【第17話】戒族の遺産を知る者

私たちは翌日、村の中を案内されていた。

着物のようだが、動きやすい和装といった感じだろうか、渡された衣服にそれぞれ身を包む。


コハクは何を着ても絵になる、絵画から飛び出してきたような美しさだ。

タルトーは良く似合う、豪快な感じが増した。

クベアは…服に着られているな…うん。


私はと言うと、アンドロイドに和装というのも違和感があるのに、腕がないのも相まってこけしの様だ。

三人がこちらをみて笑っている気がする、私は気にしない心のないアンドロイドだから。

気にしない、気にしないのだ…一切。


「お主、似合わんのぉ」


「腕があれば似合います」


「失礼ですよーー」


「なんじゃ?クベアこそ思っておろう」


「がはははっ!そういうな!男の勲章よ!」


「気にしてませんから…」


「おや?その感じは気にしとる…くっくくく」


「あ、姐さん!着きましたよ!」


慌てて目的のお店を指差す。

先程、セイから貰った地図を頼りに来ていた。

武器や装備を整える為に。


というのも、コハク曰く。

そびえ立つ山の向こうに、戒族の遺産が眠る地があるらしく、山越えの為に必要らしい。

この山は、【大峰魔山だいほうまざん】と呼ばれており、山に住まう魔物の強さもさり、山越えにはかなり苦労するそうだ。


お店に入ると、様々な武器が並んでいた。

奥には工房もあり、ここで作っているようだ。

こちらを見て、優しそうな女性店主がきた。


「やあやあ、いらっしゃい。セイの旦那からは話を聞いているよ、大峰魔山を越えるんだって?」


「うむ、その為に色々と入り用でな、すまんが世話になる」


「かまわんよ、好きなだけ見ていきな」


「感謝する」


店主と話をつけると、各々自身に合う装備を探しに店内を物色していく。

私は、特に見るものがないので見て回るだけ。


(剣に大槌に短剣、槍…なんでもあるな)


コハクは剣、タルトーは大槌、クベアは短剣を物色している、手に取りながら馴染む物を探す。


「あんたは…いいのかい?」


「私、ですか?いえ、腕が無いので…」


「そっかい…そりゃ失礼な事を聞いたね」


「かまいません、“男の勲章”らしいですから」


「ははははっ!そゃいいね!命あってのものさね!生きているだけ儲けもんだよ!」


店主は、力強く私の背中を叩く。

少しよろめきそうになるが耐えた。


「たわけが!!またお前は!!」


お店の奥から叫び声が聞こえる。

誰か言い争いでもしているのだろうか。


「まーたあの二人…いつものだ気にしなよ」


奥から女の子が飛ばされてきた。

そのまま転がり、外へと放り出される。


「いっててててて…ハゲじい!やりやがっ!」


また奥から金槌のようなものが飛んでいき、飛ばされた女の子へ直撃する。


「へぶっ」


「ふんっ、一丁前な口を聞きやがって…」


奥からは小柄なお爺さんが出てきた。

革の手袋をはめ、エプロンのような物を着る。

全身はすすで薄汚れていた。

彼が、ここの武器などを作っているのか。


「…は…ハゲじいのボケカス!」


「ふんっ、ハゲとるんではない!剃っとる!」


「うっせぇ、ハゲじい!」


二人が言い争いを続ると、店主が止める。


「はいはい、そこまで!お客さんの前だよ!」


「ふんっ、そこらでもくたばっておれ」


そう言い残して奥へと消えていく。


半泣きになった女の子だけが、取り残された。

何とも言えない空気が漂っている。

誰も触れずにいたいのか、武器に目をやる。


私も関わらないように、後ろを向く。

すると、背中を叩かれる。

仕方なく、女の子の方へ顔を向ける。


その目はとてもキラキラしてこちらに向ける。

立派な牙が生えており、腕に鱗もある。

ツノはないが、竜族の人だろうか。

年齢は16歳ぐらいかな?


