【第14話】紡がれる意志、託された想い。

城の中央広場に全員が集まった。

私は両腕を失い、立つことしかできない。

周囲には、私たちを取り囲む兵士が集まる。

王燐の姿も確認できる。

絶体絶命の状況が続く中で、私は無能だ。

武器を握ることも、誰かの盾になる事も。

この身体は、限界を迎えていると感じる。


先ほどまでの記録は残っておらず、何故こうなったのかと、確認する事ができない。

今は目の前の状況を、どう突破するか考える。


『さぁ!賊の諸君!我が剣の前におののくがいい!』


『…全員、構え…』



「姐御、纏は…もしかして」


「うむ、暫く使えん」


「ふははははっ!踏ん張るしかないの!」


「兄貴ぃ大丈夫!?」


「俺の事はほっとけ、姐さん達を守れ」



『誰1人として逃すな!王命である!』


ラザール王の号令と共に、こちらへ向かう。

奥からは、火の玉や土塊も飛んでくる。

それらを全て避けきり、カルラの方へ向かう。

地面を蹴り飛びかかる。手がなくとも足が。


私の蹴りは、身の丈ほどの大剣に防がれた。


『なんだその腑抜けた蹴りは!』


大剣で弾かれ、後ろへと下がる。


「お主、腕がなくともやる気じゃの」


「この身体が壊れ、崩れるまで動きます」


「ふっ…タルトー!出し惜しみなしじゃ、纏うのじゃ!!」


「タル爺、あれをやろうか?」


「おぉ!あれか!任せておけ!」


《 氷ノ纏コオリノマトイ凍潔トウケツ 》


体の変化が剥がれていき、背中に大きな甲羅が現れる。

そして周囲に冷気が漂い、身体を氷が覆う。

甲羅には氷柱が何本も生えてきていた。


「これでお主と同じじゃな!がははははっ!」


「タル爺、ほんと好きだね…さぁ、やろうか」


《 纏ノ式マトイノシキ 氷柱咲華コオリノハナ 》

《 纏ノ式マトイノシキ 稲妻迅雷イナズマジンライ 》


2人が唱えると、空気中に氷の氷柱が出現する。

それを、出口までの道を作るように振り下ろす。

地面に刺さった氷柱は、氷の華を作りながら咲き乱れていく。


その氷柱を足場とし、ライタが稲妻の如く轟音を響かせながら駆け抜けていく。

駆け抜けた道筋は、雷でも落ちたかの様に周囲を巻き込み、焼き尽くしていく。


兵士たちの悲痛な叫び声がこだまする。

その間に、2人が逃げ道を作り上げていく。


「お主ら!あそこが退路じゃ!ライタが敵を蹴散らしてくれおる!安心して進むがいい!」


クベアも変化を解き、身体を大きくする。

元の身体はさらに大きく2.5mほどある。

体には体毛が覆われており、手にも爪が。


クベアは、私を抱き抱えて走る。

コハクはラクーンの肩を抱え、走り始める。


これで逃げれそうだ、このまま…。


『何をやっとるか!王の御前であるぞ!』


『待てやぁ!クズ人形がぁ!気持ち悪い奴らと逃げやがって、ぶち壊してやる!!』


氷柱の間を走り抜ける、目の前には敵はない。

言葉の通り、ライタが蹴散らしてくれた。


『…無駄、逃がさないよ…』


氷柱の間からホウキが現れる。

コハク目掛けてその剣を突き立てる。

咄嗟にラクーンを降ろし、剣を抜く。


『見た事ある…この氷、カルラは忘れてる…』


2人の激しい剣戟が繰り広げられる。

先ほどまでの戦闘が堪えるのか、徐々にコハクの方が押されている。


「私はいい、コハクの加勢に向かって下さい」


「で、でも!」


「早く!」


そうしていると、兵士たちがこちらへ向かう。

それを見たライタ、後ろの兵士へと飛び込む。

が、途中で纏が解ける。


「く、くそ…限界か…」


勢いを無くし、地面に降り立つ。

針を抜き構え、後方の兵士を抑える様に立ち塞がる。

クベアは私を降ろし、加勢に向かう。


『…これで、お終い…』


剣を弾き飛ばし、喉元へ突き立てる。


「姐さん!!!」

「姉御!!!」


『まずは、1人…』


剣を振りかぶり、首へと払う。

