昇らない お日さま (8) 魔法の杖

さて、やる事が決まったパーパスは、さっそく両手で握った魔法の杖を縦に目の前へとかざします。そして、何やらブツブツと唱え始めました。何秒かたって、杖が少しブルっと震えたかと思うと、杖は勢いよく天を目指して昇り始めます。杖を握っているパーパスも一緒に、天へと昇ります。


え? 杖にまたがって行くんじゃないのかって?


まぁ、他の魔法世界ならそうかも知れませんが、ヴォルノースの世界では違います。だって杖にまたがったりしたら、足の付け根が痛くなってしまうじゃありませんか。


さて、杖につかまったパーパスは、グングンと空高く上昇していきます。下を見るとついさっきまで朝ご飯を食べていた魔法の家が、ずいぶんと小さくなっています。


「ここまで昇るのは久しぶりじゃな。十年ぶりくらいかの」


パーパスは、風になびくヒゲを少し気にしながら下界を一望しました。もうそろそろ、影の森の全体が見えてきます


「いつかは、どうにかしなくてはなるまい」


大魔法使いは、自らの暮らす森を見下ろしてそう思いました。どうやらパーパスと影の森の間には、大きな秘密がありそうです。


地上から飛び立って、何分が過ぎたでしょうか。大魔法使いパーパスは、ヴォルノースの森の周りを囲むようにそびえたつカクリン山脈帯をも眼下に従え、間もなく雲の中へと入りました。


月が見えるくらいですからそれほど厚い雲ではないのですが、彼の帽子や服は雲の中の水分でかなり濡れてしまいます。そこに強い風をもろにくらうので、大魔法使いは寒くなってクシャミをいくつもしました。その度に、長いひげがダンスを踊るようにワサワサします。


もしこれで風邪でもひこうものなら、またぞろシュプリンに大目玉を食らうでしょう。パーパスは、ちょっと憂鬱になりました。パーパスはシュプリンのご主人様なのに、頭が上がらない所があるのです。


「さぁ、もうすぐじゃ。月があんなに大きく見えて来た」


大魔法使いの言葉通り、まんまるいお月さんがすぐそばまで迫って来ています。彼がお月さまに会うのは、そう、五百年ぶりくらいでしょうか。前は月に住んでいるウサギたちに沢山の子供出来て、とてもウルサイと相談されたと彼は記憶していました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る