第3話 私を笑わせたい彼


席替えから1週間経った。


ペンの貸し借りは相変わらずの倉持君と私。



でも最近の彼はそれだけじゃなかった。



それはグループ学習の時のこと




先生から出された課題は、教科書を見てプリントの空欄を埋めるというもの。




席が前後の私と倉持君。隣の席の林田君。そして、林田君の後ろの神田さんと席を引っ付けて調べる。




ちなみに神田さんはしっかり者の学級委員長だ。




「各自分担して調べて、後で一緒に確認していこうか!」



との神田さんの声かけで、各々担当になった空欄箇所に取り掛かっていた。





はずだったのだけど…




「ねぇねぇ畑中さん」




「ん…?」




隣で調べ物をしているはずの倉持君が急にこちらにノートを寄せてきた。




(毎回思うけど、倉持君って距離近い…っ)




と毎度のことながらドキドキしながら寄せられたノートを見ると…




「…っ…ぶふっ…」




「あ、笑ったw」




つい吹き出してしまった私を見て、とても満足げな倉持君。




そう、最近の彼のブームは、どうやら私を笑わせることらしいのだ。





しかもタチが悪いことに、必ず授業中に笑わせてくるのだ。




このあいだなど先生から



「仲良いのはいいけど、今笑わせるなー倉持ー」




と釘を刺されていたが、本人はまだ懲りないようだ。





「違います先生ー!畑中さんが僕を見ただけで笑うんですー!」




と勝手に私まで巻き込まれた時にはびっくりしすぎてつい肩をはたいてしまったが、それでも倉持君は楽しそうにケタケタ笑っていた。





…そんなに無邪気な笑顔を見せられて本気で怒れるはずもない。






(なんか私、からかいやすい奴って思われてそうな…)





とっても複雑な心境だ。





「畑中さん、畑中さん」




とまたも呼ばれれば、嫌な予感はしてもまたしまう。




「…ふはっ」




「こらそこ!遊んでないでちゃんと課題する!」




神田さんからの声に倉持君は




「そうだぞ畑中ー、ちゃんとやれよー」




とわざとらしい声でニヤニヤしながらこちらを見てくる。





…ん?




今…




「…………っ!?」




びっくりしている私をよそに、神田さんは「あんたが邪魔してんでしょーが!」と倉持君に説教中。




でも私はそれどころじゃない。




(今、呼び捨てで呼んだよね!?)





今までも隣の席で話をするようになった男子から苗字で呼び捨てされることはあった。




でも、その時とは全然違った。




(顔どころか耳まで全部熱い…)




びっくりしすぎてじわじわと気持ちが体外に出てくる。




でも




今までで1番嬉しいと思う気持ちも確かにあって






どうか、倉持君に気持ちがバレませんように






そう思いながら、今だに神田さんと言い合いをしている倉持君と、その2人を見てアワアワしている林田君にバレないように





密かに教科書で顔を隠した。



















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