第16話 それぞれの思い


(side: オスカー)


「ルナさん!!」


 パタン、と扉がしまる。


(くそっ……! ルナさんに何かあったら……!)


 ふるふると怒りに震える拳。

 俺は一度、冷静になろうと息を吐く。


(殺すことはしないはず。敵の狙いは……公爵の息子である俺を拐うことか)


 一つ疑問なのは、なぜルナさんも捕まえてきたか、ということ。

 ただたんに人質としてか、それとも……。


 コンコン


 バッと、扉の方に目を向ける。


「クリストファー様、一つだけご忠告させていただきます」


「……なんだ」


 俺の本当の名前で呼ぶ限り、公爵家に仕える裏切り者か、公爵家に恨みのあるやつに違いない。

 怒りの混じった声色で返事をした。


「我々は、殿のために貴方を連れ戻しました」


 ズキッと、胸が痛んだ。


「言わば、あの娘は人質。……呪われた種族の生き残りだったのは、驚きましたが」


「……は?」


 呪われた種族?

 思わず聞き返すと、「おっと、失礼しました」と話をやめる。


「……貴方がクリストファー様として、王子にお会いしていただきます。それができなければ……分かっていますよね?」


 では、とこの部屋から離れるように小さくなっていく足音が聞こえた。


「……くそっ」


 ルナさんまで巻き込んでしまった。

 自分の弱さが、本当に嫌になる。


『クリス、君は本当に優しいね』


 ふっと、穏やかに笑う彼を思い出す。

 ……同時に、胸がズキズキと痛んだ。


「――ごめん」


 誰かに向けた謝罪の言葉は、一人だけのこの空間に溶けていった。



   *  *



(side: コルン)


 アルが倒れて……ルナとオスカーがいなくなった、翌日。

 フィオレン劇団の荷馬車の中は、とても静かだった。


 アルはまだ目を覚まさないし、きっとみんな、不安なんだろうな。


(なにか、したい……けど、何をすればいいの?)


 ぎゅっと、僕は目をつむった。

 僕は、オスカーみたいに頭がいいわけじゃない。……僕ができることなんて、たかが知れているけど、何かしたい。


「……あ」


 荷馬車で寝ていたアルのまぶたが、ぴくっと動いた。


「「「「アル(さん)!」」」」


「ぅわっ!!」


 みんなに名前を呼ばれて、がばっと起き上がるアル。

 アルには悪いけど、本当に安心した……。


「……よかった~っ」


 最初にそう言ったのは、レオだった。

 本当にそうだよ。……本当に、よかった。


「どこか痛いところはある?」


 僕は、そうアルに声をかけた。


「痛いところ? ……っ! ルナは!? オスカーはっ」


 アルはハッとして、僕とレオに詰め寄る。


「……っ、ごめんな、さい」


 アルの後ろで、泣きながら謝るレイナがいた。

 ぽろぽろと、きれいな瞳から大きな雫を流す。


「っ…………俺、も、悪かった。

 一人で突っ込んで、結局ルナたちを助けられなかったっ……!」


 怒りに震えるアル。


「アルだけのせいじゃないよ。それに気づかなかった僕も……」


 少しの間の、沈黙。

 すごく長くて、心が重くなってしまいそうな、静かさ。


 この沈黙を破ったのは……。


「いつまでそうやってウジウジしてるつもりかい?」


 バッと、声のした方を向く。

 荷馬車の入り口にいたのは、ハルヴィ団長だった。


「いつもだったらルナが率先して”助けに行こう”と動くけれど……君たちは?」


 ずんっとハルヴィ団長の言葉が心に響く。


「ルナがゲイルタウンで捕まったときも、結局はルナ自身の力で戻ってきている。力はなくとも、行動力や決断が一番はやいのはいつもルナだ。なにもできない自分にはなにができるか、考え続けている」


 ハルヴィ団長は、少し悔しそうに顔を歪めた。


「……私も、何も出来ない。剣はそこそこ出来たとしても、君たちには到底及ばない。毎回、君たちが敵と戦っている時、私には何も役に立てない」


 だけど、ハルヴィ団長は一度目を閉じて、もう一度前を向く。


「だが、君たちが下を向いている時に、前を向かせることなら出来る」


 一人一人の目を見て、話し続ける。


「……ルナはいつも前を向く。なのに、君たちが下を見ていてどうする――?」


(そういえば、そうかもしれない)


 毎回、ルナは自分で仲間を助けている。

 力がない自分にはなにができるか、どうすればいいかを考え続けてたんだ。


 ルナは魔力もないし、力もないけど、一つも「弱い」とは思わなかった。


 その理由は、これだったんだ。

 力はなくても考え続けて、くじけない心が、ルナのなんだ。


 空いたパズルのピースがはまったときのような感覚。

 ハルヴィ団長のあとに、アルも口を開いた。


「……確かに、そうかもしれない。ルナが倒れたのを見たとき、つい感情的になって一人で突っ込んだ。数十人いる兵士を、俺一人で倒せるわけもないのに……」


 ぎゅっと拳を握りしめるアル。

 悔しそうに顔を歪めるアルを見て、僕はぎゅうっと胸が締め付けられた。


「……みんな」


 僕がうつむいていると、アルのはっきりとした声が聞こえた。


「俺は、ルナとオスカーを助けたい。でも、俺一人じゃ助けられない……」


 アルは、決意に満ちた瞳で、僕らを見つめた。


「だから、力を貸してくれ」


 ぶわっと、熱いものが込み上げてくるのが分かった。

 アルは、あんまり僕たちに頼ってくれない。というか、自分だけで何とかしようって思ってたんだと思う。だから、ほとんど僕たちに助けを求めない。


(アルに頼られることが、こんなに嬉しいなんて……!)


 僕は口許を持ち上げて、アルの顔を覗き込む。


「うんっ! みんなでルナとオスカーを助けようっ」


 僕の声に続いて、レオもニカッと笑った。


「もちろん!」

「わ、私もっ、ルナとオスカー様を助けたいです!!」


 レイナも顔を真っ赤にして、同意してくれる。


「……ありがとう」


 アルも……頬を緩めて、嬉しそうに笑みを浮かべた。



 さあ、僕たちの仲間を救いだそうっ!



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 ☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆

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