一章 〜種族の王と魔王心〜

【第6話】エネルギーと潜入

ー起動


(…昨日はまたノイズが…)


朝になり、起動させる。

ラクーンはまだ目覚めてないようだ。

残量は…15%、[省エネモードに移行]エネルギーを少しでも温存する為に、ラクーンが起きるまではこのままでいよう。


昨日は怒涛の1日だった。

新しい主人に迎え入れられたかと思えば、私たちが望まない扱いをするような奴だった。

直後、突然異世界に呼ばれたが、ここでも扱いは変わらず、壊されかけた。

間一髪の所で救われたものの、この世界では死が常に隣り合わせの状況らしい。

この世界の問題、私のエネルギー問題。

今日はエネルギー問題の方だけでも、解決するといいが。


そうしているとラクーンが目を覚ました。

寝室の方から出てくると、私に声をかける。


「おーい、まだ大丈夫かー?…もしもーし?」


「……もんだいない」


「元気なさげだな?本当に大丈夫か?」


「せつやくちゅうだ…きにするな…」


そう伝えると私は、椅子から立ち上がる。


「そっか…急ぐか!では、外に出る前に…」


《 変化チェンジ 》と唱えると、ラクーンの姿を変えていく。

ラクーンは丸みを帯びた耳と、縞々模様の丸くて長い尻尾を消すと、人族との違いがない。

私も術式を施してもらい、20代ぐらいだろうか、黒髪の若い男性…いや、中性的な姿に変えてもらう。

初めての人間のような姿に、少し感動を覚える、元の世界では、見た目を変える事すら許されなかったのだから。


「よっし、これで完璧!外に出ても大丈夫!」


「…わかり、ました…」


これからライタに会いに行くために、ラクーンは奥から地図を持ってき、机の上に広げて説明をする。

この国の中心には昨晩の城があり、その周辺を丸く大きく囲むように、2重の城壁が築かれているそうだ。

城の中心から、【内殻壁】と【外殻壁】と呼ばれているらしい。

城の周辺を貴族の住宅街や、商業施設が。内殻壁と外殻壁の間には平民達が暮らし、生活している。


ラクーン達は、平民達の住宅地の一部をを隠れ家として利用し、普段は生活しているらしい。

その中にライタの住む住宅があるので、そこに向かうとの事だ。


「そういえば、名前が無いんだよな?…無いんじゃ何かと不便だし…なんか無いの?」


「なはない…すきによんでほしい…」


「う〜ん……」


「そうだ、俺たち獣族の古い言葉にナディエージタ(始まりの希望)という言葉がある。…お前は、俺たちの希望だ。だから、この言葉の始まりをとって【ナディ】でどうだ?」


「ナディ…いいなまえです…ありがとう…」


「おうっ!」


私は名前を頂き、喜びを感じながら、ラクーンと共に外へと出る。


この隠れ家は奥ばったとこにあるようだ。

建物と、建物の間の暗い通路を抜けていく。

すると、外は朝日に照らされていて、昨日の喧騒が嘘のように、辺りは静かな街並みだった。

中世時代の資料によく似た街並みが広がる。


周りの人達はこちらを見る事もない。

流石だ、人の中に上手く溶け込めている。

それでもここは敵地、警戒を怠らずにラクーンの後を歩いていく。


後をついて歩きながら、暫く経った。

外殻壁付近に建つ、家の前で立ち止まる。

ここは大通りからも外れており、周辺には人影もなく、建物も少ない。

こじんまりとした、お世辞にも綺麗とは言えない家の扉をノックする。


中から声がする。


「ラクーンだろう?入りたまえよ…」


ラクーンは少し嫌な顔をしながら、入る。

どんな人物なんだろう、昨日からライタとやらに会うのは乗り気じゃないらしい。


「ラクーーーゥン!ウェルカーム!」


突然の事に驚く。

片眼鏡をかけた、茶髪の少し胡散臭そうな男性が待ち構えていた。

ラクーンは分かっていたのだろう、長く、大きなため息を吐く。


「君は、全然僕に会いにきてくれないね!寂しいねーっ!つれないなーっ!」

「僕はここで君の事を待っているのにさ!僕にとっては唯一の友なんだよ!理由もなく会いにきてくれて構わないの…感じるかい?君が来てくれた事で、僕の針が震えているのさっ!!」


