【第20話】戒族の遺産の在処(前編)
コハクが試し斬りを終え、嬉しそうにする。
何かを成し得たのか顔つきも変わったようだ。
手に持つ日本…魔術刀は、私も驚くほどの素晴らしい完成度を誇っている。
巻藁を一刀両断したその切れ味もさることながら、ぶれない綺麗な太刀筋も見事だった。
クベアも、同じ技法で作られた刀を貰った。
それを見ていたのか、同じく巻藁の前に立つ。
タルトーが見守る中、小太刀を構える。
両刀で使うそうだ。
巻藁に向かって振り切るが、一刀両断とはいかなかったようだ。
深く切り込むが、途中で止まる。
「えぇ!?どうして!?」
「クベアよ…」
タルトーが呆れた顔を浮かべていた。
コハクも笑いを堪えている。
「もしかして、失敗作とか!?」
「はははっ!クベアよ、お主は技量不足じゃ」
「同じ刀だからスパッといけないのー!?」
「儂が鍛えてやるから安心せい!!」
「げっ、」
タルトーの訓練は壮絶なものなのか。
苦渋の顔を上げている。
暫くタルトーの特訓が始まった。
腕の振り抜き方や、体の捌き方など。
実践もやり、何度が吹き飛ばされるのを見た。
「も、もう…だめ…」
限界を迎えたのか、その場に倒れ込む。
「なんじゃ、もう終いかいの」
「妾も物足りんぞ…」
すると、二人は目を見合わせる。
二人でやり合うのかと思いきや、何か話す。
その視線は、ファーネへと注がれたのだ。
もう逃げれない。
「へっ?」
コハクが駆け寄り、肩を叩く。
「ファーネや、これから一緒に山登りをする仲じゃろ?ここで親睦といこうではないか?」
「い、いや…僕は……」
「がはははっ!遠慮するでない、やろうか!」
「いーやぁぁぁぁぁあ!!」
時すでに遅しだ。
見事に捕まったファーネは特訓される。
ギリギリ意識のあったクベアも、その光景を見て思い出したかのように気を失う。
場は阿鼻絶叫の地獄と化していた。
横たわる屍、逃げ惑う女の子、それを笑いながら追いかける鬼が二人。
「まさに、地獄ですね…」
地獄を断ち切るはずが、地獄を作り出す。
なんとも言えない光景にグロガルも呆れる。
辺りはもう真っ暗になっていた。
この地獄はようやく終わりを告げる。
周囲に置かれたかがり火に火をつけ、広場を明るく照らしていた。
「はっ!?」
「へっ!?」
気絶していた、クベアとファーネが目を覚ます。
特訓のせいで気を失っていた、と気づく。
「死ぬかと思ったっすよ!」
「そうだよ!やり過ぎだよ!」
「ほんと加減をしらないんすから!」
「そうだそうだ!ハゲじいと同じやん!」
「鬼!」
「悪魔!」
二人して交互に文句を叫び続ける。
「ほほぉう…まだ気力が残ってあったか…」
「まだ叫ぶ元気があるとは…」
「「 ひっ! 」」
二人の気迫に気押される。
そこからは、押し黙るように静かになる。
これ以上の特訓は命の危険を感じたのだろう。
決して逆らえない二人を前に、拾われた子犬のように震えていた。
「おい、お前ら!飯じゃ!」
奥から、女店主とグロガルが夜食の準備をする為、コンロと食材を持って歩いてくる。
今から外で、食材を焼きながら食べるらしい。
それぞれ肉や野菜、魚などに鉄の串が刺さる。
「さぁさぁ!たんと食べな!」
コンロを設置し、炭を入れていく。
火をつけると上には網がしかれる。
風を送り、火力を上げていく。
炭の匂いと、煙が立ち込めていく。
「私が焼いていくから、お好きなように食べ」
そういうと、網の上に刺さった食材を並べる。
炭の匂いに焼けた肉や野菜などの香りが漂う。
空腹を刺激するような音も耳に入る。
…気がする。
私には“美味しい”が分からない。
