episode10 成功を祝して
王子主催のパーティー当日。
なんか聞いた感じ十代は俺一人っぽい感じだったからシャーリー達も巻き込んでやった。
これで寂しい思いはしないだろう。
さて、馬車に揺られて三日ほどで王都レオリアルへとやってきた俺はその規模に驚いていた。
「はぇぇ……」
さすが王都。広いし建物が総じて高い。
職場のルインザブも結構発展してるけど、ここは別格だな。
一応主賓の俺は王宮にある離宮に部屋を用意してくれているようで、ルイさんやリチャードさん達と共にそこへ向かう。
一番でかい建物である王城へ近づいていくとその大きさに驚いてしまう。
西洋の城なんて俺、千葉の遊園地くらいでしか見たことないけど、それがホントに小さく感じる。
これが……本物!
しかも史跡じゃなくてちゃんと稼働している政府機関っていうんだからなんかこう……興奮するね!
「おっ、見えてきたよ」
ルイさんの視線の先にある建物。それが離宮らしい。
ラザフォード商会は国有数の大商会らしいから何回か来たことあるのかな?
というよりも、離宮もでかいな。
見た目、赤坂離宮にそっくりだ。
……いや、見たことある西洋風の離宮がそれってだけで雰囲気で言っちゃってるけど。
「あれが宮殿だよ」って言われても俺は普通に信じるね。
車寄で馬車を降りて、コスプレじゃない本物のメイドさんに案内されながらエントランスへと入る。
「ほぁ……」
白い大理石と赤絨毯、天井には金色で彩られたアーチが並ぶ。
あれ、金箔じゃないよな?
豪華絢爛とはこのことを言うのだろうな。
「客室はこちらになります」
「あ、ありがとうございました」
「失礼致します」
メイドさんが部屋を出ていくが、部屋の豪華さに圧倒されドア近くで立ち尽くす。
スイートルームっていうのかな?
寝室とリビングが別れていて、バルコニーもある。
……ここに一泊するの?
俺ん家、寮で六畳一間なんよ? 最近は全然帰ってないけど。
突然の温度差で風邪引くわ。
と、とりあえずソファにでも座るか。
「……へっへへ」
ソファが柔らかすぎて変な笑いが出た。
◆
パーティー当日。
シャーリー達三人はアーサーとは違い、同じ王都に住んでいる為、寮まで迎えが来て、離宮へと向かう手筈となっていた。
エレナとカレンはパーティードレスを用意できず、やむなくシャーリーから幾つか借りることとなり、今、そのサイズ合わせをしていた。
「どう? 不自由はない?」
「うん。大丈夫だよ」
「いやぁ……私がこんな豪華なドレスを着る日が来るなんて……」
シャーリーの問いにエレナは普段通りに答えたが、カレンはパーティードレスとは無縁だったのか、思った以上に豪華なドレスに目を回していた。
「本当に? これから何時間もその格好なんだから、キツイところは直しとかないと後々響くよ?」
「ん〜……大丈夫かな。特に違和感ないし」
「あっ、じゃあ……胸が少しきつ――」
「何もないわね! じゃあ行きましょうか!!」
エレナの言葉を遮って、シャーリーは寮の玄関へと足を進めた。
――
――
――
王宮からの迎えの馬車に乗り込み、パーティー会場である離宮へとやってきたシャーリー達も、アーサー同様にその豪華絢爛さに圧倒されながらも、大広間へとやってきた。
「あっ、アーサー! パパ!!」
タキシードに身を包んだアーサーとルイをいち早く見つけたシャーリーがエレナとカレン二人を連れて駆け寄る。
「やぁシャーリー、とっても綺麗だよ。エレナちゃんとカレンちゃんもね」
「ありがとう、パパ」
「「ありがとうございます」」
ルイからの賞賛を受け取った後、即座にエレナとカレンはアーサーへと詰め寄った。
「アーサー君! やってくれたわね!!」
「私達は何にもしてないんだよ!?」
「何にもしてなくはないでしょ。色々手伝ってくれたじゃないですか」
「雑用だよ!? やったことといったら!!」
「あれ手伝ったうちに入らないからね!?」
「あはは……」
エレナ達の詰め寄りっぷりにシャーリーは苦笑いを浮かべつつ、気になったことをアーサーに尋ねた。
「ところで、私達のこの格好を見てどう思う?」
「えっ、うん。すごく似合ってる。綺麗だよ」
「そ、ありがと」
気の利いた言葉は引き出せなかったが、褒めてくれたからよしとしたシャーリーは、そこで話を終わらせた。
「今日って私達の深海到達を祝う場よね? 何か壇上で言わなきゃいけないのかしら?」
「いや? 俺は聞いてないけど。なんかあってもルイさんがやってくれますよね?」
アーサーがルイに話を振ると、ルイは頭にはてなマークを浮かべて答えた。
「何言ってるんだい? 私は今日は君達の保護者として参加しているんだよ? 主役は君達なんだから」
「……えっ?」
アーサーは当てが外れたのか、顔を青くしていた。
◆
やべぇ、何も考えてなかった。
なんかあってもルイさん任せでいいやなんて考えていたから。
どうしよう……
「帰っていい?」
「ダメに決まってるでしょ」
本音がポロリと出て、シャーリーに間髪入れずに却下された。
「帰すわけないでしょ」
「巻き込んだ責任とってもらうからね」
カレンさんとエレナさんにも言われた。
ちっ! こんなことなら巻き込むんじゃなかった!!