目の前の男はポーズを決める。

これが、乗り気じゃなかった理由だと思う。

ラクーンの顔つきが、先ほどから曇り続けた。


「むむっ!?ラクーン!?そいつは一体誰だ!僕という心の友がいるにも関わらず!」


《 元原リターンオリジン 》


ラクーンが術式を唱えると、私の変化が解け。

元のアンドロイドへと姿を戻した。


「ほぉ?彼が例の…?」


「ちっ…どうせ姐さんから話を聞いたか、お前の耳には届いているだろう?この国、一番の情報屋(ライタ)が…」


「あら?ばれちった? 確かに、姐御は昨日うちにきたよ〜…だーから!今日はまだかなーってずっと待ってたんだよー!…彼の事でね?勿論、ラクーンの事もね?」


「うるせぇよ」


「冷たいな!…それで、彼の名前は?」


「…ナディと、もうします…」


「ナディ君か!さぁさぁ!いつまで玄関にいるつもりだい?入った入った!僕たちの|未来“ひみつ》の話をしようじゃないか?」


そういうと、元々用意していたであろうテーブルと椅子に案内する。外の外観とは似つかない、大理石のようなテーブルと、それを囲む赤い革張りの椅子に。

テーブルには1人分の食事が用意されていた。

恐らく、昨日の話は全て伝わってたんだろう。

私は食事のない椅子に腰をかける。


「さて、ラクーンは食べていて構わないよ」


「そうさせて貰うよ、ナディを宜しく頼むわ」


「ふふっ“ナディ”…ね?姉御の話しの通り、君は僕たちの希望らしい…」


「…そうなれると…いい」


「さて、話はこれだろう?」


《 エレクト 》


そう唱えると、バチバチと音を鳴らしながら、手のひらに電気を帯び始める。

間違いない、これは“電気”だと私は確信する。

ライタの原素がエレクトという事らしい、だからコハクはここへ案内したのか。


「…そのちからを、おねがいしたい…」


私はライタに対し頭を下げる。

これで私のエネルギー問題は、急場を凌げる。

今後、継続する為には毎度毎度ここまで足を運ぶ事にはなるが、今はなんとかなりそうだ。


「いいよっ!…って言いたいところだけど」


「…なにか?」


「いや、単純にさ…君はこの世界に思入れも無いわけじゃない?昨日来たばかりで、窮地の所を助けられたとはいえ…圧倒的に不利なこちらサイドを、味方する理由もないじゃん?」


「おい、何が言いたい?」


「おっと、ラクーン…君はご飯でも食べてな?重要な話さ…彼が私たちを裏切らないとも、限らない…」


ラクーンは無言になり、食事を続ける。

ライタは、もう一度こちらに視線を向ける。


慎重になるのは無理もない、ひとつ間違えただけで、全てが滅んでしまう。そんなギリギリの緊張感の中で、生きていかねばならない。

[省エネモード]を解除。最後のエネルギーを振り絞り、力強く話す。


「仰る通り、私はこの世界の者ではありません。思入れは、あなた達より少ないでしょう」


「私には、今ある目の前の目的に向かって、進むことしかできません。その目的の中に、あなた達の力になりたいと思うことが、私の生きる意味であり、力です。これだけは私の意思」