「ど、どうかされま…大丈夫ですか?」


呼ばれた事より、心配の方が勝つ。


「あんた、なにもんだ?」


「私はナディといいます」


「名前じゃねえよ!おいおい!この身体!」


「!?」


突然、着ていた服を脱がされる。


「すっげーー!なんで動いてんだ!?なにで動いてんだ!?どういうこと!?なにこれ、なにこれ!」


これは質問ではないが、大量に聞いてくる。

全身を隈なく触り続け、中々止まらない。


「あ、あの…」


「腕ねぇじゃねか!一大事だなぁ!」


「いえ、あの…」


「ちょっと待ってろ!!」


「あの〜…」


私を置いてきぼりにし、店の奥へと消える。

嵐のような騒がしさ、突風のような速さで。


「なんじゃお主、気に入られたのかの?」


「なにがなんだか…」


「嵐の子供のようなやつじゃの」


「はい、何が起きるのか…」


また奥の方では、言い争っている声と、何かがぶつかったり、崩れたりするような音がする。

本当に大丈夫なんだろうか…


「お待たせ!!これならどうだ!」


戻った彼女の手には…腕?が握られていた。

それは、金属のようなもので覆われていた。

形は確かに、腕だが。


《 エレクト 》


彼女は、持っている腕にエレクトを流し始めた。

すると、指先がぴくぴくと動き始める。

ただ、全体は動かない。


「どや!?」


…と言いながら、ドヤ顔をしている。

期待の眼差しをこちらに向けながら。


「え、えぇーっと…ありが…とう?」


満面の笑みが彼女から溢れる。

すると、彼女の後ろから拳骨が飛ぶ。


「いでぇ!?」


「まーた、お前は!そんな気味の悪いものをお客様に見せおって、この馬鹿もんが!!」


「ハゲじい!んっ!」


彼女が殴られた頭を押さえながら、こちらを指差す。


「なんじゃ、お前…」


「んっ!!!」


「ん?…おお?…おおおおお!?」


「むふーっ!どうだ!」


「これは美しいの!!なんじゃこれは!!!」


「でしょ!?でしょ!?」


「あぁ!これは美しい!かつて戒族の

生命人形ゴーレム〟や、〝人造体ホムンクルス〟をみてきた儂でも驚いたぞ!ここまで洗練されておるとは…」


「私のと一緒じゃん!?」


「たわけが!」


また、彼女の頭上に拳を振り下ろす。


「いってぇ!ばかすか殴んなよな!」


「お前は馬鹿だから十分だ!」


「何がだよ!一緒じゃんかよ!」


「よく見よ!ちゃんと、細部まで可動しており、意思疎通もちゃんととれておる!みろ!儂らをみてあたふたしておるじゃろ!?」


分かってるならちゃんと説明して欲しい。

二人だけの世界で話をされても困る。


「うぐっ……」


「お前の作った、動くか動かないかもよく分からん代物と雲泥の差じゃ!」


「何も言い返せんね」


「じゃろが?お前には到底無理じゃ!あの、をちろーっと見ただけで、理解もできやせんわ!」


「でも、でもあれがあれば!」


「分かったら、さっさと剣の腕を磨かんか!」


そういうと、女の子を連れて奥へと消える。

また、私を置き去りにして。

気になる言葉も聞こえていたのだが。


「いやぁ〜ごめんね、騒がしくてさ」


「いえいえ、驚きはしましたが」


「あの二人はいつもあんな感じでさ…許しておくれ」


「店主よ、戒族の遺産を見たと言っておったがまことか?」


「いや〜それがわからんさね。あの子が言っているだけで、山を越えた事もなければ、この里に戒族に関する書物があるとも言えない」


「ふむ、山を越えたら戒族の遺産があるとは聞いておったが、本当かどうか確かめようと思ったのじゃが」


「それならじっさんに聞くといい、さっきの」


「そういえば、詳しそうな口ぶりじゃった」


「付き合いが深かったみたいよ〜、私は知らないけどね」


「うむ、ありがとう」


「私もついていきます」


私はコハクについていき、店の奥に入る。

後ろの二人を見ると、どうやらタルトーがクベアに色々教えながら選んでいるようだ。

二人には後で声かけます、とだけ伝え中に入る。


中は工房で、大きな炉と金床が置かれてある。

ここで鉄を打ち、剣などを鍛えるみたいだ。


「あれ、コハクは剣を選んだのですか?」


「それがのぉ、昔っからそうなんじゃが、手に馴染む剣に中々出会わなくての…」


「この前使っていたやつは?」


「細い剣が好みでの…ただそうなると突きが主になるじゃろ?妾はの、ある程度の細さで耐久力と火力に耐え、しっかりと斬れる物がいいのじゃ」


