混線 ーー「太陽の塔」のひざもとでーー

岡本紗矢子

プロローグ

 ソフトクリームを買って戻ってきたら、あたりが灰色になっていた。

 いつの間に――私は目を見開いて、「太陽の塔」と、その後ろの空とを交互に見比べた。見間違いでもなんでもなく、もくもくと雲がわいていた。さっきまでは爽快なブルーをバックに、白い胴体がくっきりと浮き出していたはずなのに。下向きかげんにカーブした首の先、万博記念公園中央口をいつも威厳たっぷりに見下ろすヒヨコちゃん(私はこの金色の顔をこう呼んでいる)が、急にしょんぼりしてしまったのもかわいそうだった。


 ……と、それはそうと、ミオリはどこいったんだろ?


 ソフトクリーム買ってきたい、そう言う私に「ん、じゃあここで待っとるわ」――ミオリはものやわらかな関西弁でこう返し、頷いたはずだった。塔の足元、「太陽のひろば」の前の、「ここ」で。中央口から来た人は、たいていここで立ち止まって、塔を背にして写真を撮って。そのあと、園内の散策に繰り出していく。

 おーい、ミオリぃ。あんたまで、曇り空に溶けないで。

 あたりを見回した。今日のミオリの、ボーダーのトップスにカジュアルなロングスカートって感じの服はわんさといるが、ミオリとはひとりも顔が一致しない。おっかしいな、ミオリもジュースか何か買いに行ったの? 戻ってこないけど……。


 ソフトクリームの輪郭が、ちょっと曖昧になってきた。

 んー、まあいいや。これじゃ時間がもったいない、とっとと連絡しちゃうに限る。

 私は垂れ始めたトップをとりあえずかじりとると、肩掛けバッグに片手をつっこんだ。と、ちょうど指が触れたところで、スマホがヴーヴー震え始める。

 画面にはミオリの名前が表示されていた。なんだ、あっちからかかってきた。

「ミオリー。今どこ?」

『ユイー。今どこ?』

 第一声が重なる。

 私とミオリは束の間沈黙した。

 今どこって。それはこっちのセリフだよ。て私は思ってるけど、どうもミオリも同じことを思っているようだ。とりあえず、私は先に口を開いた。

「今どこって、とっくにさっきのとこに戻ってきてるよ。中央口入ってすぐ、太陽の塔の真正面」

『えっ?』

 スマホの向こうで、ミオリがあたりを見回しているような気配がした。

『でも、おらんよ?』

「いるって。ていうか、ミオリこそどこ? どっか移動した?」

『え、してへんで。ずっと同じとこにおるんやけど』


 ……え?

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