私はまた守れなかった、何も出来なかった。

命を預かると約束したのに。


後悔を笑うかのように、血飛沫が飛ぶ。


だが、斬られたのはラクーンだった。

身を挺し、コハクを守ったのだ。


「なっ!?何をしておる!」

「兄貴ぃ!!!」


「ごほっ…ごほごほごほっ……かはっ」

「へっ、姐さんは殺らせやしねぇよ」


クベアがホウキを蹴り飛ばす。

氷柱へと飛ばされて、激しく打ち付けられる。


「よく来た…クベア…ごほっごほっ…」


「あ、兄貴!血が!血が!」


「逃げ…ろ…姐さん…ごほっごほっ!」


「馬鹿者!なんて事をしたのじゃ!」


「へへへっ、すいません…ドジしました……」


「クベア!早く!すぐに抱えて逃げるぞ!」


血で通らなくなった声を振り絞り、声を上げ。


「クベアぁぁあ!……姐さん連れて逃げ…ろ」


私も近くへと駆けつける。

かなり深く斬られている様子、ラクーンは…

自分の事が分かっているからこそなのだろう。

だからこそ、守りたいものを守るために。


クベアもそれを感じ、袋とコハクを抱える

その目からは涙が流れていた。

口を噛み締め、血が垂れている。


「なっ!?クベア!命令じゃ!許さぬぞ!」


「ナディ、すまねぇ…ここでお別れだ…後は頼んだ」


私にそう伝えると、最期の言葉を残す。


「行けぇ! ごほっ… ナディ!」


奥からは兵士が続々と流れ込んでくる。

ライタがこちらに駆け寄り、針を私の胸に突き刺す。

最期のエネルギー充電分を貯めた針を。


「頼んだよ、みんなの事」


どうやら、ライタもここに殘るらしい。

私は、足にエネルギーを集中させ走る。

クベアに追いつく頃には、出口付近まで来た。

出口を確保していたタルトーは何も言わない。


誰も、言葉を発する事が出来なかった。


一心に、あらかじめ用意した出口を目指し。

様々な思いを抱え、国を出る事に成功する。


私たちは、成し得たのだ。

魔王心をこの手に得たのだ。

人族に一泡吹かせたのだ。


なのに、誰も喜びの声はあげない。

誰も溢れる涙を抑えきれないでいた。

叫びたくも、漏れ出る声を必死に抑えながら。




ただ、私…1人だけを除いて。




ー 戦場に残った2人 ー


「ごほっ…何で…残った?」


「えーっ?だって1人じゃ寂しいでしょう?」


「寂しくなんか…ねぇよ」


「なになにー?僕のことだよ?たった1人の友を亡くして、この先寂しくて生きれないでしょ」


「……ちっ、嫌いだよそういうところ」


「ふふっ、僕は好きだよ君の事が」



「ライタ………すまねぇ、ありがとう」


「君からそんな言葉を聞けただけでも、残る価値はあったよねー?」


「…くるぞ…なんとか、抑えるぞ」


「前衛は任せてねぇ〜、後ろからよろしく」


両手に針を持ち、ひらひらと陽気に向かう。

手持ちには煙玉1つと、麻痺玉が残っている。

煙玉を敵陣に投げ、敵の視界を防ぐ。

その煙の中に、電針(エレクトリックスピア)を撃ち込んでいく。

溢れてきた兵士には、麻痺玉を投げ、動きを止める。


お互いに手札を出し尽くしたが、敵の勢いは止まることを知らなかった。


「いやぁ〜やばいねこれは、もう針も無いよ」


「ねぇ?君も打つ手ないんじゃ無い?」


「そっか…そうだよね…僕も限界だよ…」


「いつもみたいに嫌味を言ってくれないと寂しいな」


「何のためにここまできたと思ってるんだよ…」




「ねぇ…友よ…」



「今まで…ありがとう…」



「たった1人の心の友よ…」



戦場で消えかけたその灯火は、やがて豪火と。

牙を研ぎ鍛え、燃え猛る炎となり襲いかかる。

命は絶たれど、その意志は紡がれる。

雷鳴は轟き、揺れる大地が護りたし。


いつの日か、語り継がれる物語の始まり。

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