「にしても……すごいわね」
「? 何が?」
色々後悔していたらシャーリーが周りを見渡してポツリと呟く。
「パーティーに参加している人達よ。殆どが大商会の代表、Sランクの元冒険者で実業家の人達ばかり……よくこの短期間でここまで集めたなぁって思ってたの」
「Sランク……」
なんかラノベでよく聞いたランクだ。
「元冒険者の方々は新たな冒険に興味を持って参加したのだろう。商会代表の方々は……海底資源目的かもしれないね」
「ああ、なるほど」
ルイさんの説明で合点がいった。
今のうちにパイプ作っといて、なんぞ見つけたら売らせてもらおうって魂胆か。
資源云々はあれとして、色々と投資してくれるのなら好都合だ。
「まぁ、これからやろうと思ってることは結構大規模ですからね。出資してくれるならありがたい」
「何かするの?」
「ああ、実は――」
シャーリーに応えようとしたところで、壇上に第五王子であるエリオット殿下が上がられた。
……イケメンですこと。人気も高いんだろうな。
「皆、よく集まってくれた! 今宵はラザフォード商会とフォスター造船所が開発した潜水艇が深海6500m到達を記念する宴だ!! 我が国の技術の発展に貢献してくれた二つの企業に乾杯!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
パーティーが始まった。
立食形式で進められ、並べられた料理に舌鼓を打つ。
しかもここの料理結構美味い。
さすが王宮、これはいくらでも入るな。
「ちょっと、少しは遠慮しなさいよ」
「でもこんな美味いもん、食べなきゃ損だろ?」
食える分食っとけの精神で食ってたらシャーリーに嗜められたが、そんなもの知ったことか。
それにだ――
「それはあの二人にも言ったらどうだ?」
「「……えっ!?」」
俺の指差す先。
そこには皿に料理をてんこ盛りにしているエレナさんとカレンさんの姿があった。
俺よりも酷いぞ。あれは。
「あ、あんた達……」
「だ、だって……美味しいんだもん」
「こんな美味しい料理、これっきりかもしれないし……」
頬を桜色に染めながらも、料理を戻そうとしないエレナさんとカレンさんに少し親近感を抱いた。
うむ、庶民とはかくあるべきだよな!
なんて思っていたら、人影が俺達のそばに差した。
「やぁ、楽しんでくれているかな?」
イケメン王子のエリオット殿下だった。
「はい、とても。このような場を設けていただき嬉しく思います」
さすが大商会のご令嬢、返しもお手のものだった。
「それはよかった。……君がアーサー・グレイヴスだね?」
「あっ、はい」
呆けていたら話しかけられた。
すげぇ小物感溢れる返しをしてしまってシャーリーの手前少し恥ずかしい。
「声は聞いていたがこうして顔を合わせるのは初めてだね。改めて自己紹介させてもらおう、私は第五王子のエリオット・ヘラスロクだ」
「ど、どうも。アーサー・グレイヴスです」
差し出された手を取り、握手を交わす。
ちらりと横を見るとシャーリーしかおらず、エレナさんとカレンさんの姿が見えなかった。
が、少し離れたところで二人とも飯食ってた。
……逃げたな。
「殿下、声は聞いていたとはどういうことでしょう?」
エレナさん達にジト目を送っていたら、シャーリーから質問された。
あれ? 知らなかったのか?
「ルイさん、通信事業始めたんだよ。国から許可もらって」
「えっ?」
「無線通信機は時代を先取りし過ぎてるけど、有線通信機は販売できるねってなってさ。それで王宮とラザフォード商会との間で通信できるようになったんだよ」
「えぇ!? そうなの!? てっきり手紙でやり取りしてるんだと思ってた……」
そう、そして今回のパーティーが開催の件を手紙のほかに通信もくれて、その際にシャーリー達三人も招待して欲しいと言ったのだ。
「あの通信機は画期的だ。おかげで各部署との情報交換が容易になった」
「ありがとうございます」
まぁ、通信事業をやろうって言い出したのルイさんだから俺は全くその辺りは関与してないけど。
「ところでこれからはどうするんだい? まさか海底に行っただけで終わらせないだろう?」
「もちろんです」
その為に王国のみならず、他国の人達にも呼びかけてもらうようルイさんにあることを頼んだんだ。
「今度は何をするの?」
「あっ、それは私に聞きたいな」
「私も」
大盛りの料理を平らげたのか、エレナさん達が帰ってきた。
……えっ? 二人とも腹が出ていない!?
