第25話 噂のパーティー
ナインたちが第2階層のフロアボスであるスライムクラウンを討伐してから、早くも60日が経った。そして――
「ナイン、そっちに行ったわよ!」
「わかっている」
100日以内という当初定めた目標よりも40日早い現在、ナインたちは第9階層のフロアボスに挑んでいた。
第9階層のフロアボスは、全長3メートルの巨大な牙を武器に早い動きで突進してくる大猪――ジャイアントサングリエ。
幾度となく突進してくる大猪を、レリアは異常なまでの速度で上達する剣技でいなし、大猪の命ともいえる4足のうちの一つに傷を負わせると、今度はナインへと攻撃の矛先を変える。
そして、敵意を向けられたナインも同じように足の一つに攻撃をしかけ、大きな傷をつけると、今度はエメリーヌへと向かう。
「エメ、今度はそっちだ!」
「
大猪の矛先が向くと、すぐにエメリーヌは錫杖を掲げ、凄まじい光を展開し、それによって大猪は突進の方角を変える。
この一連の流れが、今回ナインたちが取った作戦。
ナインたちはジャイアントサングリエを囲うように三角形を形成し、ナインとレリアの方角へ攻撃を仕かけた際は足に確実にダメージを与える。
そして、エメリーヌのほうへ来た際は、摩天楼で重ねた功績によって一日10回まで使用することができるようになった
一見単純だが、ナインとレリアが確実に相手に負傷を負わせ、かつエメリーヌも臆することなく奇跡を発動させなければならないといった、高い技量とタフな精神力を必要とする作戦だ。
それからまったく乱れることなく、着実にダメージを大猪に蓄積させていったところで、急激に大猪の動きが悪くなる。
「よし、そろそろいい頃合いだ!」
ナインの指示によって、レリアとエメリーヌが合流し、さらに二人でナインの下へと移動する。
ジャイアントサングリエ攻略において、もっとも厄介といえるのは機動力。
それを封じた今、あとは一気に攻勢をしかけるだけだ。
ナインとレリアの二人の後ろにエメリーヌを移動させ、安全を確保したところで、一斉にナインとレリアは大猪目掛けて攻勢を仕かける。そして――
「終わったな」
「ええ」
自慢の機動力を奪われ、成すすべなくナインとレリアの攻撃を受け続けた大猪は、傷だらけの身体を横から倒れさせる。
戦闘開始からこの時点までにかかった時間、わずか10分。
歴代開拓者の残した討伐記録の中で最短である。
「戦利品の回収を始めよう」
ナインの言葉に頷いたレリアとエメリーヌは、素材として高値で売買されるジャイアントサングリエの二つの牙を切断。
その後、切断した牙をナインとレリアが一つずつ両手で抱える。
そして、ついにナインたちは第10階層へと足を踏み入れるのだった。
※※※
第9階層のフロアボスであるジャイアントサングリエを討伐した俺たちは、摩天楼の攻略を始めて100日も経たないうちに第10階層の土地を踏むことになった。
「これが第10階層……」
「何だか寂しいですわね……」
俺と違い、初めて第10階層の光景を見るレリアとエメが、それぞれ感想を口にする。
第10階層は通称『孤狼の荒原』と呼ばれる、草木のない荒れ果てた大地が広がる階層である。
そして、到達する開拓者の割合も少ないことから、ポータル付近に形成される街も今までのように発展的なものではなく、本当に小さな村程度であるため、エメの言ったように寂しい印象を受けるのは事実。
だが、この階層の最大といえる特徴は、この階層には陽が上らないということ――つまり、この階層は常に夜。理由は、この階層に住まうLウルフが完全なる夜行性であり、それに合わせて摩天楼の持つ謎の力が時間を夜に留めているのだ。
と、それにしても――
「少し騒がしいな」
周囲から向けられる視線や、ざわめきに俺はそう呟くと。
「どうせ、またいつものでしょう」
「煙たがらずに、堂々としましょう」
そう、ここ最近の活躍によって、俺たちは今まで以上に他の開拓者からの注目を集めることになってしまっている。その証拠に――
――あれが噂のパーティーか?
――本当にガキの集団じゃねえか
といった感じのことを、よく言われている。
それだけ俺たちの攻略速度が類を見ないということはわかっているが、それでもこう何度も噂をされるのはあまり良い気分ではない。
「今日は一度拠点に戻ろう」
この場を一度離れようという俺の提案に、レリアとエメも小さく頷くと、ポータルに乗って摩天楼の外へと向おうとする。しかし。
「あの、待ってください!」
俺たちは、20歳前後の神官服を着た若い女性に引き止められる。そして――
「私の仲間の仇を討つのを、手伝ってください!」
今にも泣きそうな声で、そう訴えかけてくるのだった。
【異世界豆知識:第10階層】
通称『孤狼の荒原』と呼ばれるこの階層は、Lウルフ(Lはロンリーの頭文字)が単独で徘徊する荒野であり、時が止まっているように常時夜空が広がっている。
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