第8話 魑魅魍魎の主とその配下
「月並さん!」
「土御門くん……」
「強い鬼の気配を太陰を通じた感じた。鬼は?」
「霊門の先に消えた……」
「そう。とりあえず先に霊門を閉じる。話はそれからだ」
少しだけ焦った表情を浮かべていた土御門くんはすぐにいつもの余裕そうな表情に戻って。早急に閉じられた霊門。瘴気もすぐに祓われ辺りは澄んだ空気を取り戻していた。
土御門くんに治癒術をかけてもらうと痛む頭は少しましになり、冷静さを閉じ戻した。背中も共に治してもらったが緊張状態のため体が固まっているためか完全に塞がりきっていないと言われた。たしかに微かに痛みを感じる。
土御門くんは移動式神を出し私を乗せる。傷を気遣うためかゆっくり浮上した式神の上で私は全ての事をゆっくりとだが話す。記憶が微かな部分も多々あるが覚えていることだけで彼には十分だったらしく。眉間に皺を寄せ何かを考えているようだ。彼の纏う霊力が、揺れている。
「その鬼、確かに金童子って言ったんだね」
「うん」
「……金童子は、安部清明が倒した酒呑童子の配下、四天王の一人だ。1級以上の妖。それがこちらにそれも太陰の土地に出たとなると随分とこちらにとって都合が悪い」
「太陰、弱ってるの?」
「確かに〝かつて〟よりも力は弱まっている。だがそれは予想の範囲内で想定外ではない。想定外なのは金童子の方だ。あれは酒呑童子と共に封印したはずだ。なのになぜ」
「……千年前、本当に封印したの? 力を弱めて逃げたのかもしれないよ」
「その可能性は多いにある。これから十二天将と共に対策を練らなければ」
口調も霊力だってかつてとはどこか異なる彼。多分もう、土御門くんの体は彼だけの体じゃない。十二天将の封印を解き、安倍晴明と深く繋がったことにより彼と安倍晴明の魂はより同じものへと形を変えている。
安倍晴明の記憶と共に生きていたが、その記憶とは違う事態が起きた。もしかすると、私の存在は彼らにとっても予想外のことで、都合がいいのかもしれない。
私の存在が、この世の秩序を揺るがす何かを起こしているのかもしれない。
「ねえ土御門くん」
「なに」
「あの時、私にいつか自分の正体を知る機会が来るって言ったよね」
「うん」
「その機会の前に1つだけ教えて。私は〝存在していい〟の」
全てを知る彼の口から言うべきではない私のこと。だけどこれだけは教えてほしい。
私は本当にこの世に存在していいのだろうか。父と、母もおらず友と呼べる存在も今はいない。そんな私は存在してはいけないと言われたら……。
「……僕が、君の存在を否定することはない。だけどもし、全てが知れ渡ってしまったら一部の人は存在そのものを否定するかもしれない。君の存在は、文献には残っていない以上のものなんだ」
「そう。ありがとう」
「……死なないで」
「迷惑を、かけなかったらね」
きっと私は、〝前〟の私は悪いことをした。人に恨まれ、鬼に狙われる都合が良いほどのことを。土御門くん……安倍晴明は私のことを否定しない。だけど他の人は否定する。そんなの、彼が言わないだけで私は存在したらいけないじゃないの。
もしまた、今回のように鬼が霊門を通って出てきたら。私を狙って鬼を引き連れてやってきたら、それは国を揺るがすほどの大事件になる。沢山の人が、死ぬ。今までの百鬼夜行なんて比じゃないぐらい、沢山の人が巻き込まれる。
本当の百鬼夜行が、この国を襲う。
考えれば考えるほど、私の選択肢は自死しか見つからくて。脳に酸素が回っていないのか思考が揺れ動いているのが分かる。でもそれは頬を軽く叩かれたことで元に戻った。
「しっかりして」
「!」
「今の君は月並桜香。前なんて、関係ないよ」
「……それ、前の自分のこと盛大に使ってる土御門くんが言うこと?」
「皮肉なものさ。使える前と、使えない前はあるよ。でも〝因果〟は変えられない。変えることができない。これだけは覚えてて」
因果。それは何を意味するのだろうか。でも未だかつて見たことのないほどの真剣な表情。それに全てを知る彼の事場を無視する理由なんてない。私の因果は必ず人を巻き込む。
そして彼の言う因果に関係するのは、安倍晴明のことだろう。金童子のことだってある。私のは家へ戻り、文献を漁ることに決めた。意味はないかもしれないけど、やらずにはいられない。
陰陽寮に戻り、医務室へ向かうと医者に絶叫された。背中の傷は相当な大怪我だったらしく急いで専門家を呼ばれ、あれよあれよと休暇を取ることができた。怪我の療養、という理由で月並家に戻り、当主様に許可を貰い書庫の虫となること丸2日。私はようやく数ある文献の中から金童子の文字を発見することができた。
〝金童子。魑魅魍魎の主、酒呑童子の配下であり鬼の中の鬼、四天王の一人。赤い角を持つ赤鬼であり、千年前酒呑童子と共に常世へ封印された〟
書かれている文字はそれだけで。土御門くんの言っていた以上のものを発見することはできなかった。他の四天王、
「
〝茨木童子。酒呑童子の1番の配下であり幹部の中では唯一の女鬼。千年前の戦いではそのお腹に子を宿しており、安倍晴明により封印ではなくその身ごと滅された〟
「酒呑童子の子……」
安倍晴明はなぜ茨木童子のみ封印せず滅したのだろうか。子が産めるから? きっとそれだけじゃないはずだ。文献にはそれ以上のことは載っておらず、すっきりとしない。
「桜香」
「……はい。当主様」
書庫の扉が開き、その先には当主様がいた。床に散らばる文献に少し頭を抱えていたけど理由はそうじゃない。多分、今回背中に傷を負い療養として戻って来た理由を知りたいのだろう。
今回のことについて特に緘口令は敷かれていない。だが陰陽頭から妖の正体のみを伏せるように指示されていたので当主様には1級以上の妖が霊門から出てきたところに遭遇し、近くにいた土御門くんが妖気を感じ、助けに来てくれたと説明した。
嘘はついていない。金童子が1級以上の妖だと認定されたのは本当のことだ。それにわざわざ土御門くんの名前も出した。当主様はこれ以上追及するために口を開くことはない。
「そうか。怪我の具合は」
「順調です。1週間もしない内に傷は塞がるだろうと」
「分かった。瑞樹も先ほど戻ったと報告しにきた。久々に会ってやりなさい」
「はい」
当主様に頭を下げ、部屋を出る。中庭は綺麗に手入れのいっていて鹿威しのいい音が聞こえてくる。学園に入学する前、数えきれないほど通った瑞樹の部屋の部屋や向かう。もう夕刻なので、薄く明かりのその漏れる部屋の前で声をかけるとすぐに障子が開き、久方ぶりに瑞樹の顔を見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます