第2話 几帳面な彼。

「…と、このようにこの時代は…」



日本史の授業。とっても眠くなる午後の授業。




見渡すと、ほとんどの生徒が眠気と闘いながら、やっぱり眠気に負けている。




私もいつもは眠い。




でも今日は違った。





ーツンツン





(ま、また…?)





「畑中さん、今度は青貸して。」






後ろから背中をつつかれ、低く、けれど人懐っこい声が聞こえる。





その声に従い、私は倉持君に自分の青ペンを渡した。





「さんきゅ。」





と無邪気な顔でペンを受け取る彼

倉持君はノートに私から受け取ったペンで、またノートに丁寧な字をつづった。




(授業中に何してんだ私…)




なぜ授業中にもかかわらずこんなことになっているのか。




事の発端は1週間前に遡る。





 その日の1時限目は数学だった。

うちの数学の先生は色を使い分けて黒板に書くタイプで、ノートに書く際は生徒も書き分けている。

私も最近気に入って使っているペンで色分けして書いていた。




その時だった。




ーツンツン




「…っ?」




急に肩をつつかれ、びっくりして振り返ると、倉持君が申し訳なさそうな声で話しかけてきた。




「ごめん、畑中さん。ペン貸してくれない?今日持ってくんの忘れてた。」




隣にも貸してくれそうな女子はいたが、前後の列の方が席が近かったからか、倉持君は私の方に頼んできた。





(まぁ、断る理由もないしね…)



と思い、ペンを渡した。





さんきゅ、と彼はノートに丁寧に文字を書き始めたため、私も授業に戻る。


その後も先生がカラーを変えるごとに「赤貸して」と後ろからペンで肩を叩かれるのを合図に受け渡しをすることに。




(こんなこと初めてだよ…)




倉持君が、自分のものを使っている。




そう思うだけで、少しドキドキした。




その授業後




「畑中さんのペン、書きやすいな。どこで買ったの?」



「え?」




急に倉持君から話しかけられてさっきよりも心臓がうるさくなる。





「こ、この間ね、新しくできたショッピングモールの文房具屋で見つけて…。」




緊張で声が少し震えてしまった。




「へぇ、初めて見たなー。俺も同じの買おうかなぁー。」




倉持君は本当にそのペンが気に入ったようで、まじまじとペンを見て、メーカーを確認しているようだった。




彼のノートには、丁寧に文字が綴られていた。




(倉持君って、丁寧に字を書くタイプなんだ。なんか、意外かも…。)






 その会話からかれこれ1週間。




「買おうかな」と言っていたはずの倉持君は、なぜかいまだにペンを買っていなくて。


授業中の密かなやりとりはまだ続いている。





ちなみに倉持君は、翌日にはちゃんと自分のペンを持ってきていた。


しかし彼は「やっぱり畑中さんの書きやすいよなぁ。お願い!今日も貸して!」とのこと。





普通なら自分のペンで書いてよ!って言いたいところだけど…





(ペンの貸し借りなくなったら、多分もう倉持君と話すことなんてなくなるよね…)





と思うと、このままでもいいかもとか

思ってしまう自分もいた。





「畑中さん見てこれ。俺男にしては字丁寧じゃね?」




無邪気な顔をして自慢げにノートを見せてくる彼。



この顔を見られるなら、貸すのもいいかって思ってしまうあたり







私は倉持君に少しずつはまってしまっている気がした。




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