第6話 再会


【アリス視点】


 渋谷駅だった。

 学校の帰り、ホームでスマホをいじっていたら悲鳴が聞こえた。

 顔を挙げると、女の人が倒れていた。男がナイフで女の人を刺したらしい。すごい血が出ていた。死んじゃうんじゃないかって、心配で、でも怖くて。だって、すぐ近くの人だったから。

 助けなきゃ、逃げなきゃ、でも助けなきゃ。

 パニックになっているうちに、目の前に男が立っていた。黒いフードを被ったナイフ男は、嬉しそうに笑った。

 ウチを殺せることへの歓喜。人はこんなに邪悪に笑えるのか、と思った。

 怖くて、逃げなきゃいけないのに、その場に座り込んじゃって、涙が出た。ここまで育ててくれた両親に申し訳なくて。娘が先に逝くことになっちゃって、ママとパパ可哀想って。


 そしたらスーツ着ている男の人がナイフの人にタックルして押し倒して、揉み合いになった。

 ナイフの人は「殺してやる」と何度も喚いていた。

 スーツの人はナイフの人が背中に回したナイフで何度も背中を刺されていた。

「何もかももうお終いだ」とナイフの人が自嘲するように言った。ナイフの人も泣いていた。

 だけど、スーツの人は真っ直ぐナイフの人を見据えて言ったんだ。


「何も終わらない。終わらせない」


 そう言って頭突きでナイフの人を気絶させて、スーツの人もそのまま眠るように目を閉じた。

 でも、眠ったんじゃなかった。死んだんだ。


 ウチは彼こそが本物のヒーローだと思った。

 だって本当に誰の人生も終わらなかった。先に刺された女の人も、犯人さえも。

 女の人は一命を取り留め、犯人は殺人罪で逮捕されたけど、被害者が一人だったから死刑にはならなかった。今は刑務所にいる。

 終わったのは……スーツの人、ただ1人。


 自分の人生と引き換えに全てを守った彼にウチはガチ恋した。もう死んでしまった人に恋するなんて、おかしいと自分でも思った。だけど、この胸の痛みは確かに恋人を亡くしてしまった時の痛みだと確信できた。

 ウチは結局それから16年後の34歳のときに癌で死んじゃったけど、でも生涯独身、生涯片想いを貫いた。絶対に実ることのない片想いを。


 


 そうして異世界に転生して、驚いた。

 だって、ウチ人間じゃなかったんだもん。

 角生えてるし、尻尾ニョロってるし、羽もパタパタだった。まぁ、強くなったら全部引っ込められるようになったけど。

 ウチはとにかく強くなることを目標に頑張った。もうめっちゃ頑張った。夜も8時間しか眠れないほど頑張った。

 またナイフの人が現れても片手でやっつけられるように。

 で、100年くらい経ったら、なんか王になってた。なんか周りが雑魚ぴっぴしかいなくて、ウチがさいつよ、みたいな?

 仕方ないから魔王まおってぶいぶい言わせてたら、なんか人間が被害妄想ヒガモ全開、激おこぷんぷん丸で、攻めてくるから、こっち来んなって拒否ったら、なんか戦争になってた。


 別に人間の大陸とか興味なくて、ウチも暇つぶしで生きてただけなんだけど、人間がウチにくれたにえプレが、なんと前世でウチを助けてくれたスーツの人で、まじ激アツで吐きそう!


 え、でも待って、どゆこと?! 時系列的に可笑おかしない?! スーツの人はウチが18歳の時南無って、うちはその16年後にあぼーんして、なんでウチが100年以上前に転生して、スーツの人が十数年前に転生なの?!




 うーん。わけわかめ。




 とにかく、こうなったらもう精神的に乳を出す勢いでアピって落とすしかない。

 ただの暇つぶしだった人生はもうお終い。ウチの残りの人生はダーちゃんのために全てを費やす。ダーちゃんを落として、結婚して、幸せな家庭を築く。それが魔王軍の今年の運営指針です。



 


 ダーちゃんがばっちっちだと困るから、風呂に離脱フロリダさせたら、ウチは部屋に戻ったGHQした

 ——だけど、


(うーん……気になる。でもダメ。ダメよ〜ダメダメ。プライバシーのアレだよ。アレ。なんとかガイ。ガガイのガイ)


 ウチはお風呂場でのダーちゃんがとっても気になった。右腕から洗うのか、左腕から洗うのか、まさかのチンから?

 確認する術はある。あるにはある。

 誠に残念ながら透視して目の保養アイキャンディすることは無理だけど、風呂ムーブを感知するだけなら、魔法でできる。

 好きぴのことなら何でも知りたい。たとえチンから洗ってたとしてもウチは愛せる。むしろ推せる。


「エレメンタル ソナー」


 ふむ、首からか。うーん、えっちぃ! えちえち過ぎてハゲる! まぢバイブスあげみざわァ!

 そうしてハァハァふすふす言いながら、楽しんでいたら男湯に『チン』のない者。『マン』の者がやって来たのを感知した。


(このない乳のちんちくりん……モモ!)


 そこでどんなやり取り、どんな会話があったのかは知らないし、あまり細かい動きは捉えられないが、普通に混浴して仲良く脱衣所でお着替えしているようだった。


 アンドロイドはセーフ。アンドロイドはセーフ。アンドロイドはセーフ。アンドロイドはセーフ。アンドロイドはセーフ。


 もはやそれしか自分を納得させ得る言葉はなかった。いや、それでも納得できなかった。

 可哀想だからやめておこう、と思っていたけれど、やっぱりアレをやるしかない、という結論に至る。





 ダーちゃんは誰にも渡さない。髪の毛の1本1本から足の先まで、全てウチのもんだ。

 たとえ奴隷にしたとしても、ウチはダーちゃんと結ばれたい。



 ウチはダーちゃんを迎えに男湯に向かった。

 

 ————————————————

【あとがき】

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