前へ進むための道。

第7話 リランガ草原の村娘

 戌の刻(午後二十時)フィレーナ港の宿屋では、ベルヴォーと別かれたフィオレン劇団が次の劇の打ち合わせをしていた。


「ここフィレーナ港には昔から伝わる物語があるらしい。それを調べてみた」


 台本を受け取り、ペラペラとページをめくる。


「ふーん、感動系の物語なんだ。……え?」


 役割分担のページを見て目を見張った。


「私が……主人公?」


 みんなも、えっと顔をあげる。


「そう、やっていいよ」


 ぱあっと笑顔になるのがわかった。


(やったぁ!)


 今までは子供だからという理由もあって脇役をしていた。だが、やっと主人公を演じてもいいと言われ、はしゃぎまわるルナ。


「今回は、ルナじゃないとだめなんだ」


(どういうこと?)


 また、台本へと視線を移す。


 ”あなたは、今まで苦しんでいたけれど、いいよ。もう……いいよ”

 カーナは青空を見上げながら、苦しくも美しい涙をこぼした。


「……そういうことか」

 

 納得した。


(泣く演技ができるのは私だけだからか)


「……えっと……」


 主人公のカーナは心優しい少女で純粋。病気だった最愛の母をなくして絶望に陥る。が、まわりの人たちのおかげで絶望から抜けられる…か。


『いやだ、いやだ! 死なないで! マリア!』


 次の瞬間、目の前に泣きじゃくる黒髪の女性がいた。よく見ると、女性の先にはやせ細った老婆がベットで苦しそうにしていた。


『いやぁぁぁぁぁ!!‼』


 耳が痛くなるような悲鳴に、耳をおさえる。だが、声はだんだん大きくなっていった。


「やめて!」


 ハッと我に返る。


「ルナ!」


 急に、視界が黒く塗りつぶされ始めた。

 手足も、うまく動かない。



 そして、私は気を失った。



*****  *****



「……?」


 重いまぶたをゆっくり開く。

 すると、


「ルナさん!」


「きゃあっ!」


(び、びっくりしたぁ!……あれ?)



 なんで、床が動いてるの?



 ガタッ、ギシッと聞き慣れた音がする。


「俺達の荷馬車ですよ。今エアリード地方に向かっています」


「フィレーナ港での劇は!?」


 ガバッと起き上がる。すると、オスカーは苦笑いした。


「えっと……していません」


「して、ない?」


 コクコクと頷くオスカー。


「重要な役のルナさんが目を覚まさなかったので……やってません」


 ショックがないように話しているのかもしれない。だが、ルナには一つも聞こえていなかった。


「私、いつまで寝てたの?」


「……二日、です」


 キュッと唇を噛みしめる。


(私の、せいだ)


 私の、せいで……。



 次の瞬間。


 ギギーィッ!


「わぁっ!」


 大きな音の後、荷馬車が大きく揺れた。

 その時、グッと手首が引かれた。そのまま床へと倒れ込む。


「いたた……?」


 気がついたときには視界が真っ白になっていた。しかも、暖かい。


(もしかして……)


 ガバッと顔をあげる。すると、鼻がくっつきそうなほどの距離にオスカーの顔があった。 しかも、ルナが顔をうずめていたのはオスカーの胸だった。


 戸惑ったような表情。いつも見せない、珍しい顔だ。


 オスカーの金の髪が、和やかに揺れた。


「! ……大丈夫、ですか?」


 ハッと我に返ると、すぐにそこからどいた。


「ごっ、ごめんね! オスカー」


 ドキン、ドキンと心臓がうるさい。

 こんなの、はじめてだ。


(どうして……?)


「ルナ! オスカー!」


 ドキッと心臓が一層うるさくなった。

 声がした方を向くと、アルが荷馬車に顔を出した。


「大丈夫か? ……ルナ、顔が赤いぞ。熱があるんじゃ……?」


 アルの手が伸びてきて、ビクッと震えたのがわかった。

 それを紛らわすように、パシッとアルの手をどけた。


「大丈夫!」


 それだけ言って、荷馬車から飛び出す。

すると、まるで別世界のようなきれいな草原が広がる。その草原に、同じ年くらいの美しい娘が立っていた。


「ご、ごめんなさい!私が馬車の前に飛び出してしまったから……お怪我はありませんでしたか?」


 美しい娘は、太陽に反射してキラキラ光る銀の髪をゆらして心配そうな顔をした。


「……あなたは?」


「失礼しました。私はレイナ・ドルチェ。ここリランガ草原にある村で生まれた者です」


 丁寧な喋り方で自己紹介をするレイナ。


「どうした? ルナ」


「声がしましたけど……!?」


 荷馬車から出てきたアルとオスカーが目を丸くする。


「レイナさん!?」


(え?)


 彼女の名を呼んだのは、オスカーだった。


「まぁ、クリス様!?」


(ええっ?)


 オスカーじゃ、ない!? 聞き間違い!?

 いや、たしかにレイナは”クリス様”と言っていた。


「どっ、どういうことぉ!?」


 ルナの大声が、草原に響き渡った。


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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆


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