第4話 銀座の夜に
〈2022年5月〉
占いで言われた通り、銀座のラウンジで働くこと早3か月。
会社経営と週1の夜職の両立に慣れ始め、指名客もつくようになった。
銀座の街はやはり他の町とは違い、経営者や上場企業の役員などが集まる上質な者の集まり。
学生時代友達と一緒に数カ月働いていたキャバクラとは、客の身なりや飛び交う話の内容さえも全く違うと感じた。
しかし、来る客は皆40歳以上の既婚者ばかりで本来私が目的としている望む相手は現れない。
(私ここで働くの無駄だったんじゃないの…?)
「紫乃ちゃん、VIP指名で!」※紫乃は絢菜の源氏名
ボーイがそう言ってきた。
「はーい」
(え、VIPルーム?私売上上位じゃないけど…しかも指名って誰から?)
ここのお店では、売上上位の者しかVIP客には接客させないシステムなのだ。だから、指名されない限り新人の私がVIPの対応をすることはありえない。
だが、現に私は呼ばれ指名まで受けている。仕方なくボーイの案内についていく。私自身このVIPルームには面接で入ったとき以来だ。
少し緊張しながら部屋に入ると、10数人の男性陣に売上上位の女の子たち8人くらいがカラオケの音源に合わせながら何やら楽しく騒いでいた。
男性陣は、20後半〜30前半といった年齢層に見え、チャラチャラしている感じだ。
(うわあ…私このノリ超苦手…)
「あーきたきた!紫乃ちゃんこっちこっちー!」
カラオケの音量をも上回るその大きな声の元に視線を向けると、この店No.1の蘭さんが手招きをしている。蘭さんの周りにいる数名の男どもがこちらを見ていた。
蘭さんに導かれ、足を運ぶ。
「この子が1番新しく入った紫乃ちゃん!」
「初めまして紫乃です。よろしくお願いします」
(なんで私ここに呼ばれたわけ…?)
「うわー予想より上だったわー」
「え、超可愛いじゃん!」
「俺タイプだわー」
「蘭の言うとおりだったわー」
口々に男どもが喋る。
(え、何?私?)
「でーしょー?新人だからみんな指名してあげてねー」
そう言いながら私の肩に両手を置きながら私を紹介する蘭さん。
「はい!じゃあ紫乃ちゃんは真ん中ねー!さ、避けて避けてー」
蘭さんが男たちの座席間隔を空けさせ私をその間に座るよう指示する。
4人の男の人に囲まれる形で着席した。
(えーいや、私こういう若いウェイウェイノリほんと苦手…蘭さんお願いだからここに座らせないで…)
私の願いとは裏腹に男たちは酒を飲めやら口説かれるやらでもうパワハラかよというカオス。
終いに私を呼び出した蘭さんは知らぬ間に席を離れ、遠くで男たちと女の子たちとカラオケで盛り上がっている始末。
(早く帰りたい…もう私にいつまで彼氏いたとか、えっち最後にしたのいつとか、そういう「答えられない」質問やめてくれー)
「わ、私ちょっとお手洗いいきまーす!」
(トイレに行って逃げたい…)
「えー寂しいー!」
と取り巻きの男1人が私を行かせまいと手を引っ張る。
「いや、またすぐ戻りますから!」
(キモイな。触ってくんな!)
「えーやだやだ行かないでー」
そう言いながら抱きついてくるその男。
と思いきや横の男も手を握ってくる。そして、私の両手をなんだかんだガッチリホールド。
(いや、待て。超絶キモいんですけど。たしかに全員かっこいい部類に入るのかもしれないが酔ってたとしてもマジ全員キモすぎ。)
「ちょっちょっとお!」
さすがにこの状態には私も焦る。
(え、なんか膝上触られてるよね?気のせいじゃないよね…?)
VIPルームが広すぎて、女の子たちが私の近くにいないことに今更ながら気づく。
女の子たちはみんな前のカラオケ部隊と遠くで一緒に騒いでいる。
(え、私結構やばい状態?!どうしよ。ガッチリ抑えられてる。逃げれない…)
その瞬間…
「行かせてやれよ」
ドスの効いた低い声が隣側から聞こえたと同時に男たちの手が緩んだ。
その隙に私は思わず立ち上がる。
そして、男たちの目線の先に釣られるように声の主を見た。
「お前らマジしょーもねー」
そう言った男は、なんとも端正な顔立ちをした男だった。
(神だ…神と言おう。この美男子に。ありがとう神!)
私はとにかくこの場から一度去りたくて、神に軽くありがとうの会釈だけしてそそくさと外へ逃げるようにVIPルームを後にした。
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