食べることを必要としないので、危険を察知するように匂いを拾うが、美味しそうな匂いは分からない。
「すまぬの、世話になりっぱなしじゃ」
「かまいやせん、これから大変だろうからさ」
「おい、タルトーや!俺とあっちで呑むぞ!」
「おぉ、グロガル!話がわかるじゃないか!」
「ファーネ?だっけ、ご飯食べに行こうか?」
「そうやな、もうクタクタで腹もぺこぺこや」
皆が思い思いに食事を楽しんでいる。
私はベンチに腰掛け、その光景を眺めている。
火の明かりに照らされる顔は、全員笑ってた。
束の間の休息なのだろうが。
この時間を、全員で暖かいものにしている。
この光景が壊れないように…私はそう願う。
この日は、笑い声が絶えることなく終わった。
食事を終えると、話しをする為に、店の中に戻り机を囲んで座る。
明日はいよいよ大峰魔山へと入る。
その為に、必要な準備と戒族の遺産について。
「グロガルや…話しの途中じゃったが、山の向こうには戒族の遺産が眠っておるのは間違いないのじゃな」
「うむ、間違いない…あの地には、かつて戒族の国が存在しておった」
「人族に滅ぼされたと言う…?」
「そうだ、その国が山向こうにあった」
手を強く握り、目元を濡らしている。
かつての国に想い馳せているのか。
「じい……」
「俺は元々戒族の国にいたんじゃ」
「確かにそう言っておったの」
「あぁ、これでも竜族の一人なんだが、見ての通りツノも鱗も生えておらん…これで生きづらくてな」
確かにその見た目は竜族とは相違がある。
言われなければ気づかないだろう。
「稀に現れるらしいの…」
「ファーネもその一人じゃ、ツノがない」
「それで、戒族の国へ?」
「幸いな事に、モノづくりの腕には自信があった、そこをたまたま拾われたのじゃ」
「それで、戦争があった時に…」
「そう、二人で戒族の国へ逃げた」
そこからは、戒族でモノづくりをしながら過ごしていたと語る。
まだ幼かったファーネは、戒族の技術に興味を持ち、見よう見まねで真似をしていたそうだ。
その時の記憶と、経験を頼りにあの腕を作る。
亡き人々を繋ぎ止めるかのように。
「だが、彼の地には何もない」
「え?なんじゃ、言ってる事が違うぞ」
「人族が攻め込んだ際に、全てを破壊し尽くしおったのだ、今は砂漠と化しているよ」
「なら、戒族の遺産は!?」
「地下深くに隠した」
グロガルは、作業机を漁り何かを探す。
戻ってきたその手には、コンパスが握られる。
「なんじゃこの薄汚れたコンパスは…」
「このコンパスの赤い針が向く方に、地下への入り口が隠されておる」
「おぉ、なるほどの」
「地下への入り方はファーネが知ってる」
「えっ??僕!?しらないよ!」
「行けばわかる、今はそれだけだ…」
「当の本人は知らないと言ってるが…信じていいんじゃな?」
「何を今更、大丈夫だ」
「ええ!?なんだよ!教えてくれよ!」
グロガルは頑なに口を開かなかった。
これから向かう地に、何が隠されているのか。
コンパスだけを渡し、後を託すように。
準備は抜かりなく進めていた。
装備を整え、万全の体制で明日に臨む。
どんな結果になろうとも、進むしかないのだから。
俺に何度もお礼を述べると、宿屋へ戻った。
ファーネにはしつこく、開け方について聞かれたが、答えるつもりはない。
諦めたのか、不貞腐れて自室に戻っていく。
「友よ…すまんな、約束守れそうにない」
「あいつは…お前の面影を探している、これ以上辛い顔を見たくないからな…分かってくれ」
火を消し、部屋の灯りを落とす。
暗くなった部屋の中で、物思いに耽る。
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