すれ違った僕らは幻想の中

『すれ違った僕らは幻想の中』

ザラニン様の作品

https://kakuyomu.jp/works/16817330664037481584


超能力を扱いきれず人を傷つけた経験のある少年と、両親と手足を失い復讐に燃える少女の現代ファンタジー。



前置き

『Fate/stay night』や『Dies irae』といった雰囲気のビジュアルノベルを好きな方には刺さる作品。作者様本人が型月作品のような要素が入ってるよ、と公言している通り、全体的な雰囲気がそう思わせるだけのものがあります。


私はあまり作品数、というか一作品しかまともに読んでいないです。一作品に消費する膨大な時間に見合う感動は得られるのだが、いかんせん読むのにエネルギーを使うので。


明確な方向性が決まっているのは強みですが、同時に弱点も同じになってしまうので、オリジナリティという面では尖らせやすいが個性にしづらい点がありますね。


一応最新話の31話まで読んでいますが、こちらで加味して書いていくのは27話まで。



1 タイトル&キャッチコピー


タイトル:特徴的

『すれ違った僕らは幻想の中』

タイトルが現代ファンタジーを思わせるタイトルで上手くまとまっていると思う。

「すれ違った僕ら」で複数の登場人物を思わせ、「幻想の中」でふんわりとファンタジー(というより伝奇モノ感)を感じさせてくれます。

幻想の中とは何か、というのは読者に興味を惹かせる疑問としては十分かと。



キャッチコピー:テーマ性あり

『2人の運命はすれ違いで交わり、すれ違いで終わる』


すれ違いをテーマにしているのはわかりますが断言しすぎて終わりが軽く見えているのが少し残念な点。


終わりが見えているところで過程に言いようのない悲しさを生み出したりする効果をもたらしたりすることもあるのですが、キャッチコピーよりも小説内の描写で匂わせてほしい感があります。一時的な召喚なので恋が実っても別れる未来しかない某作品みたいな。


現状ではすれ違いというすれ違いは起きていないのでそんなにごたごたはないのですが、話の内容的に、キャッチコピーでやりたいことが見えているのは素直にプラスとはしづらい。


最初のすれ違いが物理的なものだったので最後も綺麗にすれ違って終わりや、すれ違った結果……みたいなラストにしろ、最後に前触れもなくパッと出てきてくれた方が綺麗さが増す……と思います。



2 あらすじ


あらすじ:漫画感

ビジュアルノベル感もあり、漫画感も感じさせる必要最低限のあらすじ。雰囲気が感じられるのであらすじ読んでよさげと感じたら期待通りのものをお出しされる感覚でございましょうか。



3 ストーリー


ストーリー:ビジュアルノベル

プロローグでガツンと作品の方向性と設定で殴ってくる感じです。特にヒロインのプロローグが良いですね。グロさを売りにする形式の作品はどちらかというと好きではないのですが、この作品は悲惨な状況の中、憎悪の形成されていく様がわかるのが良い。ひたすらグロさを説明されるよりこちらの方が好印象ですね。ふるい落としにもなっているのである意味親切。

主人公とヒロインの出会いから交流を深めていき、ヒロインのいる「異界」に主人公が足を踏み入れていく……という過程が長い。そして主人公がちゃんと戦闘に参加するまでも長いです。


じっくり読める小説としては非常に好ましい形態であるものの、わりと勢いが求められているweb小説では向いてないですね。


展開自体は非常に好みなのですが影響もろに受けているなというのもまた事実。読みなれている人には「あーこれこれ」となるはず。


ただ主人公が活躍するまでが長い話って、もどかしさが非常に強かったりするので活躍するとカタルシスがクソデカなのですが、強めのストレス要素なのですわ(ここは個人の感覚……嘘です全て個人の感覚です)。



4 キャラ


キャラクター:古き良き

主人公は結構可もなく不可もなく、といった感じ。未熟さを自覚してそれでも力になりたいという思春期ならではの感情は納得できますし、言ってしまえば無難に落ち着いていますね。


ヒロインの方が目的意識や感情がはっきりしているので魅力に感じ、主人公がヒロインに惹かれる理由も説得力が出ています。


他に登場するキャラも一本筋が通っている。



5 世界観


世界観:伝奇モノ

魔術や超能力、化け物などの存在があり、またきっちり化け物が化け物として描かれている。現代ファンタジー、かつシリアスものとしての完成度は高めですね。



6 文章


文章:2000年代

全体的にビジュアルノベルや昔の漫画の伝奇モノを思わせる文章で進行していきます。個人的には好み。化け物の人間蹂躙シーンだったり、別作品では巨大ロボットの戦闘シーンが結構巧みに描かれていたりしたので、「異物」を描写するのがわりと得意なのかもしれません。


世界観にオリジナリティがないわけではないのですが、展開が参考にした作品のなぞり感がなくもないのでわりと感じづらいところ。



7 まとめ


伝奇もののビジュアルノベルを参考して書かれているっぽいので良さも悪さもはっきりしている。はっきりしているので読者も安心して好きになれるし、嫌いになれる。明るい作品を求めている人にはとことん向かないが、沼に沈んでいくような話が好きなら頭まで溺れられる……かと。

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