【第3話】城からの脱出

知らない男?が目の前で咳き込んでいる。

頭上に大きな丸い耳もある…人ではないのか?


辺りを振り返ると、大広間は先程までとは違って静まり返っている。

どうやら2人だけのようだが…何のため助けた?

本当に助けたのか、状況が理解できない。


「ゲホッ…ゲホッ………ああぁぁ〜死ぬかと思った…」

「わりぃわりぃ、で?なんだっけ?」


「……貴方はいったい?何者ですか?」


「あぁー……まぁっ、とりあえず逃げねぇ?ここ敵陣のど真ん中、誰か戻ってきたら終わりだしな」


「し、しかし…あなたは一体なに、」


「細かいことは言いっこなし!俺があんたを助けた、そしてあんたは俺に助けられた。今のとこはここまで!詳しくはこの後!おっけ?」


この男の言い分は一理ある、一刻も早く…あいつらが戻ってくる前に逃げ出したい。

その為には、この男について行くしかない。


「よっしゃ、さっさとずらかろうぜっ、と…」


「……私は“家庭用アンドロイドロボット”…名前は、無いです」


「んーっそっか…じゃあ自己紹介は後だな!とりあえず、こんなところはおさらばするに限る!いつまでもこの穴の中でお喋りするのもな…」


男は、勢いよく床に空いた穴からから抜け出す。

この穴のおかげでやり過ごすことが出来たのだが、あんな一瞬でできるものなのか?


男は手を差し伸ばし、私を引き上げる。


「よいっしょ!」

「ふぅー…大丈夫か?」


「…あ、ありがとう…ございます」


「いいってことよ!“こっちも訳あり”だしな、とりあえず付いてきてもらおか?」


「…わかりました」


「おっと穴は戻しておかなぁと…」

《 〝元原リターンオリジン〟 》


2人分入れるぐらいの大きな穴がみるみる閉じていく。

さっきの風といい、これは一体…


「よしっ!今度こそ行くか!」


それに、“訳あり”?が気になるが、今は質問している余裕はなさそうだ。

私たちは大広間を後にし、その場から逃げるように去る。


大広間を出ると、長い廊下が続いていた。


「さて、人は少なくなっているとは思うが…」


私たちは、隠れながら大広間を出た奥の階段を降りていき、慎重に進んでいく。

すると、何度か曲がった先で隠れるように止まった。


「やべぇな、何人かいやがるな…下に降りるのはこの先の階段しかないってのに」


「失礼…この先階段の手前に2人、後方から3人近づいてきてますね、後ろの3人に関しては……こちらを視認出来る範囲としてはまだ遠いですが」


「ほんとか?何で分かる」


「今は異世界の技術とだけ伝えておきます」

「あなたのその耳のように、今は話せる状況ではないでしょう、お互いに…」


「え?うそっ…耳…」


男は自分の頭の上に手を置き、耳が出ている事を確認し、静かに驚く。


「しまった……。」

「あぁー…今の、信じていいんだな?」


「勿論」


「…ふうーっ…… よし、やるか…」


男は懐から棒のような物を取り出し、静かに唱え始める。

この世界に来てから三度目だ、一体この世界は…


《 |土ノ拘束(ソイル・バインド) 》


すると、階段の手前にいる鎧を着た2人組の足元から、突如飛び出してきた土が絡みつく。声を上げるよりも先に、全身を包み込み静かに2人を拘束する。


(すごい…)


「さぁいくぞ、使い捨ての杖だ…拘束が解ける前にこの城から抜け出さないといけない」


2人は物音を立てないように、静かに急ぎ足で下へと続く階段へと向かう。


「ちなみに、どこへ向かってるんですか?」


「この階段で、地下まで降りる。その先の部屋に調理場があって、そこからの隠し通路で隠れ家まで出る」


「なるほど…」


[ 領域拡大 〝探索/検索スキャン〟 開始 ]


「ふむ…この先に人はいませんね…ですが、熱源反応のある部屋…おそらく調理場でしょうか。 1人いますね」


彼はひきつった顔で答える。

「ははっ…まじか?それが本当なら怖いね」


「これでも精度は落ちているのですが」


男は信じたのか、少し速度を上げて走る。

2人は急いで階段を駆け下り、調理場と思われる部屋の前まで辿り着く。


「うっし、ここまでくれば大丈夫だろ…」


男は扉に手をかけ,部屋の扉に手をかける。

1人ならなんとかなるのか…男の扉を押すタイミングに合わせて、こちらも身を構える。


ガチャン…



ジャージャー ゴゴゴゴゴッ ジャバジャバ

中には、熊のような大きな迫力の男が料理を作っていた。

なんという迫力…人数はこちらに分があるが。


「まーだ、料理はできてないよ〜」


すると中の男はこちらに気がついた。


「…ん?」


お互いに目線が合い、緊張が走る…


「あっ…」


(来るっ!)