あれだけの料理を食ったのに!?
消化早すぎない!?
「どうしたの?」
「えっ!? いや、別に」
咳払いをして話を元に戻した。
「ゴホン……これからは世界を回って海底を調査しようっていうことになったんだよ。もう半年も前から世界中で海底の地形を調べてもらってる」
「ど、どうやって? そんなのうちにあるマルチビーム音響測定器じゃないとできないんじゃ……あれすっごく高いよ?」
シャーリーの言い分はもっともだ。
海底の地形なんて俺達の開発した魔道具で初めて把握できるもの。
だからこそ、ここでルイさんに頼んだんだ。
「ルイさんに頼んで魚群探知機の無料貸し出しをしてもらって、気に入った方には購入してもらうって戦略だったんだけど、その時にマルチビーム測定器を取り付けて、測定した地形データを提供してくれるなら機器代や取付費用を割引するって言い出したら皆付けてくれたってさ」
「な、なるほどね」
別に普通の漁師さんなら海底のデータなんていらないだろう。
ましてや100mや200mならまだしも、1000mとかの深海であれば尚更だ。
マルチビーム音響測定器を取り付けるのには費用はもらってないらしいし、付けるだけで魚群探知機が安く導入できるならデータ採取なんて痛くも痒くもないってことだろう。
「その地形データを使って潜航ポイントを選出していくというわけか。それは我が国だけかい?」
「いえ、他国からも提供してもらい、世界中からデータが集まっています」
ヘラスロク王国の海域だけじゃもったいない。
やるなら世界中で潜りたいさ。
「その言い方、まさかあの……」
「ああ、FAXも販売したんだよ。測定器を付けてくれたお客様には安くね」
「やっぱり」
流石に世界中から測定データを手紙でもらうにはかなり時間がかかるからな。
ただし、他国との間では魔力通信用のアンテナを設置して情報のやり取りをしている。
電波だとその波は直進してしまうから、丸い惑星では電波が届かないところが出てしまう。
前世ではそれを補う為に電波塔を高くしたり、通信衛星を打ち上げたりしていたが、それと違って魔力は直進しないらしい。
なんで海中は無理なんだろうね。
中性子みたいなもんかな? 中性子って水を通らないしな。
なんて考えていたら、エレナさんが口を開いた。
「……ん? 待って? ってことはだよ? これからは世界を回るってこと?」
「うん」
潜るんだから行かないと。
それを聞いて今度はシャーリーが驚いた表情で俺に詰め寄ってきた。
「えっ!? 聞いてないよ!?」
「言ってないもの」
あなた一回深海に行ったでしょ。
しれっと俺が言ったら、シャーリーはその場でへたりこんでしまった。
はしたなくってよ。
「そ、そんなぁ……こんな大冒険に参加できないなんてぇ……」
「えっと……」
涙目になってるシャーリーを見てたらなんか罪悪感が込み上げてきた。
「では休学届を出せばいいではないか」
俺はどう話しかけてやろうか困っていたら、エリオット殿下がしれっと言ってきた。
それを聞いてシャーリーが勢いよく立ち上がる。
「きゅ、休学届ですか!?」
「そうだ。だが今回は研究航海だからな……もしかしたら休学扱いではなく遊学扱いになるかもしれない」
「そうなんですか!? やったー!!」
わーいわーいと子供のように喜んでいるシャーリーを尻目にエリオット殿下に話しかける。
「いいんですか? こんなことで単位をもらうなんて」
俺がそう言うとエリオット殿下が困惑したような笑みを浮かべながら答えてくれた。
「こんなこと……とはな。世界初の大規模深海探査計画に参加するというのに単位をもらえない方がおかしいさ」
「そんなものですか」
そうなのかな……そうなのかも。
「それだったら私も行こうかな。楽しそうだし」
「私も私も! アルトゥムの整備員として同行したい!!」
エレナさんもカレンさんも乗り気のようだ。
これは、なんともにぎやかな研究航海になりそうだな。
「私も、その研究航海に参加したいと考えている。許可を頂けないかな? アーサー殿」
「……はい」
これは……なんとも気を使いそうな研究航海になりそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます