第3話 透明パーツ
私たちはまた、ジャンク品を買って部室に帰ってきた。
手には新品同然の、腕パーツが。
お店に貸しを作ったためか、結構割安で取引してくれた。
「見てこれ。腕だけ、透明人間なんだけど」
表面がクリアガラス素材でできた腕を、しーちゃんに見せる。
「モモちゃん。ホントに、マンガに出てくるようなパーツがスキよね」
「オタだからね」
腕から、しーちゃんの顔が歪んで見えた。
実際に、呆れられているかもしれない。
「こんな腕をした怪人、父の見ていたアニメのコレクションで見たわ」
「私もー。それで、これに目をつけたんだよね」
しーちゃんが、私の顔を腕越しに覗き込む。
だが、視線は私の方へ向いていない。腕の中身の方に。
「クリスタル素材と言っても、骨格にあたる部分は透けているのね」
骨格の部分だけ、灰色に線が通っている。
さすがに、内部までクリアにはできない。それはもう、軍用光学迷彩の領域だ。ジャンク屋で扱える代物ではなかろう。
「だってそうじゃないとさ、盗撮とかノゾキに使われちゃうもんね」
スマホのカメラにシャッター音があるように、この手の素材にはあるシュの加工が施される。オミットというか。
「予算を下げる意味も、あるんだろうけどさ」
「それにしても、どうしてこんなものを?」
「技術的な問題のチェックか、芸術品を作ろうとしたのかも?」
なめらかに動くガラスとか、芸術的価値はありそう。
「あれね。ガラス像に似せて、泥棒が来たら動くようにするとか?」
「だったら甲冑にロボットでも仕込んで、飾っておけばいいじゃん」
強度の低い像を、警備に用いる必要はない。
金持ちが同じガラス製品を使うなら、破られない窓を買うだろう。
でも、そんなファンタジックな発想が出てくるあたり、いかにもしーちゃんらしい。
「ナノマシンで動かせれば、より透明に近づくと思うわね」
「どうだろう? ナノマシンを通すなら、光ファイバーがいるよ。ナノマシンが走るときに光るから、余計に目立つよ」
「そうよね」
「でもこの腕、どこかで見たような……」
家に帰り、この腕の正体が判明した。
「あ」
風呂上がりに、特撮番組を見ていたときである。
敵モンスターの腕が、わたしが買ったものそっくりだったのだ。
学校に連絡して、ネコモンと一緒に調べた。
どうも、デザインのサンプル品が盗まれたらしい。
とある撮影所から持ち出され、裏取引されたとか。
番組には守秘義務があるので、こんなのは絶対アウトだ。
数日後、ジャンク屋に商品を流した人物が逮捕された。撮影スタッフに扮した反社だったという。
「うわあ。こんなこともあるんだねえ」
「やはり、完全に透明なアイテムってのは、見つからないものね」
先日の欠陥品業者も解体されたし、私たちは知らず知らずのうちに社会に貢献していた。
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