「なるほど……纏でしたっけ?凄かったですもんね」


「あっ!纏といえば、お主!バタバタして…」


コハクの話しを遮る形で、叫び声が入る。


「なんじゃあ!お前らはぁ!神聖な場所にズカズカと入り込んできやがって!」




「先ほどはどうも」


「おぉ!なんやお前か!入れ入れ!構わん!」


「少々お話しと、伺いたい事があり…」


「なんや改まって」


私が異世界の物であり、造られた存在である。

戒族の遺産を探し、解読したい事。

山を越えた向こう側に戒族の遺産はあるのか、などを伝える。


「ふむ…戒族の遺産……の」


「先ほど、あちらの子が戒族の遺産を見たと」


「お前ら、名は何と言う」


「えっ、あ…申し遅れましたナディです」

「妾はコハクと申す」


「ナディ、コハク…話すには条件がある」


「条件とは?」


「あいつを、山の向こうへ連れて行ってくれ」


突然の言葉に驚く。

あの子には聞こえていないようだ。

私たちだけで話を続ける。


「なぜじゃ?危険な旅になるぞ」


「分かっておる、お主…獣族の王じゃろ?」


「分かっておったか…」


「分かるわ、儂の剣に納得いかんと言えるのはよそ者だけじゃ」


「これは失礼した」


「構わん、それより大峰魔山の事じゃがあの子を連れて行って欲しいのはな…」


昔、戦争で両親を亡くし引き取って育てた。

二人は竜族だが、その頃から戒族と交流をしていた。その後、種族ごと根絶やしにされ、あの子は家族以外の繋がりをなくした。

あの子を抱え、逃げるようにこの里に来た。


今となっては、両親のいない唯一残された繋がりが、戒族の技術なんだと。

それを見せることができれば、思うがままに自由に生きれるかもしれない。

今は、この工房に縛り付けられるよう、剣を打ったり出来損ないを作り出す事に没頭した。


それを見ているのが耐えられないとの事だ。


「話しは理解した、じゃがその条件は飲めん」


「なっ!?」


「理由は二つ、あの子を守りながら、妾たちにはナディも守らないといけん」


「……」


「もう一つはあの子の意思じゃ、無理矢理連れて行ったところで足手まといになるだけじゃろ」


「なるほど…」



「僕いくよ!!」


全員が振り返る。

震えながら、力強くこちらを見つめる姿を。


「足手まといにだってならないや!これでも竜族の端くれ、戦いだってお手のもんさ!」


胸を叩いて答えるが、声が少し震えている。

無理もない、行きたいけど…怖いのだろう。

初めて会った人たちが、唯一船を出す存在。

信頼していいのかも分からないのだから。


「儂からも頼む!知ってることは全て話す!」


「僕も!お願いしりまする!」


二人はコハクに頭を下げる。

コハクはしばらく考え、頭をかきながら悩む。


「コハク…守られる身でありながら、言う事ではありませんが、テストしてみてはどうですか?」


「テストじゃと?」


「はい、一対一の模擬戦などいかがですか?」


「ふむ、一理あるの…お主、名は何と言う」


「はい!僕は【ファーネ】と言います!」


「ファーネか、受ける気はあるかの?」


「もちろん!やってやります!」


「とまぁ、こんな感じじゃがええかの?」


「かまわんさ、お前らの目で見極めてくれや」


そう言うと、奥の木剣を二本取り出してくる。

お互いに怪我をしないように木剣でやるそう。

場所は、お店の裏手に試し切りなどができる、広い広場を設けているので、そこに向かう。


工房の裏口を出て、外へと出る。

人間の形をした木や、巻藁などが置かれる。

普段は、作った武器の試しを行うらしい。


立ち合いは、私が行う。

両者共に距離をあけて、立ち構える。

コハクは片手に木剣を握り、半身に構え。

ファーネは両手で握り、大きめの大剣を構え。


お互いに、馴染みある武器での闘いとなる。

二人は張り詰めた後のように、その場に立つ。

お互いに睨み合い、私の合図を待つ。


「それでは!これより、私の“はじめ”の合図と共に始めてください!」


「うむ」

「はい!」


「極力寸止めでお願いします!お互いに大怪我をしないように、あくまでもこれはテストですから!」


「…」

「…」



私は後ろに下がる。

「 それでは……“はじめ”!!! 」

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