【第2話】1体と1人
(ここは…一体…)
突如足元に、大きな紋様が浮び光に包まれた…
気がつけば、大広間の中心で横たわっていた。
過去のデータでも見た事がない、巨大なシャンデリアやステンドグラスが散りばめられる。
壁には大きな窓があり、差し込んだ光で大広間を照らしていた。
辺りを見渡せば、鎧を着た騎士の様な者たちや、杖を持ちローブを着た者達が並んでいた。
ふと奥に目をやると、一際大きく目立つ豪華な椅子に、鋭い眼光と、とてつもない威圧感を放つ男が座っていた。
両隣にもその男を守るかの様に、男と女が剣を構えながら対に立って、こちらを睨んでいる。
(おかしい、私は先ほどまで住宅の一室で、この隣に横たわる男といたはずだ)
この男も、同じく理解が及んでいないらしい。
口を開けながら動けずにいてる。
鋭い眼光をこちらに向けながら、威圧感のある低い声で奥の男はこう話した…
『よくきた異世界の者よ、これでようやく世界が救われる…』
(!?異世界といったかこの男…そんなことあるはずはな…)
「あぁ!?偉そうなおっさんが!いきなりなにほざいてがやる!ここはどこだ!?」
バールの先端を奥に向けながら大声を上げた。
すかさず、両隣の男と女がこちらへと飛び掛かる勢いで構えはじめた。
『何だその口のききかた!斬り伏せてやろうか!?』
『…万死に値する』
男の方は激情家なのか、同じく声を荒げて返す。
女の方は冷静に淡々と吐き捨てるかの様に返す。
『やめろ、カルラ、ホウキ 剣を下ろせ…』
『はっ!』
『はっ…』
男の方は【カルラ】、女の方は【ホウキ】というらしい。やはりあの男が偉いのか、その一言で2人は剣を納め後ろへと下がる。
『すまぬな、いきなりの状況ゆえ理解ができないのも仕方がない』
どうやら話し合いは出来そうな雰囲気だ、向こうの出方を待つ方がいいか。
『ひとまず自己紹介を…我はこの国の現王である【ギルテ=ラザール】だ、両隣は我の護衛でな…左が【サザク=カルラ】、右が【ナナガ=ホウキ】という』
『此度、お主らをこの大陸【ヘブンズガルド】へと、呼び寄せたのだ。お主からすると、異世界ということになるな』
「あぁん?」
『今この世界には6つの種族が存命しておる、その中の一種族である、我々人族を救っていただく為に、お主らをこちらへ呼び寄せたのだ』
「ごちゃごちゃぬかしやがって…元の世界に還しやがれ!」
『まぁ待て、ただ呼び寄せただけではない…お主、元の世界では恵まれない境遇だったのではないのか?』
「うぐっ!?」
『さぞ生きにくかったろう、辛かろう、苦しかろう…この世界においてはお主を歓迎し、もてなすと約束しよう。その対価として我々人族を救ってほしいのだ。救った暁には、この世界に残るか、元の世界へ戻るかは好きにするがいい』
「ほほぉう…もてなすと?」
『無論だ、お互いに益のある話だとも』
「へぇ〜…お互いに…ね?」
「いいじゃねえか!話次第では聞いてやらんでもない!」
『おぉ!そうか!それならこの後の…』
先程から嫌な予感がする…私は会話を遮り、意を唱える。
「少しお待ちください!私は今すぐにでも元の世界へ…」
「うるせぇ!グズ人形は黙ってろ!これは人間様を救うってことだろ!?てめぇには関係ねぇよな!?」
ピクッ…
この大広間の空気が一瞬張り詰めた様な感じがした。
私にも伝わるぐらいの緊張感が走る。
この男の発言が、なにか触れてはいけないものに触れたのか。
『お主らに問う、そちらの男は人族かと見受けるが、その隣の"物"はそちらの世界でいうところの何なのだ?』
「私は、アンド…」
「ただのデク人形だよ!人様に使われるだけのな!」
凍りつくような冷たい視線を向けられる。
何かがおかしい、ここにいてはいけない、そう感じる。
『では、人族ではないと…そうであるか…』
「あぁ!そうさ!俺様に使われるグズ人形だよ!」
『ふむぅ…こちらでいうところのゴーレムの様な存在か』
ゴーレム?似た様なものがこの世界でも存在しているのか。
だが、先程から緊張感が解けない。なにか良くない方向へと進み始めているような気がしてならない。
「私は今すぐにでも元の世界に帰していただきたい!やるべき事が残っているのです」
ギルテ=ラザールが手を挙げる。
即座に、護衛の2人が剣を再び構え始めこちらに向けてくる。
「あぁ!?なんだよ!やるってのか!?さっきと言ってる事が違うじゃねえか!」
『お主ではない、その隣の物はこの世界では“異端”“禁忌”とされている存在だ…この場で残しておくわけにはいかぬ…』
「……くくくっ…はっははははは!!」
『残念だったなデク人形!てめぇはどこまでも負け続けるようだなぁ!?お前が俺の人形にならねぇのは惜しいが、お前が潰される様を見るのも、それはそれでいいじゃねぇか!使えねぇデク人形に用はねぇよ!!』
ラザール王が笑みを浮かべ、呟く。
『ほぉう、お主が作り出したわけではないのか…それに人族として立ち向かうと…良いではないか…』
(ダメだ、このままでは…ここから逃げなければ…)
[ 〝
私は、逃げる為にこの場の情報を集める。
ネットワークがない状況で拾える情報も限りあるが、無いよりはマシだ……分かるのは八方塞がりという事実のみ。
『てめぇはここで終いだ!潰れてろ!!』
私が状況を整理している隙に、王燐が手に持っていたバールを大きく振りかぶる。
すると手に持っていたバールが光り輝き始める、王燐は気にもしていないようだ、そのままの勢いでこちらに振り下ろしてくる。
かろうじて避ける事は出来たが、追撃が来る。
それに、奥からカルラとホウキこちらへ駆け出していた、このままでは…挟み撃ちにされる!
