【第16話】竜族と妖族の王

目の前の男は笑っていた。

見た目は人のようだが、ツノが生えていたり、腕には鱗のようなものも見受けられる。

指からは爪も生えており、かなり鋭そうだ。

服装は……和装に近い。


竜のイメージらしい特徴が、いくつかある。


それに、疲労が溜まっていたとはいえ、コハクの剣を一撃で切断したのだ。


「いやー!はっはっは!お久しぶりですな!」


「いきなり斬りつけおって、剣が折れたぞ」


「すまん、すまん!許せ!」


顔馴染みなのか、お互いに砕けて話している。

タルトーも同調するように笑う。


「がはははっ!お前じゃったか!久しいの!」


クベアは知らない顔らしい、開いた口が塞がっていない。


「久しいの、息災か?」


「うむ!元気にやっておる!……そっちは、色々あったようだな」


こちらを見ながら竜族の人が話す。


「そうじゃ、話がある、通してもらいたい」


「いいぜ、付いてこいよ……ちなみに、妖族のおっさんも遊びに来てるぜ」


「ほほう…そりゃ都合がいいの」


私たちは、竜族の彼に引かれるよう歩く。

次第に森が険しくなる、足元もおぼつかない。

歩きにくいところは、クベアが支えてくれる。


森も深くなり、山との距離も近づいたのか、遠くに見えていた山の頂が、いつの間にか見えなくなる。


「おい、まだかの」


振り返りながら、指をさす。

指の先には豊かな里が広がっていた。



「もう着いたぜ?ようこそ、竜族の里へ」


ようやく、目的の地に到着したらしい。

そのまま里の中へと案内される。

建物は、昔ながらの木造民家を真似たような作りだ。

奥には田園風景も広がり、川も流れている。

ここで隠れながら、自給自足の生活を送っているらしい。


「“コハク”はなにしてた?」


「歩きながら話す内容ではないわ」


「はははっ、それもそうか!じゃないとこんな森の奥にまで来ないよな!ボロボロの姿で」


「一言多いわ、昔から変わらぬの…」


「がははははっ!コハクに告白した、生意気なガキンチョがここまで大きくなったんだ!変わったろ!」


「ばっ!いつの話だよ!!……相変わらず爺さんも、元気そうで何よりだよ、ラクーンと二人で向かっていった頃を思い出すよ」


「千切っては投げられ、千切っては……って、あれ?ラクーンはどうした?」


「………」

「………」




「…そっか、ラクーンが……そっか…」


「後で詳しく話す…」


「…分かった」


それから会話は無かった。

里の中を進んでいき、里の中央付近に位置する、ひときわ大きな建物へと案内される。

中には大きな丸いテーブルがあり、囲むように丸い座布団が置かれていた。


部屋の中には一人だけ座っていた。


「おーい!おっさん!すまん、待たせたな!」


どうやら、彼が妖族の一人らしい。

人というよりは動物?に近い。

四枚の翼を背中から生やし、目が3つある。

くちばしもあり、全身は灰色の羽毛で覆われている。

手足は人と同じ形をしている。


「遅い!どれだけ待たせるつもりだ!」


「いや〜悪い悪い!ごめん!」


「ったく、こっちがわざわざ出向いてるのに…」


「仕方ねえって、ほれ!あれ見てみ」


「あぁん?………おっ!?」


彼は急に立ち上がり、こちらに迫る。

すると突然、拳を握りタルトーを殴る。

タルトーはそれを腕で防ぎ、逆の腕で殴る。


そうした応酬が何度か続いた。

その光景を見て、コハクは笑っていた。

どうやら、大丈夫なんだろう。


暫くすると、二人が手を握り合う。


「がははははっ!衰えとらんな!」


「お前もな…くたばっていなかったか」


「なんの、なんの!またまだくたばりゃせん!」


「当たり前だ…俺が殺す、死ぬ事は許さん」


「がははははっ!変わらんな!」


何やら物騒な会話が聞こえる。

仲が良いのだろうか?悪いのだろうか?

