昇らない お日さま (9) お月さまの涙
パーパスがお月さまに近づくにつれ、どこからかシクシクと泣いているような音が聞こえてきます。彼はそれが、お月さまの泣き声だとすぐに気づきました。
あぁ、下ではシュプリンが大騒ぎをしているだろうな。月がこれだけ涙をこぼせば下界では、さだめし洪水に違いない。
パーパスは帰った後に聞くだろう、シュプリンの愚痴を思い浮かべてゲンナリとしました。
「さてと」
気を取り直したパーパスはお月さまの正面まで行くと、杖を横にしてそこにお尻を乗せました。座り心地は良くありませんが仕方ありません。
「これ、月よ。なぜ泣いているのだ。そして、なぜここに留まっているのだ」
パーパスが尋ねます。ちょっとぶしつけな感じもしますが、それがパーパスなのです。シュプリンがいつも彼に文句を言うのも、少しうなずけますね。もっともこんな変わり者だからこそ、大魔法使いになれたのかも知れません。
「あぁ、これは誰かと思えばパーパスさま。一体こんな所まで、どうしたのでしょうか?」
五百年ぶりの再会に、お月さまは驚きます。
「どうしたも、こうしたもないよ。さっきも言ったように、お前がいつまでも同じ場所にいると太陽がこちらへ来られないだろう。これは尋常ならざる事態だと思って、やってきたんだよ。
ワシとお前さんは昔ながらの知り合いだ。何か事情があるのなら、ワシに話してみないかね? きっと力になれると思うんだ」
ようやくパーパスは、お月さまに優しい言葉をかけました。これ以上泣かれては、本当に影の森は大洪水になってしまうからです。
「ご存じの通り、私はもう何千年、何万年も夜の世界に一人きりでいます。そして毎日毎日、同じ道を通って過ごすばかり。もう寂しくてたまりません」
彼女が話を始めます。
「一人きり? いや、周りに多くの星々がいるじゃないか。寂しいという事はなかろうて」
パーパスが口をはさみました。こういう告白は、まず黙って聞くものだという事を知らないのでしょう。
「あんなのはダメです。みな只々またたくようにピーチクパーチクとうるさいだけで、私の話し相手にはなれません」
彼女は切々とうったえます。天上の事にそれほど詳しくないパーパスは、そんなものなのかなと思いました。
「そこでふと考えついたのが、お日さまの存在です。私たちはもちろん会った事はありませんが、その噂は、もうずうっと前から聞いておりました」
なるほどそうですね。お日さまとお月さまが同じ場所にいるなんてありえません。
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