第19話 「それでも私は」

そのうち陸くんに家族について聞いてみたいと思っていた。

思い出だったりやらかした話だったりを陸くんの家族を交えて話したいって思っていた。


けどまさかもういないとは思わなかった。

そしてそれを無神経にも聞こうとした私は本当に最低だなと。知らなかったではさすがに済まされない。陸くんがもしそのことを知ったらどうしようって考えていた。



その話を聞いてから1週間くらいが経った。

透くんの話だと陸くんが帰って来たと言っていた。どんな顔をして会えばいいのかわからないまま学校へ向かった。そろそろ大学の夏休みが近いから花火に誘おうかもずっと悩んでいる。


せめて今年は辞めて、来年の花火までにもっと仲良くできればそれでいいのかもしれない。焦る必要はない。



「おーい未紗ー!」


朱音ちゃんが呼んでいる。朱音ちゃんの明るさにはいろいろと救われている。


「未紗ー陸くんとはちゃんと話したりトーク送ったりしたー?」


「うーんあの話を聞いたら一体どんな顔して会えばいいのかわかんないよー。」


「まぁそりゃそうだよね。あんな話聞いたら何の話を持ちかけようか忘れちゃうくらいにね。」


私たちはしばらく黙っていた。

花火の話題を出すのも何か申し訳ない感じがして...



「あれ、2人ともそんなところで何してるの?」


後ろから急に声をかけて来た人物。

陸くんだった。



「え!?陸くん!?」


「いつのまにいたの!?」


さすがに噂をすればって話じゃないから!?

どうしてこんなにタイミングバッチリに来るのかなと内心すごく焦ってしまっている。



「ん?どうかしたの2人とも元気がないように見えるけど?」


いや一体誰のせいでこうなってるって思ってるの?って言いかけてしまった。理由が理由だからそれは絶対ダメ。



「いやー実はいろいろと考えてて...

ね、朱音ちゃん!?」


少し圧をかけながら朱音ちゃんに振っていく。朱音ちゃんも察してくれて


「あぁそうそう!夏の予定を一体どう決めようかーって考えてたんだよね!」



「ふーんなるほどなー...

2人は何か誤魔化してるな?さすがのおれでもバレバレなんだよなー。」



「実は...」


私は陸くんの家族について聞いたことを話した。最初に驚いた顔をしていた。そりゃそうだと思い透くんがそう話していたことを話すと今度は怒ってシメるとか言う始末に。いろいろと落ち着かせながら話すと笑い出した。



「あははは、ごめんね。

まっさか透のやつそんなにあっさりと話すとは思わなかったからつい笑っちゃった。


そっかぁ、知っちゃったんだね。」



陸くんは少しだけ暗い顔をしていた。

申し訳なさそうな声で言うもんだから少し涙が出てきそう。



「あ、ごめん。本当に知るつもりはなかったの。無粋な真似しちゃって...」


「いや、いいんだ。

そのうちこの話は話したいって思ってたから」



陸くんには陸くんの事情がある。

だから私はあえて


「いいよ無理に話さなくても。

いつか本当に話せるって時にちゃんと聞くから!」


笑顔でそう答えていく。



「ありがと、未紗ちゃん!」


あ、初めてちゃん付けで呼んでくれた...

嬉しい!距離が少しだけ縮んだ感覚がする。

朱音ちゃんは微笑んで見守ってくれてた。






       ーーーーーー


「いや悪いな陸!つい言っちゃったんだよ。」


「何がつい行っちゃったんだよ。だ!

人の過去をペラペラと話すバカがどこにいんだよ!このバカヤロウが!」


あとから来た透くんに陸くんは怒りの罰を与えていた。縛り上げて尋問をしていた。

2人で笑いながらそれを見て気分を変えていった。陸くんは今を生きている。過去の出来事を乗り越えようと。


いや、だからこそ切り替えるんだ。そうだ!


「ねぇ陸くん!急なんだけど今月の28日って空いてるかな?」


「空いてるよ、確か花火があるんだよね。

おれもちょうどその話をしようと思ってたんだよね。」


「ほんと!?じゃいっしょに行こうよ!」


「だね!今から楽しみだよ。」


やった!陸くんを誘えたぞ!

まさか陸くんから話をしてもらえるとは思わなかったけど、成功したからよかった!



「えー未紗ずるいよー

透くん一緒に行こうよ!」


「そうだな、じゃみんなで楽しむか!」



こうして花火の予定を立てることに成功した。当日が本当に楽しみだ。





      ーーーーーー


今日はバイトもないから授業が終わって朱音ちゃんは他の友達と遊びに行ったから帰ろうかとしている時にトークが送られて来た。


差出人は美緒ちゃんだった。



『未紗ちゃーん今日会いてるー?』


『空いてるよー、なんでー?』


『暇なら遊びに行こうよー!』



というわけで2人で遊びに行くことになった。

なんだかんだで2人で遊ぶのは初めてだから緊張するなと思った。


都心の繁華街で待ち合わせすることになった。煌びやかな街だから今着ている服だとちょっと浮くよなって。


しばらくすると美緒ちゃんも来た。

服装は私よりももっとカジュアル。ダボっとしたワイドパンツに頭にキャップを被っていた。



「ごめんごめん待たせちゃった?

