第4話 テセウスの女体盛り
私たちは久々に、自前のパーツで部活動を過ごしている。
なぜかというと。
「ついにやったよ、しーちゃん」
「ワタシたちの努力が報われたのね、モモちゃん」
しーちゃんとジャンク集めをして、一年が経つ。
とうとう、人間一人分の外見パーツが完成した。
部に支給されているストレッチャーには、ハダカの少女が横たわっている。
「長かったねえ」
「スーパーカブみたいに、入れ替えてきたものね」
バイク沼みたいに、私たち二人は改造沼に首まで入っていた。
「自分のパーツをとっかえひっかえしていたら、いつの間にか人間一人分のパーツができあがるなんて」
「外装だけだけどね」
私たちが集められたのは、あくまでも外見だけ。中身は、空っぽである。電脳も、搭載していない。よって、動くことはないのだ。
「しかも、そんなにキレイじゃないし」
「ええ。まじまじと見ると、歪よね」
私としーちゃん、それぞれのパーツが合体して、この少女はキメラになっていた。
「これが人間の本質だ」と、物語っているみたい。
「ねえ、テセウスの船って知ってる?」
「ああ。『船の部品を改装していったら、元々の時代に使われていた部品なんてなくなっちゃうよね』ってパラドックスのことでしょ?」
「そうよ。ワタシたちを形成している部品だって、テセウスの船のように作り変えてきたわ」
「でもさ、脳とか内蔵関連は、まだ法整備がなってないから、入れ替えとかは……あ、できるんだった」
私は、ネコモンに視線を向ける。
彼はケモナーをこじらせて、自分もネコになりたい一心で、自らの脳をネコ型の自作アンドロイドに移植したんだっけ。法律整備の実験体に自分がなることで、「完全アンドロイドへの脳移植」を国に移植を認めさせたんだよね。
おまけのその論文は、世界的に指示をされている。
ネコモンのチャレンジスピリッツは、世界じゅうのケモナーたちに夢を与えた。が、「マネしたら世間から冷たい視線を送られる」とも、知れ渡ったのである。そのせいで、追随する者はゼロなんだけど。
「ネコモンは、怖くないの? 自分の身体が完全に入れ替わるなんて」
「別に、思わんぞ。思っていたら、こんな実験などせぬ」
だよね。
「それに、人間の細胞は四ヶ月で完全に入れ替わる。つまり、四か月前には別人だったってわけだ。テセウスの船など関係ない。元々人間の身体そのものが、テセウスの船みたいなもんだ」
そういう見方もできるか。
「腐っても、学校の先生だね」
「うむ。腐ってるは余計だな」
そんなことよりも、と、しーちゃんが会話をぶった切る。
「これ、どうしようかな?」
「見ているしかできないわ。この身体がほしい、って人がいるなら別だけど」
「うちの病院に寄付、という手も考えたけど……」
しーちゃんの実家は、お医者さんだ。しかも、整形外科。
美しいパーツを欲しがっている患者が、ワラワラと集まってくる。
医者という責任のある職務ゆえに、ジャンクなんて提供することはできない。保証が効かないからだ。
「ウチで組み立てても、いいけどね」
「いっそ、非公式の後輩にしてしまうのは?」
「人工知能を搭載して?」
「そうそう」
「うーん。どうだろう? アイデアとしてなら、採用するよ。でも、人体模型と会話するほど、さみしくないんだよね」
「案外ドライなのね。もっと乗ってくると思っていたわ」
実際に私は、こういうジャンク品でロボットを作ってみたことはある。
学校の自由研究で、動かしてみたりもした。
だが、使い道はない。
日常で使うロボットなんて、人の形をしていないほうが便利だったりする。
「話し相手っつっても、しーちゃんで事足りるし」
「じゃあ、廃棄するの?」
「一応、いつものようにパーツ取りとして飾ろう」
「制服だけは、着せておいてあげましょう。人体模型とわかるように、看板だけは立てておくわ」
結局、現状維持にとどまった。
しかし、あんなことになるとは。
翌日の昼休み、ジャンク品の寄せ集めちゃんが脱走したのだ。
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