【第3.5話】人族の思惑と謀略
時は少し遡り-
とりあえず俺は、話を聞く為に王様らしい奴の後をついて行く。
大広間を出て長い通路を歩き続けていた。
「おい、部屋はまだかよ?」
「…待つ、もう少し…」
とある部屋の前に着くと、素朴な扉の前で立ち止まる。
先程の大広間とは違い、豪華さが無い。
ホウキが扉を開け、ラザール王と俺を中へと案内をする、中央に大きなテーブルがありそれを挟むように椅子が2つだけ配置されていた。
部屋の中はシンプルで、必要最低限の部屋という感じがする。
「待たせたな、王燐。そちらに座るが良い」
少しばかりの不安を覚える。
俺は言われた通りに席へとつく。
テーブルを挟んで向かいにラザール王が腰を据え、その後ろでホウキが立っている。
どうやら、ここで話とやらをするらしい。
俺にとって、どんな話になるか楽しみだ。
「まずは…話しの前に食事を用意しよう。腹が減ってはなんとやらだ、話しは食事をしながらでもよかろう」
ラザール王が手を叩くと、先ほど入ってきた扉から、数人がワゴンを転がしながら料理を運んでくる。
美味そうな匂いで部屋を埋め、目の前に置かれたグラスには、ワインのような物が注がれる。
どうやら、歓迎とは本当らしい。
部屋の雰囲気からは想像できない豪華な飯を前に、我慢などできるはずもなく、食べ始める。
「ふはっ…どうやら、お気に召したようでなにより。好みが分からぬのでな、取り敢えず様々な料理を用意させてもらった、楽に楽しむがいい」
「おう!中々じゃねえか!」
周りにいた人達の顔が引きつっている事に目もくれず、俺は目の前に出された料理に、無心で食べ続けていく。
「さて、話を続けようかの」
料理の手が止まる、ここからが本題だ。
「先も話した通り、この世界には人族以外に5つの種族が存命しておる。こやつらに脅かされながら、我々は生きてきた」
「はっ同情ってか?」
「まぁ、話は最後まで聞け。ある日の事だ、我々人族はその他の種族を弱体化させる事に成功した。これにより今までの状況が一転、人族優勢となったのだ」
「なら、俺が呼ばれた理由は?そのまま潰せばいいだろ」
「お主を異世界から呼んだ理由じゃがな、弱体化させたとはいえ、数ではまだまだ不利なのは変わらない。それに奴らは、何か…画策しているようでの」
話を続けているが核心が見えてこない。
「それに、先ほど5種族と伝えたが、実は我々が滅した種族が1つだけあったのだ、その大戦の最中、人族の民や兵士達が甚大な被害を負った」
「だーっ!か・ら!一体俺に何をさせようってんだ?」
「他種族の殲滅よ」
全身に鳥肌が立つのを感じた。武者震いなのか、目の前にいる王の言葉に気圧されたのか。
しかし、俺はかねてより、元の世界でも同じような計画をしていた。
俺は、人様の為に造られたはずのアンドロイド共が逆らうのが、気に食わなかった。
俺に従うように改造できたアンドロイドだけを残し、他の奴らを見下し、俺という存在を世界に知らしめたかった。
その力を持って、世界をこの手にしたかった。
だが、未だに腑に落ちない事がある。
「一つ聞くぜ?弱体させ、数で劣るとはいえ人族優位な状況なんだろ?…何故、俺を呼んでまで戦力を求める?自慢じゃないが、さっきの風みたいなやつは元の世界には無かった…この世界での力が俺には使えねぇ」
ラザール王がニヤリと笑う。
「お主にはある。先程、お主が握っておった武器が光り出したのに気がつかなんだか?」
「あぁ?なんじゃそりゃ?」
後ろにいたホウキが呆れ、ため息をつく。
「…ラザール王、本当にこんなやつで大丈夫?」
「かまわぬ」
ラザール王は再び俺の目を見て話し始める。
この国には伝承があったらしい。
遥か異界の地より訪れし者。この地に舞い降りしその時、光り輝く力携えん。
その力は絶大なり、扱うべくは民思う心たれ。
その身に宿りし力、人のため、民のためにふるいたるべし。
さすれば、降りかかる災は討ち払われ、この地に光と繁栄をもたらすであろう。
「その光の力とやらが、俺に?」
「恐らく、その鱗片だろう。これから徐々にその力に慣れ、解放してくれれば良い」
「…この力があれば…俺は…」
「お主には、その力を持ってして我ら人族を繁栄へと導いてほしい」
俺は、心の底にある言葉にできない感情と、力のようなものを感じた。
この世界なら、思うがままに出来ると。
それに、こいつは人族のために他種族を滅ぼしてほしいと言っていた。殲滅してほしいと。
昔かだった、俺を見下す奴は許せなかった。
おれの上に立つやつを、許せなかった。
そんな奴らは残らずに潰してきた。
たがらずっと我慢ならなかった、俺を使うように指示していたあの男も、あのクズ人形達も。
俺には、元の世界での未練はない。
この世界で王になってやる…
それまでは、せいぜい俺を利用するがいい。
俺も、お前らを利用し尽くしてやる。
この世界で生きて行くには、何も足りない。
「いいぜ、話に乗ってやる」
「うむ、よくぞ答えてくれた。これからはよろしく頼む、“人族の為たれ、人族繁栄のため”」
ラザール王はグラスを上に上げ、そう答えた。
「………」
話が終わると、2人は食事を終えた。
王がメイドを呼ぶと、寝室へと案内される。
俺はメイドの後をついて、部屋から出て行く。
それに続くかのように、テーブルの上が片付けられていく。
部屋にはラザール王とホウキが残されていた。
「…ラザール王、わざと?」
「ふっ…あんなやつでも“光の力”をその身に宿した異世界人、我々が待ち望んだ力よ」
「あいつをどうするつもり?素直に鍛える?」
「まぁ、暫くは様子見といったところか。周辺の【魔物】でも狩らして力の解放へと進ませれば良い、頼んだぞ」
「…了解」
ワイングラスを片手に、狡猾な笑みを浮かべ、もう片方には古びた書物を手に持ち、これから起こるだろう顛末をなぞりながら。
「ここから始まるのだ…既に歯車は回り出しておる、もう誰にも止められぬ」
ホウキはその身に寒気を覚えながら、ラザール王に敬礼し部屋を後にしようとする。
「ホウキよ、あの逃げたやつはどうなった?」
ホウキは少しばかりの緊張が走る。
何故なら、まだ見つかっていないのだから。
王と王燐が食事中に報告が入っていた。
城内、城外の街の中をくまなく探しても見つからなかったのだ、あの風貌で見つからない。
指名手配書は回しているので、時間の問題かと思われるが、すぐに追いかけたにも関わらず“見つける事が出来なかった”事が問題なのだ。
「…申し訳…ございません…」
「よい、すぐに見つかるだろう…しかし“戒族”と似た存在が異世界から…あの場から逃れると思えぬが。協力者がいたのか?」
「いや、それはなかろう。やつは1体だった、一緒に来たあやつには、見限られていたからの」
少しばかりの不安が募るが、思い通りに事が進み始めていると思い、ワインで飲み流す。
「引き続き警戒せよ、やつをその目で奴を見るまで指名手配書と、人員の導入にあたらせよ」
「…はっ、仰せのままに」
ホウキは部屋を出ていく。
部屋にはラザール王だけが残されていた。
古びた書物を片手に、冷たい笑みを浮かべ、
「みていろ」
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