【第13話】仲間の駆けつけ

やつはいったい何者なんじゃ。

ラクーンが命懸けで、あの赤黒い手を消し飛ばしたのに、奴はまだ生きておった。

それに、ナディの腕も斬り飛ばしおった。


『今のは何だ?知らない術式を使いよって…』


やはり人族には、三重術式(トロワオペレーション)が伝わっておらなんだか。

これで殺せなかったのが悔やまれるの。


ナディに後ろに下がるよう命じるが反応なく。

まるで、心が壊れてしまったかのように、その場で立ち尽くしている。

声をかけ続けるが反応がない。

腕を斬られた影響か?


立ち尽くしていたナディが、突如声を上げる。

声と言えるほどのものでは無い、片言に雑音が混じり、何を言っているか聞き取れない。


笑いながら何かを言っておるが、先程までとはかなり様子が違っておる。


ラクーン王が手をかざし、[地獄の鎌ヘル・サイズ]と叫ぶ。

先程、腕を斬り飛ばしたであろう刃のような物が、ナディめがけ放たれる。

が、ナディを切り裂くことは出来ない。


地面を蹴り、壁、天井へと跳躍を繰り返しながら、刃を避けてていく。

ラクーン王も何度も刃を繰り返し放つ。

だが、当たるどころか掠りもしない。


「ラクーン、妾の後ろに隠れておれ!」


「姐さん!」


前方から飛んできた刃を、ラクーンに当たらないよう。

剣を片手に、壁となり弾いていく。

ラクーンの苦しみに比べたら、これしき。

弾いた刃で、周囲が斬り刻まれる。


「ぐっ…なんとか耐えたの…」


「姐さん!俺なんか…」


腕が上がらない。

かなりの数を捌いた…この数を、全て避けた。

ナディは縦横無尽に跳び回り、無傷で立つ。

放たれる刃が終わりを迎えていた。


『何者だ、お前は…』


「#/&_/&#_@###/#&!!Z!z!?#&)("))#!_jq」


相変わらず、何を言っているか聞き取れない。



『気味の悪い奴よ…これなら避けれまい!』


ラクーン王が拳を握り締め、また構え始める。

すると、それに呼応するかのように、ナディの身体から、電(エレクトリック)の放たれる音が鳴る。

身体を纏うように、帯び始める。


「な、纏をやろうとしておるのか!?」


トンファーを上に投げ、マントの内側から巻物を取り出し、それを広げる。

巻物から放たれた電(エレクトリック)の術式を、胸の穴に集め始める。


「エネルギーを補給しておるのか…とういうことは、これで使い切れば終わりじゃな…」


巻物を地面に投げ捨て、トンファーを握る。

握られたトンファーもエレクトを帯び始め、光り出す。


『お前が、何をしても無駄だ…』


[ 地獄の豪拳ヘル・ナックル ]


