第85話


 高校生の時の話なんだけどさ。


 自分で言うのも烏滸がましい話ではあるんだが、俺はそれなりに明るくて人気のあるタイプだったんだ。

 まあそうは言っても、ポジション的には今とそんなに変わらなくて、弄られキャラではあったんだけど、今よりももっとパーソナルスペースは小さくて、男女分け隔てなく接するタイプの人間だったと思う。


 当時はバスケ部に所属していて、それなりに運動もできる方だった。今でこそもやしっ子だけど、当時は体育の授業が待ち遠しいタイプだったんだぜ。


 過信も謙遜もなくいえば、顔立ちも整っている方だったので割と女子人気はあったのだと思う。高校一年から二年の途中までに五回くらいは告白されたし、モテてたってのは俺の気のせいじゃないはず。こんな言葉を使うのは好きではないが、仮にスクールカーストなるものが存在するのであれば間違いなく上位にはいただろうな。


 おい、笑うんじゃねえ。


 そんなわけで充実した高校生活を送っていたわけなんだが、その中でも俺は二人の女の子と友だちになる。

 いや、友だちなんて言うと欺瞞だな。二人の女の子と仲良くなって、その好意を抱かれるようになった、と言った方が正しい。少なくともこの部分だけは俺の推測でもなんでもなく、純然たる事実だ。


 一人はおとなしいタイプの女の子だった。ビジュアルだけでいえば上郡に近いかな。でもあいつよりもずっと控えめで、人一倍周囲に気を遣う優しい子だった。いや、上郡が気を遣わないタイプとは言えないけど。口が裂けても言えないけど。


 もう一人は……そうだな。性格的には佐藤さんみたいなタイプで、でもビジュアルはもっとギャルに寄せた感じの子だったよ。ケバいとかそういうのじゃなくて、なんというか垢抜けた感じの子だった。読モをやってそうな感じといえば一番わかりやすいかな。


 今振り返ってみれば、二人とも俺なんかが好きになってもらうだなんて烏滸がましいくらいのいい子たちで、俺なんかを好きになるにはもったいないくらいの美人だったんだ。いや、別にモテエピソード自慢したいわけじゃないって。


 おとなしい方の子とは高校二年のクラス替えで初めて知り合ったんだけど、ギャルっぽい方の子とは一年の時から同じクラスで仲良くしてたんだ。一緒に文化祭の出し物をやったりしてな。ああ、そういうところも佐藤さんと似てるかも……まあそれはともかく。

 ともかくとしてだ。


 たぶん、ギャルの方には一年の時から好意を持たれてたんじゃないかと思う。でも直接的に告白されたわけではなかったし、俺としてもその頃は若くて、その子のことを好意的には見ていたのは間違いないのだけれど、好きなのかどうかまでは自分の中で折り合いがついてなかった。あくまで仲のいい男子と女子って感じで一年間が過ぎていったんだ。

 そんな俺の曖昧な態度が全ての原因になってしまうだなんて、十六かそこらのガキにはわからなかったんだ。失敗は成功の基だなんて言うけど、失敗自体はやっぱり失敗でしかないと俺は思う。


 そんなわけで、二年になった俺はさっきも言った通りもう一人の女の子と仲良くなる。

 ギャルの方がカースト上位だとすれば、もう一人の子は必ずしもクラスで目立つ存在じゃあなかった。物静かで、深窓の令嬢って感じの雰囲気だったな。別に喋るのが苦手なタイプってわけじゃないけど、友だちはそんなに多い方ではなかったみたいだ。


 俺はとある出来事でその子と知り合いになって(といってもクラスメートなのでもとから知り合いではあったんだけど)、会話を交わすうちに次第に仲良くなっていった。俺の友だちと――ギャルも含めてなんだけど――一緒にカラオケに行ったり、海に行ったり。特にギャルは本当に面倒見のいいタイプで、まだあまり馴染めていない頃合いのその子をよく気にかけて、仲良くしてくれてたな。

 本人が意外と喋りやすい性格だったってのと、こればっかりは嫌な言い方にもなるけど、眉目麗しいタイプだったってのもあって割とすんなりグループには馴染んでいってたんだ。


 そんな中で、出会ったきっかけが少し特殊だったってのもあってか、包み隠さず言えば俺はその子に強く惹かれていったんだ。

 きっとそれは向こうも同じだったんだと思う。グループじゃなくて、俺たち二人でデートに行くことも少しずつ増えていった。


 俺たちが男女の仲になるには、そう時間がかからなかった。

 ――ここまでならよくある青春の一ページってことで微笑ましく終われたんだけどな。


 ……まあ、結月さんならなんとなく察してるとは思うけど。

 きっとそれは、ほとんどすべての人間にとって不幸の始まりだったんだと思う。


 俺たちが付き合い始めた――次の週から、いじめが始まったんだ。

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