「アニキ!耳が!耳が出てるっすよ!…てか、何でこんなとこにいるんすか!?」


「よぉ!やっぱり【クベア】お前だったか!」


「それに!一緒にいてるそれ…誰?何?なんなの!?」


「すまねぇが急ぎだ、詳しい話はまた今度」


「…もしかして、さっきから城の中が慌ただしいのも、兄貴がやったんすか?」


「と、とりあえず!いつもの通路だ!」


男はクベアと呼ばれる人に近づきながら話す。

そして、耳元で尋ねる


(ここはお前1人か?)


「そうだよー?みんな上に行っちゃった」


(てことは…半信半疑だったが、あいつの言ってた事は本当だってことだ。道中1人も見当たらなかった。理屈は分からないが…本物ってことか…)


「あの…お二人は知り合いで?」


「そうだよ? 兄貴はね…… 兄貴なんだよ!」


「…」 「…」


「おい、バカはほっておいて行くぞ…この先の通路に入る」


「なっ!?酷い!兄貴!」


何を見せられているのだろう。

先程までの緊張感が嘘のようだ。


急かされるように、私も後を続く。

どうやら、床下が通路になっていてそこから脱出するそうだ、1人分しかない狭い通路だが、ギリギリ通れる。


「…あっ!兄貴!そういえば任務は大丈夫なの?まだ終わってないはずだよねー?」


ぎくっ…

振り返ることなく男は伝える


「クベア、あ…あとは頼んだ…」


男はそう告げると、勢いよく走り去っていく。

置いてかれないようにと、私も後を追いかける。


「酷いっすよ兄貴ー!いつもそうやって逃げるんすから!また姐さんにどやされるじゃないっすか!」


クベアの叫びは、虚しくも聞こえなくなっていった。


先程、大広間まで聞いた話では、人と人以外では争い合っているようだった。まるで、元いた世界のように…


そして、この男は人ではないのだろう。

私を助け、人には無い耳がついていたり、この状況も訳ありとも言っていた。

私のAIでも理解し得ない数々に戸惑いながらも、今はただ逃げる事しか出来ないでいる。


はたして、私はこれからどうなるのだろうか。

ネットワークを通じて、生き繋ぐ事もできないこの世界では、この体が壊される事になれば…私は…


「おい、出口が見えてきたぜ!」


そうして、隠し通路をひたすら走り続け、ようやく出口が見えてきたようだ。


「この扉の向こうに、俺の隠れ家がある。とりあえずここまでくれば安全だ」


そういうと男は扉を開けた。

扉の先には長い梯子がかかっており、男は上へ上へと登っていく。

私も、後に続いて梯子をつたって登っていく。


頭上の扉を開けると、男はそのままよじ登る。


男は体を伸ばしながら、逃げ出せたことに安堵したのか、大きな息を吐く。


「んーーーーっ  はぁーーっ」


「ん?ここが隠れ家ですか?」


「あぁ、そうさ。何の変哲もない、普通の家」


「ここは…あの城まで繋がっていたのですよね?王などの逃げ道という事でしょうか」


「んにゃ、違うね…それを話す前に…」

「まずはお互いの自己紹介!っと色々と話さなきゃならない事がある。どのみち、外は城のやつらが血眼になってお前を探しているだろうし、この家から出る事もできない。」


「そう…ですね…」


「お互いに積もる話もあるだろうさ!お前も知りたい事があるだろ?俺もお前に話したい事がある…」


「まぁ、そのソファーにでも座れや」


そういいながら、男はコップに飲み物を注ぎ、目の前の椅子に腰をかける。


「…さぁ、まずは何から話そうか?」

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