コハクは変わらずずっと笑っていた。

昔の顔馴染みに囲まれたからなのか、安心したからなのか、変わらないやり取りがあったからなのか。

私には分からない。


「それで、タルトー?ここまで何しに?」


「おぉ、そうじゃ!コハクから話があるので」


「そそ!その為にここまで来たらしいんで、お二人も含め、とりあえず座りません?疲れたでしょう?」


私たちはセイに案内され、それぞれの座布団に座る。

飲み食いが必要ない私以外の目の前に、料理が運ばれていく。


「突然の来訪だからな、急ごしらえだ、許せ」


「かまわん、ありがとう。」


「それで…食べながらで構わん、何しに?」


「その前に自己紹介じゃな、新顔もおる。隣からナディとクベアじゃ」


「ほう…」


「見ての通りの腕なしじゃが、理由もある」


コハクは食事の手を止め、話し始める。

私が召喚されてきたこと、光の力を持つ者が現れた事、人族から逃げ出し、魔王心を奪還し。


「それで、そこから逃げる折に……タルトーと、ライタが…妾たちを……逃がすために………」


「儂が付いていながらこの有様じゃ…」


「そっか、辛かったろう…力になれず、すまん」


「かまわぬよ、元より妾たちだけで動いただけ、二人も覚悟の上だったじゃろうて」


「そうだぞ、謝るよりありがとうだな!がははっ!」



「くそがぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」


突如、セイが叫び声を上げる。

それと同時に机を殴ったのか、セイ名前だけ粉々に砕けていた、拳に血を流しながら。


「落ち着け、セイ……俺らにも何も出来なかった」


「分かってるよ!!分かってるけど、ダチが…ダチがそんな時に……俺は…」


「悔いても…変わらん」


「そうじゃ、あいつらも後悔はないはずじゃ」


「あ、あぁ……すまねぇ、取り乱した」


涙を拭い立ち直す。

セイは再び座り込み、話を聞く。


「さて、続けてくれるか?」


「そうじゃな…これが、奪還した魔王心じゃ」


クベアが、机の上に袋から黒い箱を広げる。

奴らが、黒闇ノ棺と呼んでいた箱を。


「これが、魔王心か…確かに先代を感じる」


「じっさま…」


「じゃが、箱すら開けれんのじゃ…何か知らんか?」


二人が、箱を手に取り眺めている。

だが、なにも知らないようだ。


「そうか…仕方ないの、それぞれの魔王心は返すのでな、何か分かったら教えてほしい」


二人は座ったまま、頭を床につける。


「「ありがとう、本当にありがとう」」


震える声でコハクに伝える。


「おう、気にするな」


コハクの瞳にも涙を浮かべていた。

私には分からない、様々な思いがあるのだ。


「そうだ!まだ俺たちの紹介をしていなかったな、改めて俺は【セイ】、今は竜族の王を名乗っている」


「俺も妖族の王を名乗る【クロハ】という。そこのタルトーとは古い仲でな…細かい事で、喧嘩したな…」


「がははははっ!やれ〜誰を好きになったとか、最後のおかずをとったとかの!」


「忘れていないぞ…俺も…思い出したら腹が立ってくる!またやろうか!?」


「おぉ!?やるってか!?いいぞ!!」


「はいはい、止まらんか……喧嘩は後にせい」


コハクの一言に二人は鎮まる。


「改めまして、私からも…私の名はラクーンに頂きました、ナディと言います。以後お見知り置きを」


「ぼ、僕も!クベアと言います!兄貴には大変お世話になっていました!」


「そうか…あのクソガキがな……」


「そうじゃ…生意気だったのに…一丁前に、“名を授け”、“想いを託した”…この二人にな」


「ナディ…か、“ナディエージタ(始まりの希望)”からだろう…ははっ、あいつらしいな…」


「がははははっ!そうだろうな!」


「あいつの…生き様は、死の間際はどうだった?」


「儂は見れんかったが、ナディが…えいぞう?とやらで別れ際を見せてくれた。立派なもんだ…」


「そっか、ならいい……後の事は…俺が…」


拳を強く握り、その手からは血が流れていた。

二人とも拳から血を流し、悔やんでいるようだ。


「とりあえず!お前ら四人は、まともに休んでないみたいじゃん?とりあえず風呂入って休め!これからの話はその後だ!なっ!」


私はここに残る事にした、三人は里の人に連れられて風呂場に案内されるらしい。

お腹も満たされ、風呂に入ってさっぱりする。

との事らしい、ついでに衣服も着替える。


残った私は、二人にラクーンの最期と、光の力を持つ者、そしてラザール王との戦闘についての映像を見せる事にする。

見終わった二人は、しばらく言葉を発しない。

思い思いに、何かを考えているようだ。


「さすが俺のダチ…繋いでくれてありがとう」


「あそこまで追い詰めるとは流石だ」




「ナディと言ったな…俺たちがここにいる理由を知っているか?」


「いえ、反撃を考えれないほど心を折られ、逃げるように隠れている、としか聞いないです」


「まぁ、あながち間違っちゃいねぇよ」


クロハが過去について語り始める。

先代の王たちが帰ってこなかった、あの日からの出来事を。


獣族の王は比較的若く、コハクの父上だと。

獣族、海族の王以外はコハクの父より、上の世代が担っていたとの事だった。

それぞれの王が戻ってこなくなり、数日経った頃、人族が各地に使いを送り込んだ。

『人族がこの大地を収める、逆らう者は、愚かな王のように我々の未来に向けた礎となる』と…


それに激怒した、王に近い者たちが集まり、人族討伐の旗の下、各種族が連合を組み侵攻。

だが、結果は虚しくも敗北した。

一部の者が生き残り、里に逃げ帰った。

クロハも、タルトーもその内の一人だそうだ。


「俺は生き延びてしまった…悔しく何度も復讐を考えた、再度攻めれば勝てるのでは…と」


誰も声を上げなかったそうだ、総戦力戦となった戦で、人族の一強勝ちとなった結果に。

そうして、各種族は隠れる事になった。

いつ人族が攻め込んでくるかと、怯え…。


「今となっては、生き残った意味がわかる」


「俺も、クロハのおっさんが生きていてくれたから、こうして強くなれた、ありがとう」


「あぁ、この魔王心を持って、今度こそ…」


血塗られた歴史の上に成り立つものもある。

そういう言葉を聞いた事がある。

今までの戦いが、残された人たちの思いが、歴史の中に消えていかぬよう、今の私に出来ることを……。

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