第二章 野球少年と楽曲披露 佐藤塁
第八話 なんで俺なんだよ
「いや、なんで俺なんだよ」
自主練終わりに階段下でストレッチをしていたら、突然バンドに誘われた。
「佐藤君、よく音楽聞いてるから。好きなのかと思った」
「いやいや、結構全員好きだろ」
「昨夜も公園で僕たちの歌、聴いてたよね?」
「ラ、ランニングコースだからだよ」
盗み聞きしていたことがバレていたことに焦る。いつものランニングコースで歌が聴こえたので覗いてみると、六反田と早瀬さんがいた。六反田とは同じ寮だが絡みはない。早瀬さんは学年一可愛い・エロいと野球部で騒がれていたし、最近ギャルと目立たない男子がつるんでいるという噂も耳にしていた。他にも尾ひれ背びれがついていたが、実際に曲を聴くとやっかみだと分かった。
そこで聞いた音は山を走り込みした時に飲んだ湧き水に似ていた。すんなりと体の奥底に溶け込む感覚。また聴きたくなり、気づけば公園に着くまでのピッチが上がった。それにしても、何をどうしたら俺を誘うことになるんだ。
「それに、猫に傘を貸してた」
「うわっ実在するんだ」
早瀬さんは童顔で可愛いけど、金髪で化粧をしていて個人的には少し怖い。向こうから声をかけてきたのに、不審者を見るように警戒心を向けてくるのも怖い。
「牛乳もあげてたんだよ」
「猫に牛乳ってダメでしょ」
シャーと威嚇でもされているようだ。
「え? ああ、キャットミルクだから大丈夫」
気圧されて、つい答えてしまう。
「ほら、佐藤くんはとても良い人なんだ。動画もあるみたいだよ」
先ほどから、俺ではなく早瀬さんを説得する六反田。そこは事前にやっとけよ。早瀬さんも早瀬さんで「猫に罪はない」とスマホを覗き込んできた。マイペースな猫と、警戒心の強い猫に見えてきた。
「良い人だってことは分かった」
「あざっす……ってなんか調子狂うな」
「出来る範囲でいいから、一緒にやってみない?」
六反田は俺への勧誘を再開した。
「坊主のバンドメンバーっていないだろ。いや、いるだろうけども」
「ということは?」
六反田が憂いを帯びた黒い目で見てくる。
「断ってんだよ!」
そこからしつこい勧誘が続いた。放課後に誘いに来たり、ラブレターを開けたら入会届だったり(これは悪質だったが)俺はとにかく無視した。放っておけば構わなくなるだろ。
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