【第12話】纏ともう一つのAI

赤黒い腕が、私を強く握っている。

全身が軋む音がする、力づくでも解けない、電流を流しても通じない。

身動き一つ取れない。


『どいつが、黒闇ノ棺を持っている?答えろ』


さらに強く握られ、全身を潰されそうになる。


「逃げてください、私はなんとかなります」


『我が問うておる、気は長い方ではないぞ?』


「お前か…お前が…人族の王か…」


『あぁ?なんとか言ったか?』


「お前が!!人族の王かと聞いておる!!」


『そうだ…我こそは人族の王!ギルテ=ラザールその人である!ひれ伏せ!他種族の者よ!』


「貴様ぁ!!お父様をどうした!!」


『お父様?誰だ?お前なぞ知らん』


「妾は獣族の王が娘!貴様の招いた、種族間会議とやらから帰ってこなかった!!」


『あぁ…どうせ分かってるんだろ?殺したよ』


「やはりか…信じたくはなかった…」


「姐さん!気持ちはわかるが冷静に!」


コハクは剣に手をかけ、震えながら握る。

それをラクーンが抑える。抑えるが…


『ありがたく思え!世界の礎と成った!』


「!!!!!!」


『この手で抜き取ったさ!魔王心をな!!!』


「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!」


ラクーンの手を振り解き、剣を抜き去る。

膝を折り曲げ力を溜め…一気に蹴り上げる。


「お父様を!!お父様をよくも!!!」


『ふははははははっ!我に向かってくるか』


まずい、コハクは怒りで我を忘れている。

ラクーンも後を追うが、遅れている。

衝突は免れない、戦闘は避けられないのか。

何とかしてこの得体の知れない手を解かねば。


すると突然、私を掴んでいた腕が勢いをつけながら壁に突っ込み、激しい音を立てて叩きつけられる。

壁に大きなヒビが入り、そのままめり込んだ私は身動きが取れなくなる。


コハクがラクーン王の目前まで迫る。

「貴様はここで殺す!!!」


炎ノ纏ホノオノマトイ焔羅ホムラ》!!!


コハクの全身を炎が包み込む。

体から吐き出す炎は、体を伝い剣へと昇る。

放たれる剣技は炎を纏い、燃え盛るような怒りを乗せラザール王の首元を狙い、牙を向く。


「あれは…一体?」


ラクーンも知らないようだ、驚いた顔をする。


たが、その燃え盛る剣は…あと一歩届かない。

私を先程まで掴んでいた手が、次は剣を掴んでいた。


『届かなんだ…の』


「うあぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」


コハクの身を包む炎がさらに燃え盛る。

周囲の蝋燭はすでに燃え尽きていた。

炎の灯りだけが、この廊下を照らしている。

この火力でも、赤黒い腕は離れる事をしない。

あの腕はなんだ?どこから現れている?


