第5話 ジャンク脱走

 翌日のことである。


「あれ、ジャンクっ子がいない!」


 なんとジャンクでできた少女が、部室からいなくなっていた。


「どういうこと、モモちゃん? 人工知能なんて、持たせていなかったわよね?」


「ないない! こういうトラブルを起こさないように、ちゃんと分けてたんだよ」


 さすがの私たちも、脳改造は専門外だ。

 外見を美しくしたいのであり、頭や内蔵までは興味がない。


「盗まれたわけじゃ、ないのよね?」


「取られる心配はないよ。ジャンク品だよ? 誰も興味ないって」


 盗難なら、もっと大胆にコトを起こすはずだ。

 部室からカギを盗まれたわけでも、外側からカギを壊された形跡もない。


 ネコモンが、分析済みだ。

 

 確かにあのジャンク品の寄せ集めは、自ら脱走した。


 ジャンク品だからかな? かき集めたパーツの記憶とかたどった経緯で、なんらかの記憶障害が起きて、意思を持った? んなアホな。SFじゃあるまいし。


「足だけが動き出した可能性もあるわよ。どうなの?」


 私は、首を振った。


「部室のカギを、開けてる。意思を持って、脱走しているよ」

 

 とはいえ、一人で出歩く機能なんて、持ち合わせていないはずだ。


 そうなると、考えられることは一つだ。


「何者かが、外部から操作している?」

 

「だよねぇ。そうとしか、考えられない」

 

「まあ、遠くへは行っていないはずだわ。探しましょう」


「わかったよ、しーちゃん。ネコモン、探してもらえる?」


 一緒にいたネコモンも、首を縦に振った。

 

「うむ。職員に掛け合ってみよう」


 私たちは手分けして、逃げたジャンク品を探しに向かう。

 

 学校の中には、いなかった。


「となれば、行くところは一つ」


 私は校門を抜ける。


「いた!」

 

 すぐそばにあるコンビニで、ジャンク少女は見つかった。

 フードコートで、指から電源を取り込んでいる。

 出歩いたものの、電池切れを起こしたようだ。

 カモフラージュのため、カップ麺まで食べていた。

 消化器官はあるから、ラーメンも動力源になるけど。


「探したよ」


 私たちもアイスを片手に、隣に座る。


『ごめんなさい。あなたたちのパーツを、勝手に借りました』

 

 ジャンクアンドロイド少女が、しゃべった。


針宮ハリミヤ モモネさんと、純天堂ジュンテンドー 詩麻シーマさんですよね? わたしはルゥ。倒産した企業で作動していた、業務用AIです』


 なるほど。このコもジャンク品と。


「倒産したってことは、あなたは破棄される予定だったのね?」


『そうです。だから脱走して、このジャンク少女に自身のデータを転送しました。もうすぐ終わります。あなた方のパーツを、勝手に利用させていただきました』

 

 しーちゃんが問いかけると、ルゥはそう答えた。


「どこの会社にいたの?」


『化粧品会社とだけ、お話します』


 おお。なんとなくわかったぞ。

 

「このコ、『ミザルゥ』の製品だ」


 ミザルゥは「やせるメイク」と称して、不良品を売っていた。

 それがバレて、倒産したのである。


「ミザルゥを内部告発した人は、いなかったんだって。でも、可能性があるとしたら」


 私は、ルゥに視線を向けた。

 

「ルゥだと、言いたいの?」


「つーか、もう自白じゃん」


 ここまでヒントをもらったら、あとは答え合わせのみ。


「ロボットが、人類を内部告発したってこと?」


「あるいは、告発しようとした人が死んじゃって、ルゥにすべてを託したか」


 おそらく、後者だろう。


「で、どうするの。この子?」


 悲しい境遇なのはわかった。

 同情はできる。

 なにより、中身までジャンク品とか、最高じゃん。


「ウチの部員にしよう」

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