第10話 ティーバック


【アリス視点】


 ダーちゃんとモモが仲が良いむしゃい

 お風呂場での2人がそもそもイミフすぎる。風呂場で男女が鉢合わせたら、普通ならどちらか片方が出て行く。それが自然だ。

 だけど、ダーちゃんとモモは、初対面にもかかわらず、いきなり仲良く混浴しているのである。


 モモがアンドロイドだと知って、なんだロボットか、と安心した? いや、モモの造りはもう人間と全く同じ、と言っても過言ではない。モモは古代ダンジョンから発掘された——と書物に記録されている——古代文明のオーパーツだ。ロボであってロボでない。どうやら感情もあるみたいだし、モモはもはやドラ◯もんの過去から来た版みたいなもの。過去からやって来たアホ型ロボット。

 何が言いたいかと言うと、モモの陰部の作り込みは半端じゃない、ということ。ちゃんとま◯こ。

 男であるダーちゃんがモモに発情したとしても不思議ではない。


 だから、これは仕方のないことなんよ。こっそりダーちゃんの様子を覗って、ダーちゃんとモモの秘密を暴くのは仕方のないことなの。分かってダーちゃん。


「じゃぁ、行ってくるねー」といつも通り仕事に行く振りをして、廊下に出てしばらく歩いてから「存在の消失ディサピア パーソン」と唱えて、体が透明になる。ついでにいくら音を立てても誰にも感知されない。魔法で感知する以外はウチの存在に気付くことはできない。


 ウチは扉の前まで戻ってから「壁抜けスルー ザ ウォール」とまた唱えて、扉を開けずしてすり抜け、魔王室に戻った。


 


 ダーちゃんは何やら思案顔で腕組みをして突っ立っている。

 そして不意に「さて、やるか」と不敵な笑みを浮かべた。


 早速?! 早速知られざる秘密が暴かれるちゃうの?! あんなに悪い顔して……ニヒル顔もきゃわわ❤︎


 ダーちゃんは何をするかと思えば、雑巾とバケツを持って、何故か熱心に掃除をしだした。

 イミフが過ぎる。そんなの下級魔族にやらせれば良いのに、と思っていると、噂をすれば影。下級魔族が掃除をしに魔王室にやって来た。


 しかし、ダーちゃんは『広告チラシお断り』のシールに描かれた手のように、下級魔族に手のひらを突き出し、首を左右に振った。下級魔族は困った顔で帰って行った。可哀想。


「フフフフ、ハハハハハ、フハハハハハハ」と高笑いしながら、ダーちゃんは柱や家具を磨いていく。そんなに落ちているのか。汚れが面白い程、落ちているのだろうか。ウチの部屋、そんなにばっちくないと思うんだけど。


 掃除がひと段落すると、今度はあからさまにダーちゃんが挙動不審になる。きょろきょろと室内を見回し、誰もいないのを確認してから、扉に耳をあてて、廊下にも誰もいないのを確認しだす。あ、耳だけじゃ不安だったのか、扉開けて目視で確認しだした。もし、誰かいたらどう言い訳するつもりなのか。

 幸いにも廊下には誰もおらず、ダーちゃんは満足して扉を閉めた。


(ダーちゃん、何をするつもり……? これは、明らかに悪さをする前準備だ。さては——モモとの逢引?! 矢◯のように浮気するヤグるの?! ヤグっちゃうの、ダーちゃん?!)


 と、そう思ったが、特に誰かを部屋に呼ぶでもなく、ダーちゃんは部屋の中の戸棚やクローゼットを物色しだした。


(何してんだろう? まさか……お金探してる? そんなの言えばいくらでもあげるのに……)


 女の連れ込みではなくて安心したが、黙ってお金を持ち出されるのは少し悲しかった。

 だけど、ダーちゃんはお金が入っている戸棚を開けても、金品には触れず、何も取らないまま、戸を閉める。


(ぇ、お金が目的じゃない……?)


 そして、衣類のタンスを開けた時、これまで何にも手を付けなかったダーちゃんがついにウチの物に手をだした。

 ダーちゃんが両手に持ち、ぴらっと広げたのは、黒色でレースのついたウチのパンティだった。


(そっちかァァァアアア! 性欲の方かァァアア?!)


 顔が熱くなる。変態かよぅ、と口をついて声を出すが、その声はダーちゃんには認知されない。ダーちゃんもウチのこと、そういう風に見てたんだ、と思うと嬉しくもあり、しかし恥かしさが勝り、変な汗がでる。


 (大丈夫! 洗ってあるやつだから! ちゃんと洗濯したやつだから、大丈夫!)


 必死に自分に言い聞かせた。気を抜けば恥かしさで涙が出そうになる。ダーちゃんは目視することで満足したのか、黒のパンティをタンスにしまった。ほっ、と安心したのも束の間、今後は赤のティーバックパンティを取り出して広げた。


(ぎぃやァァァアアア!)


 羞恥で卒倒しかける。


「違うの違うの違うの! それはついきゃわたんでプチプラだったから買っちゃっただけで、普段からそんな攻めたパンティを履いているわけではなく——」


 無意識に言い訳を述べ連ねていたが、その声もダーちゃんには認知されない。

 ダーちゃんはおもむろにティーバックパンティを顔に近付け——


(やめて……うそ…………まさか——)


 すんすん、と匂いを嗅ぎだした。そして、首を傾げ、「未…………使用?」と呟いた。


(ほぎぃェやァァァアアア!)


 何してんねん! 何してんねん! 乙女のパンティ鷲掴んで何してんねん! 確かに履いたよ?! 買ってソッコーで履いて、鏡で見たら「あぁ……やっぱこれはなかったかも……」って我に返って、少ししか履いてないからそのままタンスにしまったよ?!

 嗅・ぎ・分けるな、それをぉ! わんこか! 愛らしいのは顔だけにしろし!


 ダーちゃんは少し迷ってから、それをこれから洗濯する衣類を入れる籠にひょい、と投げ入れた。


 あ・ら・う・な! 勝手にィ!『どうせアリス様帰ってくる前に乾燥まで終わるから、バレないし、いいよね』じゃないィ! 洗うならちゃんと手洗いモードで洗濯魔筒洗濯機かけてよね!



 結局、ウチの下着を漁って、ダーちゃんは部屋の捜索を終了した。結局何も取っていない。強いて言えば、ウチのティーバックを洗濯カゴに移したくらいである。


(何がしたいの?! ゼロ意味じゃん! イミフ過ぎてハゲる!)


 頭を抱えて叫ぶが、やはりダーちゃんには認知されない。



 決定的証拠が自ら現れたのは、その時だった。

 扉がノックもなしに勢いよく開く。


 

「ダーちゃんさん、愛しのモモちゃんがやって来ましたよォ!」




 ……………………は?

 




 ————————————————

【あとがき】

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