第27話
「ま、そういうわけで俺と愛澤は
褒められてるのかも微妙なラインだが、こういうことを臆面なしに言えちゃうのが友口の凄いところだと思う。でもやっぱり頭おかしいは誉め言葉じゃないよ。
しかし場の雰囲気はお世辞にも明るくはない。
友口はガハハと明るく笑うが、空気が白んでしまった感はある。
大して面白くもないどころか大したことをしたわけでもないのに、俺の話でこんな空気になってしまったというのは、なぜだか俺の方が申し訳なさでいっぱいになる。
そりゃ反応に困るよなあ、笑い話が出てくると思って話を振ったらガチなエピソードでてくりゃこんな空気にもなるよね。
友口は平気な顔して店員さんにビールのお代わりを催促しながら箸を口に運んでいるのだから、なおのこと責任を感じてしまう。
むしろなんで友口はこの状況でノーダメなんだよ。メンタル化け物か?
「……そっか~、いろいろあったんだねえ」
応えに窮したように無理やりまとめあげた結月さんの一言を皮切りにトークテーマは移ろう。
これ幸いとばかりに話は活性化し、少し重たくなった場の空気が回復していく。
その後は特に変な話題になることもなく、ゆっくりと時間は進んでいった。
相変わらず俺は結月さんに話しかけるチャンスを得られていない。
どころか、会話の流れが4人と4人に分断されてしまっており、結月さんと同じトークに混ざることすらできていない。8人にしたことが完全に裏目に出てしまっていた。
このままだと女子の隣に座るという当初の目的すら達成できずに飲み会が終わってしまう。
上郡との反省会は必至だろう。
――別にしょうがないじゃないか。
――次があるだろう、今回無理をしたら結月さんから距離を取られてしまうかもしれない。
そんな弱気な自分が顔を覗かせる。
違うだろ、そうじゃないだろ。
明日やろうはバカ野郎。今日を全力で走り抜けられないやつに明日なんて来ない。
なんのために上郡に手を貸してもらっているんだ。変わるって決めたからだろ。
ちょうどいま、友口はお手洗いのため席を立っている。
いまならあの席に移っても、ギリギリ不自然に思われないラインだろう。
「……っし」
自分を奮い立たせるように、されど誰にも聞こえない程度に呟くと、俺は椅子を引き、立ち上がる動作に移る。
しかし、それとほぼ同時に鳴らされたガラっという音に俺は出鼻を挫かれる。
音の出どころは結月さん、その人であった。
「ちょっと失礼するね~」
「は~い」
後輩女子に対してそう断ると、結月さんは席を立つ。
そのまま廊下へと消えていくのだが、向かった先はお手洗いではなく店の出入口の方向であった。
ふむ、夜風にあたって酔い覚ましでもするのだろうか。友口に酒を煽りながら自分自身もそこそこ飲んでいたようだったし。
俺は改めて椅子を引き、彼女を追いかけるようにして店の出入口へ向かう。
『しっかりやってくださいね』
すれ違いざま向けられた上郡の瞳から強いメッセージを感じ取る。
おう、任せろとアイコンタクトに加えて、ばちこんとウインクを返す。おいこら、舌打ちすんじゃねえ。
しかし俺は何を
話す? 口説く? うーん、どちらもなんだか違う気がする。
入口のドアを引くと、カランコロンと上部に取り付けられた鈴が景気よく音を立てる。入店でもないのにこういう音がでてしまうのはなんだか恥ずかしい。
店のすぐ外は公道だ。行き交う自動車が夜の空気を震わせる。
結月さんは扉のすぐ横、お店のベンチに腰かけていた。
どこか緩慢な動きで、ぼうっとこちらに目を向ける。酒にあてられてか、ほんのりと頬は紅く染まり、心なしか目もトロンとしている。
「……あ、やほ~」
「おっす」
「愛澤くんも酔い覚ましかな?」
「ま、そんなとこ」
いつも通りの挨拶を交わし、ほんの少しの躊躇いのあと、俺は思い切って結月さんの隣に腰かける。
真隣というわけではなく、かといって人一人分も離れているわけではない、絶妙な距離感。
ここ数年の自己ベスト更新である。
……やばい、今すぐにでも真横にスライドしたい。もちろん結月さんとは逆方向にだ。
手を伸ばせば
手汗が滲み、唇が渇く。胸の音が結月さんにも届いてしまいそうだ。
「や~、結構飲んだな~。愛澤くんはどう?」
そんな俺の心情は露知らず、にこりと微笑みを向ける結月さん。
「ん、んんっ、ま、まあまあかな」
「あはっ、なんでそこで言いよどむの~」
カラカラに乾いた口から思うように言葉を発せず、結月さんから明るく突っ込まれる。
しかしそれに対しても俺は上手く答えることができない。
あれ、俺ここに何しに来たんだっけ。
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