暑いからそこの中に入っててよかったのに。」


「大丈夫だよ。美緒ちゃん今日はどこで遊ぶの?」



「まぁとりあえずまずは喉乾いたからカフェ行こ!」



そうして近くにあるカフェに入った。

いろんな場所にチェーン展開している有名なカフェ。コーヒーがメインになっている。

各自注文して席へ持っていく。まずは私も喉が渇いたから一口。



「未紗ちゃん最近陸とはどうー?」


「え!?」


「どうしたの?まさかあいつまたなんかやらかした感じ?w」


「いや、どっちかって言ったら私がやらかしたんだけど...」

目を逸らしながら言うから側からみたら嘘つけない人間に見られてるんだろうな。

高校時代の、陸くんの元カノだから話しても大丈夫だよねと思い聞いてみた。



「美緒ちゃんは陸くんの家族について聞いたことある?」


「うん、知ってるよ。

まさかやらかしたってその話のこと?」



「そうなの...

陸くんこの間1週間ちょっと学校来なかったから透くんにどうしたのかってからかってみたらそう返ってきたから自分の能天気さがムカついて。」



「そっかぁ...未紗ちゃんも知っちゃったんだね。透のやつはあとでシメるとして、陸はそれに関して何か言ってた?」



「気にしないでって優しく言ってくれたよ。」


「なるほどなるほど、いやー陸も大人になったなーってw

あいつ高校の最初の頃ははよくその話題が出たらなりふり構わずぶん殴ってたから。


私がそれを聞いたのは付き合う直前だったかな。文化祭の時に偶然陸の中学時代の人と話す機会があって、その時に知ったんだ。


その時に今までのことが腑に落ちたの。どうしていつも1人でいようとしていたのか。どうしてそんなに後ろ向きな考えしかできなかったのかなって。」


美緒ちゃんの真剣な顔と声に圧倒された。

これが元カノの本気なんだと感じた。



「それから文化祭の時に私が告って付き合うようになったって感じ!

透や私が友達をいろいろ呼んで混ぜて遊んだり、イベントや誕生日とかは絶対陸と一緒にいるようにしたんだ。


あれが起きるまではね...」



あれって一体なんなんだろう、聞いてもいい話なのかな?



「話変えよっか!そういえば前にサークルでバーベキューしたって透から聞いたよ!

どうだったの?」



「え、あぁ!とても楽しかったよ!

お肉がとても美味しくてたくさん食べちゃったし陸くんは透くんと接点作りたいって言ってた香先輩って人となんだか漫才してたし!」



「え、香?

もしかして藤宮香!?」


「えっと苗字は聞いたことないからわからないけど、写真は確か...あったこれ!」



「え、マジじゃん..,

あいつその大学行ってたのかよ。」

え、知り合いだったんだと思うと同時にすかさず


「未紗ちゃん悪いことは言わない!あいつとはもう関わらない方がいい!」


「え、急にどうしたの美緒ちゃん?」




「あいつ、私たちの高校の先輩で昔から透にしつこく絡んでたの。そして私と陸の恋を踏みにじった女よ。


確かあいつと陸って地元が一緒のはずで、藤宮と陸の父親が会社の同僚だったの。

当時から陸の父親は会社の出世株でどんどん出世をして公私共に充実している毎日を送っていたの。一方で藤宮父は次々と陸の父親に仕事を奪われて最終的には会社内の問題をでっちあげられてクビにされたって本人から聞いた。


それから数年後に陸の家族が巻き込まれた連続殺人事件が発生したの。

その犯人が藤宮父だったの。当時全国的にニュースになっていて藤宮も周りの目から遠ざけていくように地元を離れたりしていた。陸も家族を失って地元を離れて、高校の時に偶然再会したの。まさに互いに過去っていう鎖に繋がれてるかのようにね。」


2人にそんな過去が...

さらに続けて話していった。



「藤宮は透に一目惚れをしたの。

ただそのそばには陸と私がいて、私たちが邪魔だったんでしょ。

学内新聞を利用して陸の過去をでっち上げて暴露したの。もちろん教師たちにも目をつけられて問題になっちゃって、負い目を感じた陸は私を振って悪役に徹しようとしたって話。


私は藤宮に詰め寄ったよ、そしたら彼女なんて言ったと思う?

『私たちの家族を壊したあんなやつが、人並みの幸せを得る資格なんてない』って。


若干顔を変えてるから陸はわからなかったんだけど私の目は誤魔化せない。

きっとあいつはまた何かやらかすつもり。

だからできるだけ遭遇しないようにして。」


真剣な眼差しで私を見て話していた。

美緒ちゃんは普段はちゃらんぽらんでも、人としてしっかりしてる人なんだとここで実感した。それと同時に何もできない自分の不甲斐なさも。




「あれ、そこにいるのは未紗ちゃんと...」


後ろを振り返ると香先輩とおそらく取り巻きの2人がいた。

偶然にしては出来すぎてる。

そして私たちの席にきて机を思いっきり叩いた。



「へぇー未紗ちゃん。

まさかこの女と友達だったなんて意外だなー。


久しぶりね杉浦、あの男に捨てられた可哀想な子w」


「黙れよ、そういうあんたはいつまでそんなガキみたいに取り巻き連れて歩いてんだよ。

自分に都合の良いことしか受け入れない負け組のくせにw

それにあんたそんな派手な格好とかしてなかったでしょ?サークルの姫にでも成り下がったのかな?w」



こんな落ち着けるカフェで女の陰湿なバトルが幕を開けた。

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