第29話 小手調べ


 開拓者狩りの拠点に入ると、ギャエルと思われるリーダー各の男は、すぐに味方に指示を出し、四人を外にいるヴァルターたちの下へ向かわせる。


 どうやら、俺たちの動きは奴らに筒抜けだったようだ。


 ギャエルを含む残りの三人と対峙する中、ギャエルは口を開く。


「一つ確認したい。お前がナインで合っているか?」

「ああ、俺がナインだ」

「そうか」


 そう言って、ギャエルの顔に張り付けられた笑顔の気味の悪さが一層増す。


「どうしてそんなに笑っている」

「どうして? そんなの嬉しいからに決まっているじゃないか」

「嬉しい? この状況が?」

「ああ、嬉しいさ。なんせ、お前みたいな強い奴と本気の殺し合いができるんだから」


 まったく理解できない。いや、そもそも開拓者狩りの持つ感覚を理解しようということ自体が間違っているか。


 だが、目の前にいるギャエルという男が、事前にロラから聞かされていた通り殺人を心から楽しむ外道ということだけは確かなようだ。


「それじゃ、長話もこれくらいにして、始めようか」


 そう言ってギャエルは部屋の照明を消すと、両隣にいる他の二人の賊が得物である短剣を構える。



「いきなり俺が手を出すのも面白くない、まずは小手調べだ」


 そう言ってギャエルが合図を出すと、横にいた二人が一斉に俺に向かって攻撃を仕かけてくる。


 さすがに対人戦に慣れているということもあって、攻撃の際に生じる隙がほとんどなく、それに加えて殺気の類もまるで感じられない。


 そして何より奇妙なのは、二人とも俺の急所を狙おうとはしていないことだ。


 少しずつ痛めつけて楽しむつもりなのか、それとも二人は陽動で、俺の隙をついてギャエル本人が手を出そうとしてくるのか。


 ギャエルはさっきと同じように、ただ気味の悪い笑みを浮かべているだけで、とても戦闘に介入してくるようには思えない。


 俺はどちらにも対応できるように、まずは敵の攻撃を躱すことに専念する。


「ほう、やるじゃないか」


 攻撃を仕かける賊の一人が、何度も攻撃を躱される中で笑みをこぼす。そして――


「どうやら俺たちの意図に気づいたみたいだ」


 もう一人の賊も変わらず笑みを浮かべる。

 

 やつらの攻撃を躱す中でわかったのは、やつらの得物に毒が仕込まれていること。


 最初は暗くて気づけなかったが、よく見ると刃の放つ光沢に違和感があった。


 やつらの攻撃がとにかくかすればいいと思わせるようなものであることを考えて、相当即効性のあるものだろう。


 うかつに攻めようとしなかったのは正解だった。万が一、かすり傷でも追ってしまえば、身動きが取れなくなってしまったかもしれない。


「やめだな」


 攻撃を躱し続け、これ以上は無意味だと悟ったのか、二人の賊が一度俺から距離を取る。


 そして、近くに備えられていた斧と投てき用のナイフ数本を二人はそれぞれ持つと、再び俺と距離を詰める。


「どうやら、それが本来の得物のようだな」

「ああ、やっぱりこいつでぶった切るのが一番だ」

「こいつで身動き取れないようにしてやるよ」


 本来の得物を持った二人の賊が、再び攻撃を仕かけてくる。


 今度は斧を持った賊が前衛で、投てき用のナイフを指の間に挟んで構えたもう一人の賊が後衛と、はっきりと役割を分けている。


 作戦としては、前衛の賊と戦っている間に、確実に投てき用のナイフで傷を負わせると言ったところか。


 後衛を放置していては負傷は避けられないため、まず俺は迫る前衛を完全に無視し、一直線に後衛の敵へと距離を詰める。すると――


「おいおい無視はないぜ!」


 即座に斧を持った賊が横に並んでくる。どうやら事前に敏捷力を上げる魔術を施していたらしい。


 だが、俺はそれでも方針を変えない。


 側面から振り下された斧を紙一重で躱し、前衛の賊が体制を崩している僅かな間に、一気に後衛の賊に畳みかける。そして――


「か、身体が動かねぇ!」


 一瞬にして後衛の賊の四肢の腱を切断する


 一度ギャエルのほうを一瞥するが、仲間を一人やられても攻撃を仕かけてくる気配はない。二人がやられるまで静観を続けるつもりらしい。ならば。


「次はお前だ」

「て、てめえ!」


 それから俺は、前衛の賊に対しても後衛の賊と同じように身動きを一瞬で取れなくさせると、ギャエルのほうに向きなおる。すると。


「さすがだナイン!」


 拍手をしながら、ギャエルが歓喜の声をあげる。


 そして、そんなギャエルを冷ややかな気持ちで見つめながら、俺は告げる。


「さっさと構えろ」

「ああ、言われなくてもそうするさ」


 そう言って、ギャエルは丸みを帯びた形状の独特な刀を手に取り構える。


 そこにはもう、先ほどまでのふざけた雰囲気は一切ない。


「さあ、始めようか」


 俺は魔物にはない賊特有の強烈な殺気を感じながら、決意する。


 ここからは、本気を出すとするか。



【異世界豆知識:開拓者狩りの拠点】

第10階層のはずれにある一階建ての木造建築。外見はログハウスのような外見をしており、中にはメンバーそれぞれの部屋が7つと大広間がある。リッチ的に、周囲の見通しが良いため、Lウルフに襲撃されてもすぐに対処できるため、生活の中で危険にさらされることはない。

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