魔法のマグカップ (2) 物置
だけど……。
どうせパパが散らかしたんだから、何か入り用なものがあるかどうかを確認しようとママは考えました。この上、少しくらい散らかしたって、わかるものではありません。どうせパパが片付けるのだからと、ママは階段を下りて行きました。ちょっとチャッカリしています。
「あら、まぁ……」
ママは、先ほどと同じセリフをもう一度口にします。地下の物置は、ママの予想をはるかに超えるチラカシようでした。かろうじて、足の踏み場があるくらいです。
「これじゃぁ、何があるのか調べるのは無理ね」
ママはそうつぶやくと、このガラクタ倉庫を後にしようとしました。でも、ふとある品物が目に入って来たのです。それは出口近くにある棚の、上から二番目のところ。他のものに隠れるように置いてありました。
「あら、懐かしいわ」
ママはそれを手に取り、愛おしそうに持ち上げました。
ママが見つけたのは、マグカップでした。でも、ただのマグカップではありません。魔法のかかったマグカップです。ただ、何年もしまっておいたせいで、すっかりホコリまみれになっていました。
ママは物置の中や階段に散らばる、あれやこれやの品者につまづかないよう気をつけながら、慎重に一階へと戻ります。そして思い出の品を、キッチンのシンクの中へそっと置きました。
ママは古びたカップに洗剤を少し入れ、次に蛇口をひねって水を入れます。
そして、
「泡の精、水の精、どうか私の大切な思い出をキレイにして下さいな」
と魔法の呪文を唱えると、洗剤と水は途端に混じり合い、ブクブクと泡を立てはじめました。泡はすぐに、カップの中や外へくまなく広がります。それを注意深く見ていたママは「もう、そろそろかしら」とつぶやくと、カップの取っ手をもって、蛇口から出る水にかざしました。
「さぁ、キレイにキレイにキレイになぁれ」
ママが楽しそうに口ずさみます。でもこれは魔法の呪文ではありません。ママの心が自然にそう歌わせているのです。だって、この魔法のマグカップは、ママにとって本当に懐かしい思い出の品だったのですからね。ウキウキするのも当然なんです。
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