【第16.5話】八獄衆

俺があの日、召喚された大広間に呼ばれた。

部屋に通されると、ホウキとカルラもいた。

何やら重たい雰囲気が流れている。

それもそうだろう、昨晩に大失態を犯した。


ラザール王の険悪な表情に、二人は顔を上げれず、片膝をつきながら頭を下げていた。


「来たか…王燐よ…、近くに寄れ」


今はただ、言われるがままに動く。

頭を下げ続けている二人の横に、堂々と立つ。


「なぜ…お前たちが呼ばれたか分かるか?」


刺すような殺意がこちらに向けられる。

重く、潰されるような声には流石に堪えた。


「王様こそ、負けたんじゃねえの?」


さらに周囲がひりつく。

ざわつく事もなく、ただただ静かに。


「…確かに、我は負けた…」


思いもしなかった返答だろう、ホウキとカルラが勢いよく顔を上げ、ラザール王の方を見る。


「この身に傷を負い、あの戦いでは負けた」


「そんなことはありません!王よ!まだまだ負けてなどおりません!」


「…うん、カルラの言う通り、まだ…負けてない…」


「魔王心が盗まれ、兵士の被害も甚大…」


「そ、それは…」


「だが、お前らの言うように、まだ負けていない」


「王よ…」


「どうしたらいいと思う?」


「はっ!俺が全員ぶち殺してやるよ!!」


「…無理、私が殺る」


「俺に任せておけ!王よ!俺が打って出る!」


ラザール王はしばらく沈黙する。

何か作戦でも考えているのだろうか。


「ホウキ、カルラよ。」


「はっ!」

「…はっ」


「お前らは、王燐の育成に専念せよ」


「あぁ!?また魔の森とやらに!?」


「お、王よ!何故、討伐を命じてくださらん」

「うん…私も討伐に向かうと思った…」


「お前らには魔の森の魔物を殲滅して欲しい、それを持って王燐の光の力を解放してほしい」


「…それなら、トリトに行かせるから大丈夫……私は奴らの討伐に向かう」


「あ!?ずるい!俺も同じ部下をつけます!」


話し合いをしていると、扉が勢いよく開く。

見慣れない姿をしている集団が、扉の向こうから入ってきたのだ。


「おうおうおう!!しけた面してんなぁ!」


「あまり煩さくしないで…神が泣きます」


「泣いてんのはいっつもあんたじゃん」


「ねぇ……だるいんだけど…帰っていい?」


「ギャハハハハハッ!酒をよこせ!」


「お前らぁ!熱意が足りん!ファイアー!」


「お前ら歩くの早いだ、もっとゆっくり」


「はぁ〜…こいつらと同じか…まさに“地獄”」


面妖な風貌の集団が俺たちの前で止まる。

目線の先には、ラザール王がいる。


全員が同じ動きをする。

頭を下げ片膝をつき、声を上げる。


「地獄の王よ!我ら八獄衆ハチゴクシュウここに集まりました!」


「うむ、よくぞ集まってくれた。」


「なんなりとご命令を…」


ホウキとカルラも彼らを知らないようだ。

二人は顔をを見合わせ、首を横に張っている。


「王燐、ホウキ、カルラよもう一度言う、追わなくていい光の力を解放させよ」


「まさかとは思うが王よ!こいつらに!」


「……こんな得体の知れないやつらに?」


「くどいぞ…」


「なっ!?」

「えっ…!?」


後ろから笑い声が聞こえる。

得体の知れない奴らが笑っている。

俺が笑われているのかと思うと、だんだん腹が立ってくる。


「何笑ってんだテメェら!!」


「五月蝿い、ゴミが…」


真ん中にいた男が俺に喧嘩を売ってくる。

買ってやろうか、売られた喧嘩は買うぞ。


「おい、王燐は大事なのだ…殺すなよ」


「んだと!?俺がぶち殺してやるよ!」


と息巻いて、振り返ったはずだが。

天井を見上げていた。

体が床にめり込んでいた。

何が起こった?何をされた?


上からさっきの男が顔を覗かせる。


「お前にはお似合いだよ…ゴミ」


体を起こそうとするが、起きない。

指一本動かせない。

声もあがらず、何をされたか分からない。


「よい、やめよ…十分だ…」


ラザール王の一言と共に、体が動く。

声も出せるようになっていた。


「んだ…なんだテメェ…何しやがった!!」


「分からないようじゃ、無理…」


男は他の奴らを引き連れ、出口へ歩く。


「んじゃま、首を持ってくるよ」


そう言い残して、八獄衆とやらが姿を消す。

残された俺たちは何も言えなかった。

ホウキとカルラですら、何も言えなかった。

ラザール王だけが口を開く。


「これ以上は言わんぞ、ゆけ」


「はっ…」

「は……はい…」


俺は二人に体を起こされ、連れて行かれる。

結局あいつらが何者か分からずに。

何をされたかも分からずに。

俺はいつになったら勝てる?

この世界では、強者になるんじゃねぇのか?


度重なる敗北に、嫌気がさしてくる。

ただ、それ以上に俺を連れて出て行った二人の顔が鮮明に残っていた。

悔しそうで、虚しそうな二人の顔が。

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