第一部 バンド結成
第一章 金髪ギャルと作曲開始 早瀬律
第一話 嘘じゃない本物の歌
マジで最悪。早く帰りた。何が『高一A親睦カラオケ ※全員参加』だよ。
「早瀬さん、これ得意なんじゃない?」
「別に」ウチは拒否ってんのに、「えー軽音で歌ってるんでしょ」って知らない女子にバラードを入れられた。歌わないと空気読めないってなるし、本気で歌えば引かれるし。めんど。
四小節歌ってスクールカースト二軍の男子にマイクを回した。そいつも四小節で隣のやつにマイクを回したから、だるい流れができてしまった。耳ざわりなミックスボイスで歌うやつ、照れた演技で歌う女子。リノミーのこの曲結構好きなのに。もう無理、トイレに抜けて耳直しに好きな曲でも聴こ、と席を立った時だった。
……誰だ、今誰が歌っている?
「え、うまくね?」
ざわめく中、誰かが言った。いや、そんなレベルじゃない。そんな言葉じゃ全然足りない。これはそんな、ちょっとカラオケで練習して上手くなったとか声がいいとかそんなレベルじゃない。なんてか、人の魂に届いて溶け込む音楽。嘘じゃない本物の歌。
広い部屋に人が詰め込まれてるけど、声の持ち主はすぐに見つけられた。当たり前だ。その声にはありえないくらい魅力がある。運命の声だ。この声と音楽ができたら、ウチの世界が変わる。変えられる。そう期待して顔を見た。
ん? 誰だあいつ。部屋のすみで小さく座っている男子は、横顔に長い前髪がかかっていて目元がよく見えない。ただ、首にほっそりと浮き出る筋が綺麗って思った。
「早瀬さん? イヤホン落としたよ」
「ありがとう。あいつ誰?」
目を離さないまま、イヤホンを拾った男子に聞く。頬にかかる自分の髪を耳にかけると、ブリーチで痛んだ髪の感触が妙に気になる。もう歌い終わっていて、隣の人にマイクが回っている。
「ロクタンダだよ」
「ロク?」
英語みたいに耳に入ってこない。
「ろ、ロクタンダ。数字の六にイッタンモメンのタン、田んぼの田……だったはず」
麺? よく分かんないけどトイレに行って、軽音のグループにメッセージを送った。
「やばい声みつけた」
次の日の放課後、練習が終わり、いつも通り軽くハイタッチする。
「りっちゃんがそんなに言うなんて気になるね」
ハヤトがベースを降ろしながら言う。あんま使われてない視聴覚室がウチらのサー室。机は床にくっついてて動かないし、三人とも机に座って椅子に足を置いている。
「今思い出しても背中がぞわっとする」
「引っ張ってこれないの?」
ハヤトが目配せしてきた。
「誘ってみた。でも厳しいって」
「お前見た目エロいしギャルいし、ビビられたんじゃね?」
セキの言葉にイラつく。
「は? 清楚っしょ」
つま先に靴を引っかけて持ち上げる。それが落ちて舌打ちした。
「どこの世界に金髪マッシュにピアス三つ、第三ボタンまで開けているのが清楚と思える思想があるんだよ。その世界に行きてえよ」
「でもスカート長いし」
「それは腰に巻いてるパーカーが長いんだよ。てかパンツ」
ハヤトはママより母親っぽい。
「今日のピンクの、可愛いでしょ」
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