昇らない お日さま (10) お月さまとお日さま

「それで、お前がここに留まっている理由と、お日さまが何か関係あるのかね」


年を取って、少々せっかちになったパーパスが話を促します。


「はい。空にポッカリ浮かんでいる事、一日に一回みなさんに姿を見せる事、そして何より真ん丸な事。私とお日さまには共通点が沢山あると気がついたのです。だから、きっと良いお友達になれるのではないかと思いました」


ここでお月さまはその頬をちょっと桃色に染めました。多分、地上から眺めると、それはピンクムーンに見えたでしょう。


「友達にね……。だが、お前と太陽が会うのは不可能じゃ。どうやって、友達になるつもりなのかね」


パーパスは杖に座ったお尻が少し痛くなってきたので、お尻の位置をずらしながら聞きました。


「はい。聞くところによると、下界では文通という方法があるらしいですね。手紙のやりとりです。それなら私にも出来ると思い、お日さまに便りを出そうと考えました」


お日さまとお月さまの文通。何かとてもロマンチックな話です。なぜならお日さまは立派なジェントルマンなので、素敵なレディーのお月さまとはお似合いなのでした。


妙なやり方を考えるものだとパーパスは感心しましたが、そのままじっと聞いています。


「でもどうやって手紙を渡そうかと考えていた時に、ふと下界に目をやると、森の中で一羽のゴクラクチョウが眠っていました。そこで閃いたのです。あの者に手紙を運んでもらおうと」


ゴクラクチョウというのは、きれいな飾りをした鳥の名前です。


「声をかけたところ、彼は快く引き受けてくれました。私はさっそく手紙を書いて、ゴクラクチョウに託したのです」


お月さまは、遠くを見て思い出すように話しました。なにかとてもうれしそうです。


「で、返事は来たのかね」


少し興味の沸いたパーパスは、身を乗り出して聞きました。おかげで危うく、杖から落ちそうになりましたが。


「はい!」


お月さまが、喜々として答えます。よほど返事が来たのが嬉しかったのでしょう。


「内容は、是非とも文通をしたいとの事でした。それからというもの、お日さまと私は何度も何度も手紙のやり取りを重ね、やがて下界で言うところの、恋人同士になりました。


会う事は出来ませんが、心のつながりがあれば立派な愛が生まれます」


お月さまはここまで言うと、更に顔を赤らめました。多分、地上では「月が燃えるような真っ赤になった。良くない前触れに違いない」と騒ぎになっている事でしょう。

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