空中から、黒く大きな拳が出現し飛び込む。

それを、トンファーで迎えを撃つようじゃ。

ナディがその拳に撃ち込むと、雷鳴が轟く。

激しい衝突となり、周囲の壁や天井にも、大きな亀裂が走り始める。

互いに譲らず、拮抗しているようじゃ。

こちらまで衝撃の余波が飛んでくる。


「ラクーン!大丈夫か!」


「はい!なんとか!」


『止めた…なら、もう一撃見舞ってやるわ!』


ラザール王がさらに拳を振りかぶり、構える。

ナディも、左腕をさらに光らせる。

抑えきれないエレクトが激しく腕の周りを走り続ける。


再度現れた巨大な腕は、廊下を埋め尽くす。

ナディも引く気はないらしい。


「姐さん下がって!《土ノ城壁ソイル・ウォール》!!!」


ラクーンが身体に鞭を打ち、最後の一本。

血反吐を吐きながら発動した術式は、妾達の視界を覆うほどの土壁を築き上げた。


その瞬間、けたたましい轟音と衝撃波により、周囲が吹き飛ばされる。

妾には何が起こっているかが分からなかった。

気づけば、土壁は崩れ、月が妾たちを照らしていた。


崩れた壁と天井の破片が無くなるほど、足元には何も残っていなかった。

周囲には、夜風が流れる音だけだった。


奥を見るとラクーン王は、横たわっていた。

ナディは、両腕を無くし膝をついて動かない。


「「ナディ!!!」」


ラクーンと妾が駆け寄る…が、反応は無い。

何度も呼びかけるが、答えてはくれない。

全身に亀裂が入り、今にも壊れそうだった。


「おい!目を覚まさんか!約束を…命令を必ず守るのじゃろ!?」


『お…おぉ、おぉぉぉあ!』


「なっ!? (ごほっごほっ) まだ生きて!?」


『やってくれたな…先の大戦でもここまでされた事は無かったぞ!!』


ラザール王が立ち上がる。

頭と腕から血を流しながらも、襲いかかりそうな気配でこちらを睨みつける。


「お主の方が、よっぽど化け物じゃな…」


『全兵に告!こいつらを殺せ!抹殺せよ!」


先ほどの爆音で、すでに周囲には兵が集まり。

こちらのフロアへと向かっていた。

幸い、崩れたのが壁と天井だけなので、兵士が登ってくるまで時間がかかりそうじゃ。


『逃げれると思うなよ!!』


「姐さん!ナディを抱えて逃げてください!」


「馬鹿者!杖すらも無いじゃろうが!」


「姐さんは俺を拾ってくれた…ナディには、この状況を作り上げてもらった…」


「お主も逃げるのじゃ!」


「ラ、ラクーン…」


ナディの意識が戻った。

今まで通りの、聞き慣れた声を発する。


「私はまだ動けます、手がなくとも足がある、何があったかは分かりませんが、あなたたちを…死なせるわけにはいきません」


ナディは壊れそうな身体を起こし、立つ。

その身体からは、破片が崩れ落ちていた。


「お主!意識があるなら逃げるぞ、お前ら命令じゃ!共に逃げんかい!!」


「コハク!」

「姐さん!」


「「俺が(私が)あなたを守ります」」


ラザール王との間に、2人が立ち塞がる。

妾を逃がさんとしておる。

妾は何も出来ぬのか、この2人を守るために。


『吹けば飛びそうなお前らに何が出来る!』




雷ノ纏カミナリノマトイ稲妻イナズマ


空から声が聞こえ、馴染みの声へ顔を向ける。

涙が溢れそうになる、まだ何も助かっていないのに、助けに来てくれた者がいるだけで。こんなにも…


「姐御ぉ、中々のピンチじゃん?」


全身を雷で纏い、稲妻のごとく駆けつけた。


「友よ…かなり無茶をしたね?」

「きみも…腕が無くなるとは、驚いたよ」


「ライタ…」


「早く2人を連れて逃げてください、私は生き残っても先がないでしょうから」


「ダメだよ、全員で逃げなきゃね」


「な!?無茶だ!」


「友よ!煙幕!言い合ってる時間はないよ!」




「あぁぁああ!分かったよ!」


ラクーンが煙玉を3つ取り出し、足元へと叩きつける。同時に爆発玉をラザール王に向かい投げる。


「へっ、どうせ効きやしねぇんだろ?」


妾たちは煙に乗じて外へと飛び出す。


『小癪な!逃すか!』


「甘いよ!」


外へと飛び出すと同時にライタが動く。

一本の針をラザール王の頭上へと投げ飛ばす。


「気付かなかったでしょ?あんたの足元に5本投げ込んで刺してある…僕の針は特別でね…」


微笑みながら、握り込んでいた拳を開く。

それと同時に、激しい雷鳴と雷が広がる。


『うぉぉぉぉあぁぁぁああああ!!』


初めて、ラザール王の叫び声を聞いた。

殺す事はできないだろうが、一矢報えたろう。

今はまだそれでよしとしようか、命ある限りチャンスはいくらでもある。


「さぁさぁ!みんな!逃げるよ!」


かなりの高さを飛び降りる。

着地の際に風が包み込む様に流れ、優しくおろす。


「がはははははっ!無茶しよるのぉ!」


「爺さん、助かった…」


「みんなぁ!!無事でよかったよぉぉお!」


「クベアよ、お主のウィンドかの…来てくれたのか…」


「そうだよぉぉぉお!心配で!心配で!」


今はまだ、目の前を滲ませる訳にはいかない。

溢れそうになる想いを押し殺し、気合を入れる。


「さぁ!逃げるかの!もう一踏ん張りじゃ!」


『お前らぁぁあ!!逃すな!囲め!殺せ!』


上から叫び声が聞こえる。

やはり、奴は生きている様だ。


「しぶといやつめ…」


「み、みなさん…私が足手まといになります。遅れそうなら構わず逃げてください…」


「ナディよ、ここまで来たのなら共に行くぞ、妾の為に生き残れ」


次第に兵士が取り囲む様に集まり始めた。


「がはははっ!この感じ懐かしいな!残された道は正面突破のみ!この老骨、滾ってくるわい!!」


「完っ全に囲まれたの…」



『正面は俺の部隊が取り持つ!後方はホウキに任せたぞ!』


『…声でかい…』


奴らは見たことある、王の側近じゃろ。

それに…ホウキとやらの横にいるのは。


『よぉ!グズ人形がぁ!すでにボロボロじゃあねぇか!俺がぶち壊してやるよ!!』


あれが、ナディと共に現れた光の力を持つ者。

報告ではまだ力の解放が間に合っていない。

警戒すべきは、王の側近2人じゃろ。

ラザール王はすぐに追ってこれんしの。


「…さて、どう切り抜けようかのぉ…」

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