握りたし。

自然の一部と化し、舞いたれば。

纏刃マトイノヤイバ)・|孤月羽織《コゲツバオリ、完成すべし。


「って聞いた事があるな…」


「けち!意味わかんないもん!」


「そりやぁ、意味がわかれば俺だって…」


「いいもん!自分でなんとかする!ふんっ!」


「はははっ…いいさ、俺を越えていけ」

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