第28話 孤狼の荒原


 エメが開拓者狩りとの戦闘を行うと決心してから5日が経った。


 その間、俺たちはロラに戦う意思を伝え、対人戦闘用の技能を身に着けるための訓練や、開拓者ギルドへの報告など、開拓者狩りとの戦闘に向けた準備を行った。そして――


「準備はいいな?」


 第10階層のポータル前に集合した俺たちは、これから開拓者狩りの拠点へ向かうメンバーそれぞれに対して覚悟を問う。


「ええ」

「もちろんですわ」


 最初に答えたのは、レリアとエメ。


 そしてそれに続いてロラが小さく頷くと、俺は今回の作戦に加わるもう一人の参加者であるヴァルターへと視線を向ける。


「ははは、今さらだな。ナインくん」


 今回、俺たちが開拓者狩りと戦うと開拓者ギルドへ伝えた際、ギルドマスターのヴァルターは真っ先に戦闘への参加を申し出た。


 ヴァルター自身、開拓者狩りに関する問題を解決したいと考えていたものの、第10階層に到達した開拓者が少ないうえ、パーティーメンバーを危険にさらすわけにはいかないという者たちが多く、中々解決の糸口がつかめないでいたらしい。


 そんな中、今回の俺たちの申し出があったというわけだ。


 正直、俺としてもヴァルターの参加はありがたい。


 ヴァルターのジョブは前衛で敵の攻撃をひきつけ、さらに時には見方を守るタンク。


 そのため、俺の代わりにエメやレリアの護衛を任せられる分、俺は思う存分戦うことができる。


「私も問題ない」

「よし、全員大丈夫なようだな。では行くぞ」


 全員の総意を確認し、俺たち5人は開拓者狩りの拠点へ向かうために街を出ると、まずは事前に打ち合わせたとおりの隊列を組む。


 先頭は俺で、その後ろにヴァルター。ヴァルターの後ろに守られる形でエメとロラが続き、背後からの襲撃に備えて最後尾にレリアが陣取る。


 第10階層にはびこるLウルフは、常に単体で行動するとはいえ、どこから襲って来るかはわからない。


 それに加え、鋭い牙での嚙み付き攻撃は強力で、襲撃によって攻撃を受ければ、致命傷は避けられない。この陣形はそれを防ぐものになる。


「エメ、明かりを」

「はい」


 隊列を組み終わると、今度はエメに明かりを出すように指示を出す。


 すると、エメが錫杖の先端に聖なる光ホーリーライトを応用して小さな明かりを生成する。


「皆、拠点に着くまでは手筈通りに」


 全員が頷き、ようやく俺たちは目的地を目指して、常闇に包まれる荒れ果てた大事を進み始める。


 そして、街の明かりが豆粒のように小さくなったところで――


「ナインくん」

「ああ、わかっている」


 早速、俺とヴァルターがこちらに接近するLウルフの気配を察知する。それも向こうは夜目が効くせいか、しっかりと隊列の側面に攻撃を仕かけられる位置に陣取っている。ならば――


「ロラ、行けるか」

「問題ありません」


 俺は魔術師であるロラに敵が潜伏している方向を教え、そこに向けて火球を放つよう指示を出す。


 そして、ロラが火球を指定された位置に放った瞬間、それに反応するようにLウルフは姿を見せると、真っ先にエメやロラを狙って嚙み付き攻撃を仕かけてくる。


 しかし、それを最初から読んでいたのか、ヴァルターがすかさず手に持った大楯をLウルフの目の前に突き出し攻撃をはじき返すと、即座に俺とレリアが一斉に攻撃を仕かけ、息の根を刈り取る。


 とりあえず、連携のほうは問題なさそうだな。


 特にヴァルターは仕事の関係上、今日初めてパーティーを組むため心配だったが、さすがに第20階層まで攻略していることもあって、敵の狙いを素早く見定めるだけでなく、その後どういう連携が最善かを踏まえた動きをしている。


 この調子なら、難なく開拓者狩りの拠点へ向かえそうだ。


 それから俺たちは数度の戦闘を繰り返し、目的地付近に到着する。


「あれが開拓者狩りの拠点か」


 街からかなり離れた開けた場所に、ぽつんと少し大きめの建築物がある。


 窓から明かりが漏れているのを見るに、幸い拠点の中にいるようだ。


「どうする、ナインくん」

「予定通り、俺が先に向かう。ヴァルターはみんなを頼む」

「わかった」


 それから俺は、今までの攻略で培ってきた潜伏技能を最大限活かしながら、ゆっくりと開拓者狩りの拠点へと近づいていくのだった。


         ※※※


「ギャエル、ついにあいつら出発したみたいだぜ」

「そうか」


 ナインたちが第10階層の街を出発して少しの時間が経った頃、開拓者狩りの拠点でギャエルは偵察に向かわせたメンバーの一人からそう報告を受ける。


 近頃、訓練所を出たばかりであるにも関わらず、異常な速さで攻略を進めているというパーティーの存在は、ギャエルたちも知っていた。


 そして、そのパーティーが第10階層に到達した時点で、以前標的にし壊滅し損ねたパーティーの一人がナインたちに仇討ちを頼んだことも当然。


 その時点で、ギャエルたちはナインたちが訪れることを想定し、次の標的をナインたち一行に定め、準備を進めていた。


「ギャエル、何だか嬉しそうだな」

「ああ、嬉しいさ」


 開拓者狩りのメンバーは、弱者をいたぶることを快感としている者が多い。


 しかし、ギャエルは違う。


 ギャエルは純粋に、命のやり取りをすることがしたいだけ。それも、相手が強ければ強いほどいい。


 そのため、ギャエルの胸の鼓動は、過去最高に高まっていた。


 自分たちですら、7人でここまで来るのに1年以上はかかった。


 それをたったの三人で、そのうえ100日も満たない歳月で攻略した者たちの強さ。想像するだけで、胸の高ぶりが止まらない。


「ああ、早く殺し合いがしたい」


 高揚感が高まり続けるのを感じながら、時を待つこと約30分。


 拠点の扉が軽くノックされる。


(来たか)


 ギャエルは扉の近くにいたメンバーの一人に目配せし、来客を出迎えるよう指示を出す。


 そして、メンバーが扉の前に立ち用件を聞いた瞬間――


「――ぶは……っ」


 拠点の扉が蹴り飛ばされ、それに巻き込まれるように用件を聞こうとした賊が壁に激突した。そして――


「君がナインくんか、歓迎するよ」


 扉を壊し、堂々と拠点の中に入って来た黒髪黒目の少年に、ギャエルは満面の笑みを浮かべて出迎えるのだった。




【異世界豆知識:Lウルフ】

第10階層に生息する狼で、体長の平均は1.5メートルほど。体毛は濃紺に近い灰色で、翡翠色の瞳をしている。基本的に群れで動くことはなく、開拓者に対する攻撃も単体で行う。

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