《- ザザッ ザザ 『カワレ』 ザザ -》
(何だこれは…私の中に何が…)
《- ザッザザ『オレニ』 『カワレ』ザッ-》
『ちっ!避けてんじゃねぇよ!おらぁ!』
何かに意識を持っていかれそうになるが、辛うじて王燐の攻撃は避け続けている、だがカルラとホウキがそこまで迫ってきている。
ボフンッ!
突如、私の周囲に白煙がたちこめる。
『げほげほ…てめぇ!グズ人形!何しやがった!げほっ…』
「これは…いったい?」
(逃げるぞ、こっちだ…)
「あ、あなたは?」
フードを被った者に手を引かれる。
人の様な何かが私を助けようとしているのだ。
カルラが広間にいたフードの者達へ命令を出す。
『何が起こった!お前ら!風だ!煙を散らせ』
フードの者達が杖を構え何かを唱え始める。
『『『 〝
大広間に風の渦が巻き起こり、煙は周囲へと散らされる。
パリンッ
ホウキが何かの割れる音に反応する。
『ん?…何の音?…』
暫くすると煙は消え、風がおさまりながら視界が開けてくる。
全員が周囲を見渡しながら、確認をする。が…
そこにいたはずの、アンドロイドは姿を消していた。
先ほどの、何かが割れる音を思い出し、窓の異変に気付く。
『カルラ、あれ…窓…割れてる…』
『ホウキでかした!お前は王をお守りするのだ!俺はやつを仕留めに行ってくる!』
『待って…どうせ迷子に…』
言い切る前にカルラは、割れた窓から飛び出して行った。
ホウキは呆れながらも、周囲に命令を下す。
『はぁ…全員この場に残らない…向かって…』
『『『『『 はっ!! 』』』』』
慌ただしく、その場にいた騎士やフードの者達が、後を追う様に大広間から飛び出していく。
『ふむ…仕留めたらよし…仕留め損なっとしても…やつにこの世界で生きるすべなし…だが、手助けをした者がいるとなれば話は別か…』
『んだぁ?クソが!』
『おっと、すまぬな、異世界の者よ。不意を突かれたとはいえ我々の失態』
『かまわねぇさ!人族…?だったか?俺1人がいれば問題ねぇだろ!』
『ふむ…して、名は?』
『王燐 悟だ』
『ほう…王の名を冠するか…王は1人で十分なのだが…』
『大丈夫だ、ただの名前だ…気にするな』
『ふはっ、我にそのような口をききながら、挑発にも乗らない。本意であれば好ましいが…よかろう。では部屋を移そうか、口に合うかわからんが酒も用意してある、そこで話の続きをしようではないか』
『いいぜぇ、ついて行こうじゃねえか…』
『まだ…王にそのような口を…』
ボソッ
(かまわん、小さい者ほど大きく見せようとよく吠える)
(…はっ)
『美味い飯と酒を頼むぜ!俺様が、お前らを救ってやるんだからな!あーははははっ!』
慌しかった大広間も静まり返り、3人は別室へと移動する。
ボゴッ ゴゴゴゴッ ボゴッン
床が突如盛り上がり、中から何か出てきた。
「ふぃ〜あぶね〜、ギリギリだったなー…大丈夫か?」
「あ、貴方はいったい?」
「俺か?俺は…ごほっごほごぼごほ…まって、口に何か入った…ごほごほごほ……オエッ…」
「…」
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