魔法のマグカップ (1) ママ、怒る

ここはヴォルノースの北の森。その一角に、ヒト妖精の男の子ニールが住んでいるお家がありました。


二階建ての石造りの家には、今、ニールのママの他には誰もいません。ニールは朝早くから遊びに行ってしまいましたし、パパはお仕事が休みという事で、早くから物置でゴソゴソしてると思ったら、プイッとどこかへ出かけて行ってしまったからです。お休みの日には、やってもらいたいあれやこれやが山ほどあるのに。


いつもの事とはいえ、ママは呆れかえってしまいました。でも、誰もいない静かな我が家。外には早くも春風が吹き始め、窓を開けてもいいかなと思う気持ちのいい午前中です。


ママは魔法の力を使いながら、家事をチャチャっと済ませていきました。


よくパパには、


「君は、家事に向いた魔法が使えていいよなぁ。僕は自分の体だけで料理や洗濯をしなくちゃならないのにさ」


と、うらやましがられます。


でもママからすれば、パパの使う魔法の方がずっと素敵だと思っているのです(何の魔法かは、まだ秘密です)。


「あの人、物置で何をやっていたのかしら」


家事をあらかた終えたママが、ふと思いつきました。随分と、バッタンドッタンと音が聞こえていたからです。急に心配になったママは、物置へと向かいました。


「あら、まぁ……」


二階から降りて、一階に辿り着いたママはちょっとビックリしてしまいました。それは物置のある地下室へ通じる扉の外まで、ガラクタ(ママには、そう見えます)が、ところせましと散らかっていたからです。


ママは、


「これは、片付けが大変だわ。私は絶対に手伝いませんからね」


と、パパがいくら泣きついて来ても、知らんぷりをしようと心に決めました。夫も子供と同じ。甘やかしたら、ドンドンつけ上がって行くに決まっています。”ひどい事にならぬよう、きちんとしつけなければ”と、ママはいつも思っているのです。

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