第8話 神崎社長の怪しい動向

 俺は加藤翔。

 KANZAKIホールディングスの神崎宏人の社長補佐を担っている。

 社長とは、高校からの同級生だ。その後、偶然大学も同じになり、社長の起業を手伝った経緯からなんだかんだ今まで一緒にいる。

 

 社長はとにかくモテる。それは知り合った高校時代からずっとだ。

 俺も人並み以上にはモテてたと思うが、社長はレベルが違った。


 入学シーズンのたびに宏人にアプローチする女は数知れず。それは、同級生に限らず、後輩先輩問わずだった。なんなら、教師や保健室の先生からも狙われていたし、他校の女子生徒達も校門前や文化祭で宏人にアプローチをしていた。

 そして『全学年の半数以上の女子は神崎宏人を好きになったことがある』という伝説まで作り上げた。

 高校卒業してからも神崎宏人の名は、未だに挙がると同窓会のときに当時の担任から聞いた。


 問題もたくさん起こしていた。まあ、いわゆる女関係ってやつだ。宏人は誰にも本気で好きになったことないようだった。


 付き合った女、セフレの女と色々いたみたいだが、まあなんとも振り方が雑で女の気持ちも考えないもんだから後処理は全部俺がしていた笑

 

 そんな宏人を見てきた俺だからこそ、宏人の動向が怪しいと俺のセンサーは察知していた。


 普段俺が女と何しようが口出しすらしなかった宏人がキレたのだ。


 「行かせてやれよ」


 その声は隣のテーブル卓に座る宏人だとすぐにわかった。


 思わず女に抱きついていた手を離した。


 「お前らマジしょーもねー」

 再び宏人が言った。


 これは「お前ら」と言いながら主に「俺に」キレているんだと感じた。


 女が外へ出たことを確認するとすぐさま宏人に向かって「申し訳ありません」と謝罪した。


 「俺じゃねえ。本人に言え」


 (いやあ、何でキレた?今までだってこういうこと宏人の前であっただろ…)

 

 「翔、俺に文句でもあるのか?」


 (何考えてるか分かったのか?!)


 「そ、そんなことあるわけないじゃないですか〜」


 「とにかく、お前ら本人に謝れよ」 


 「「「「はい!!」」」」

 

 宏人はそう言いながら立ち上がり扉へと歩き出した。


 「え、宏人帰んのか?」


 「帰んねーよ」

 そう言って外へ出て行った。


 「俺らちょっとやり過ぎましたかね?まさか社長が口出しすると思わなかったっす」

 「俺も俺も!」

 「紫乃ちゃん可愛かったからちょっと揶揄うだけだったのに社長も厳しいですねー」


 「お前ら社長に反抗するのか?」

 部下3人に叱責する。


 「とんでもないです!軽率でした。申し訳ありません」


 (俺もお前らと同じ考えなんだよ。でも、立場上こう言うしかないんだ。分かってくれ)


 20分が経ち、社長が出て行ったことすら忘れていたその時、俺は衝撃の光景を見た。


 宏人が女の手を引いて戻ってきたのだ。

 俺が驚いているのは手を引いていることじゃない。

来るもの拒まず去るもの追わずの宏人がどういう風の吹き回しなのか出て行った女を「追いかけた」ことだった。

 

 そして、さらに驚いたこと。

 店を出てから4次会をしようと次のお店に行く流れになったとき、宏人は行かないと言った。

 いつも通り帰りたいのかと思い「車を手配させます」と言うと「いや、いらない」と言う宏人。

 その返答に「え、帰んないのか?」と聞く俺に

 「だったら一緒に行きましょーよー社長〜」と続く部下。


 「悪い、俺戻るわ」

 そう言いながら来た道を引き返す宏人。


 (え、戻る?どこに?)

 

 「戻るってさっきの店にか?」

 後ろ姿の宏人にそう問いかける。


 宏人は振り返らず手だけを挙げ、去って行った。

  

 (社長、あなた怪しすぎます)

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