掴んでいる手が剣と共にコハクを振り回し、ラクーンめがけ投げ飛ばす。

投げ飛ばされながら身を翻し、受け身を取る。


「姐さん!大丈夫ですか!その力は!?」


「いいか…その目に焼き付けよ、お主には教えておらなんだ、術式のもう一つの姿……“纏”マトイじゃ」


「まとい…」


「ナディを助け出せ!ここで奴を殺せば全て終わりじゃ!!!」


ナディは、再度地面を強く蹴り上げた。

地面を焼き焦がしながら、ラクーン王の元へ再度距離を詰め、迫る。


土ノ棘針ソイル・ニードルスピア


私の周りを、土の針が突き刺し壁を崩す。

隙間ができたので脱出する事が出来た。


「ありがとうございます」


「さて、俺たちはどう動く?」


目の前では、赤黒い腕が数本出現しており、コハクの猛攻を全て防ぎ切っていた。

ラザール王には、火の粉すら届いていない。


「あの炎、凄いな…」


「私たちも攻めますよ」


「あ、あぁ…」


私は、トンファーを握りしめ駆け出す。

ラクーンは杖を構えタイミングを見計らう。


「お前が!お前さえいなければ!!」


『ふはっ!吠える事しか出来ない獣風情が!』


いつのまにか変化は解けていた。

私も距離を詰めるが、赤黒い腕に阻まれる。

やはり硬い、思い切りトンファーを振り抜くが、針が刺さる様子も、砕ける様子もない。

先ほど、電流を流しても反応はなかった。


地面から一直線に、土の針や拳が、赤黒い腕に衝突したが、こちらもダメージを与えているとはいえない。


コハクがこちらまで後退してくる。


「はぁー…はぁー…」


かなり体力を消耗しているらしい。

肩で息をするようになっている。


「攻め手に欠けるのぉ…」


『どうした!もう降参か!!あの愚王達のように、何も出来ずにここで朽ちていくがいい!!!』


「おのれぇえええ!貴様はまたぁぁぁああ!」


「落ち着いてください!冷静に!」


すると、赤黒い腕の束がこちらに向かう。

勢いづいた腕は、そのまま私とコハクを殴り込み、後方へと吹き飛ばす。

地面を跳ねながら、ラクーンの側まで転がる。


「がはっ…なんと……なんということじゃ…」


全身が軋む、身体の所々にヒビが入り始める。

この世界ではパーツの交換はもちろんの事、修理する事もできない。

壊れればそのまま終わるのだ。


《ザザッ 『カワレ』 ザザザッザザッ-》


(くそっ、こんな時にまたノイズが)


「姐さん、使いますよ…俺」


「本当なら止めたいとこだが…」


「無駄っすよ」


そう微笑むと、杖を懐から3本取り出す。


「行くぜ!これが俺の全力だ!」


3本の杖を頭上に掲げ、唱える。


三重術式トロワオペレーション《 《 《 土の流星ソイル・ミーティア  》 》 》


2回目だが不思議だ、声が重なって聞こえる。

命を削る禁術、これが奥の手だ。


ラクーンの周りに大量の土塊が浮かび上がる。

杖が全て砕け、足元に散っていく。


上にかざした手を振り下ろし、指を刺す。


「ごほっ…ごほごほ……これで…くたばれ」


ラクーン王めがけ、大量の土塊が空を裂き、轟くような音と共に飛んでいく。

まさに流星…いや流星群だろう。

その数は凄まじかった。


『くっ』


赤黒い腕が何本も集まり、ラクーン王の前に壁のようなものを作り上げる。


「無駄だぁ!ぶち壊してやる!」


激しい爆発音が何度も響き渡る。

土煙を上げながら、しばらく続く。

これで奴はひとたまりもないだろう。


音が鳴り止み、土煙だけがその場に残る。



「ごほっ…がはっがはっ!……ごっ」


血を吐きながら、膝をつく。


「ラクーン!無事か!」


「だ、大じょ…(ごほっ)…大丈夫です」


これで終わっただろう。

あの攻撃では、やつも無事では済まない。

状況を確認する為、私は土煙の立ちこめる方へと向かって、歩いていく。


煙の中から声が聞こえ、歩みを止める。

切れるような風音と共に、土煙が裂ける。

こちらに何かが飛んでくる。

避けようと体を逸らすが、腕が切り裂かれる。


「こ、これは!?」


切り裂かれた腕が、後ろにいた2人の元へ転がる。

完全に切断されたのだ、奴に。

煙が消え始めるとその姿が現れる。


赤黒い腕は完全に消え去り、ラクーン王の額から血が流れていた。

どうやら腕を消し飛ばし、土塊が通ったようだ。

しかし、致命傷とはならなかった。

腕を切り裂くほどの反撃をしてきたのだから。


「なっ!?まだ…(ごほごほっ)生きて…」


「なんとしぶとい奴じゃ…それに、腕を斬りよった…」


『今のは何だ?知らない術式を使いよって…』


片腕を失った…この…ま…ま………で…は…


《ザッザ『ヨウヤク オレガ デレル』》


また……ノイ…ズ……お前…は……いった…


《『カワレ オレガ コワス スベテヲ』》


…………


《『ブキハ ミテイタ ヤレル』》


「おい、ナディよ!とりあえず下がるのじゃ」


「……」


「おい!ナディ!どうしたのじゃ!?」


《 クカカカカカカカッ ー 》


「な、ナディ?どうした…ごほっごほっ」


《 スベテヲ コワス マズハ オマエ 》


『なんじゃ、急に…腕を斬り飛ばされたのを忘れたか!もう片方も同じにしてやろう!』


[ 地獄の鎌ヘル・サイズ 」


《 アタルモノカ イチド ミタ 》


『なっ!?避けられた!?」


「先の動きは一体…雰囲気も変わったが…」


《 コノ ブキ ヨク デキテイル イイ 》


「姐さん…これは一体…」


「妾にもわからぬ…あやつが変わりおった」


《 ツギハ コチラカラ イクゾ 》

《 オレノ カタウデ カリヲ カエス》ー

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