ライタは目線を逸らすことなく、見続ける。


「うんっ!分かったよ、君に力を貸そう。聞いてたより、人らしさがあるじやない?僕の信頼を得るために正直に話すなんてさ」


「…ありがとうございます」


「さて、僕はどうしたらいい?」


私は胸に手を当てて、蓋のようなものを開ける。

中には、丸い穴のようなものが開いていた。

エネルギーの充電ポートだと話し、ここに流し込んで欲しいと伝える。

ライタは穴の中に指を入れ、術式を唱える。

すると、私の中に十分なエネルギー量が注がれていくのが分かる。


- 3% …25%…4…% -

- 100% -


エネルギーが満タンになった。

指を抜き、私は蓋を閉じる。


「ライタ様、ありがとうございます。おかげでエネルギーを確保する事ができました」


「いいよ、ライタで。仲間でしょ?気にしないで、いつでもおいでよ。これからよろしく」


「こちらこそ、ライタ」


2人は握手を交わす。


「さて、ラクーンも僕に用事があるだろう?」


ギクッ

「………ない」


「姉御から聞いてるよ〜?任務放っぽったんだって?理由はナディだって聞いてるけど〜…」


どうやら、封印を解く為の潜入任務の事で用事があったらしい。

情報屋らしいが、必要な情報もあるのだろう。


「…【魔王心】……」


「!?」


「姉御にはもう伝えてあるよ、僕たちが弱体化した封印の原因と、その方法についてね」


私は“魔王心”について尋ねる。

魔王心とは、各種族の王に受け継がれし魔心らしい。それをもってして、種族の王を名乗るそうだ。

代々受け継がれているものらしいが、コハクは獣族の王だと名乗っていたはずだが。


「すまない、ナディ。わざとじゃないが、昨日は全部話していなかった。姐さんは正式な王じゃないんだ」


「そっ、王になる為の魔王心が姉御には無いの」


「あの日、俺たちの王は帰ってこなかった。俺たちの力が封印されたのに。」


「その後、俺たちの不安を払う為に、姐さんは俺たちに対し、“王”を名乗った…反対は無かったしな」


「あ、先に言うと王は生きてないよ?」


「やはり殺されたのか…なら魔王心は!?」


「魔王心の引き継ぎには3つ条件がある」

①現魔王からの直接の譲渡

②魔王と対等な対決をし勝利

③①と②以外で魔王が絶命した場合、自動的に現魔王に近しい存在へと譲渡


「勿論、異種族はこの条件には当てはまらない」


ライタの口から、悍ましい話が続く。

人族が他種族の力の封印を果たした方法。


「抜き取ったんだよ…直接。各種族の王から、魔王心を。 方法はまだ分からないが、やつらはその魔王心のみを生かし続けている」


「そんな…まさか…」


「種族の王たる、魔王心。その力を持ってして、人族は各種族を弱体化させる事に成功したのさ」


「なら、魔王心の在処さえ分かれば…」


「見つけても、封印の解除も必要だけどね」


「…分かった、ありがとう」


おそらくそんな大事な物だ、城の中でも厳重に保管されているのだろう。

私が潜入し、内部のスキャンを行いながら探せれば、見つける事が出来るのではないか。

ラクーンも同じ考えらしい、ライタに私の力を説明すると3人で作戦を練る。


隠し通路を使い、城の内部へと侵入。

そこからは、城の中を探索しながら進む。

誰にも見つかる事なく。

そうして、魔王心を探し出し奪取。

その後の封印の解除方法に関しては、見てみないと分からないそうだ。


「準備が必要だな、俺も必要最低限の道具しか持っていなかったし、それも無くなった」


「そうだね、ナディも丸腰でしょ?」


「よし、爺さんのとこに行くか」


「あの爺さんのとこに行くなら、これを渡しといて?必要になるだろうからさっ」


ライタから小包のようなものを受け取る。


「いつも悪いな」


「構わないよ、なんてったって友の頼みだからね!ラクーンの為ならどんな事だって厭わないよ!」


2人は挨拶を交わし後にする。

これから城へと侵入する為の準備だろう。

今の私に必要なものを考えないといけない。

何かあっても、守れるよう、後悔しないよう。



「友よ、ようやく動き始めたね……」


今までの事を思い返すかのように呟く。

反撃の狼煙を上げるべく、生きてきたのだ。

ようやく現れた“希望”に祈るように。

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