第18話 「きっと大丈夫」

6月26日


私は今日バイト終わりに朱音ちゃんとご飯にいく約束を立てていた。

あのバーベキューで食べ過ぎてから体重が増えたからこれ以上は増やしたくないところなんだけど。


美味しいイタリアンのお店がバイト先の近くにできたから行ってみたいとは思ってた。


梅雨に入ったから傘は常備品になり、ジメジメしていて体調を崩しやすくなっていた。

今日はそこまで体調もひどくないから遊べるなら遊びに行きたいなと思っていた。



バイト先は雨が降っていても結構混んでいた。さすがは有名店って言ったところ。


昼から夕方にかけてひっきりなしにお客が来ていたからすごく疲れていた。

なんだかんだで終わったのは夕方の18時過ぎだった。朱音ちゃんとは19時に待ち合わせしているからまだ余裕はあるけど。




「お疲れ様ね未紗ちゃん。今日もお客さんに人気だったねー!」



店長から褒められて少し嬉しかった。

普段からお客に話しかけられたり世間話に付き合ったりしていたら私目当てで来るお客も出てきた。



「ありがとうございます!

お先に失礼します、お疲れ様です!」



こうして待ち合わせの場所で少しぶらぶらと時間を潰して朱音ちゃんが来るのを待っていた。





       ーーーーーー


「未紗ー!」



朱音ちゃんが遠くから手を降っていた。

活発な動きをするからすぐ見つけられる。

私も手を振って合流する。



「いやーお待たせ!

こっから50m歩いた所がお店だから行ってみよ!」



「そうなんだ!確かスパゲッティが有名って書いてあったね。」


「そうそう!トマトクリームが甘くて美味しいってレビューに書いてあったから気になってね。

あったあった!ここだよ!」



『Grazie mille』という店に着いた。

あとで調べたらイタリア語で本当にありがとうって意味だった。感謝の言葉のお店は大体繁盛すると私のグルメ脳がビビッと受信した。



中に入ると明るいデザインの内装になっている。所々に絵画が飾ってあってイタリアのヴィネツィアの街並みやコロッセオやトレビの泉などの絵がイタリアの街並みにいるように錯覚させる。まぁイタリアンレストランだから当然っちゃ当然なんだけど。




「未紗は何にするー?」


「私はー...」


メニューを見るといろんな種類のパスタがある。パスタの麺の種類からソースの種類と200種以上の組み合わせを試すことができるそうで。

今日はあっさりとしたバジルソースのパスタが食べたい気分だった。




「ジュノベーゼにしようかな!

朱音ちゃんはイチオシのトマトソースのやつ?」



「そうそう!私はこれにする!」



私たちは注文をして料理が来るのを楽しみに待っていた。

朱音ちゃんは少し俯いていた。



「どうしたの?」



「いやさ、実は未紗に聞きたいことがあってさ。」



「何かあったの?」



こうモジモジとする時は大体相談したいときって長く付き合ってると分かる。



「来月花火大会があるじゃん、それでどんな浴衣着ていけば透くん喜ぶかなって思って。」



「あぁそういえばもうそんな時期になるんだねー!

朱音ちゃんだったらやっぱり赤とかが似合うのかなって思うけどなー。」



「そうかなー?今度未紗も一緒に見に行こうよ。未紗も勝負しにいくんでしょ?」



花火大会で陸くんを惚れさせるんだ。

美緒さんの呪いから解放するんだとカレンダーを見て思っていた。



「うん、私も陸くんと一緒に回りたいな。」



「そうだよ、お互い頑張らなくちゃ!」



多分朱音ちゃんも透くんにアタックしたり上手くいったら付き合うんじゃないのかなと友達のことだけど嬉しくなる。

そして私もやっと陸くんの彼女になるチャンスがきた。美緒さんの邪魔が入らなければの話だけど。



そんな妄想をしていたらパスタが運ばれて来た。バジルの香りがほのかにして美味しそう。写真を取ってsnsに投稿しちゃおう!



「まだ続けてるのグルメ垢?」


「うん続けてるよ!私個人の趣味だから!」



趣味でいろいろなお店に回って料理やお店の投稿をしてる垢がある。知ってるのは今のところ朱音ちゃんだけ。みんなにもそのうち教えるつもり。



あっさりとした食感がすごく美味しい。

やっぱり有名になるお店は見た目や味など他の人が見てもしっかりと評価できるから必然的に人気になっていくんだろう。


特にsnsでインフルエンサーが話題に出したらもう間違いない。私のバイト先のようにすごく忙しい日々を送ることになる。



「うーん!やっぱり来てよかった!

ほら未紗も一口食べてみなよ!」


朱音ちゃんがトマトソースのパスタを分けてくれたから口に入れると、もうそれは美味いのなんの!

口の中で酸味がするのに甘味がすごく広がっていく。まるでフルーツを食べた感覚になる。



「ほんとだ!すっごく美味しいね!」



「でしょ!未紗絶対喜ぶなって思って紹介したんだよね、陸くんとそのうちまた来なw」



「そういう朱音ちゃんは透くんと一緒に来なよw」



ふざけあいながら私たちはパスタを完食して満足げな顔で店を出た。





       ーーーーーー


「そういえば、未紗は大丈夫なの?」


「何が?」


「いや、最近体調とかどうなのかなって思って。」


帰りの途中で突然そんなことを聞かれたから何かと思った。



「んー特に普通だよ。なんでー?」



「いや未紗は中学の時から時々体調崩してたなって思い出したからどうなんだろうって。」



確かに中学の時からちょくちょく体調を崩していた。持病が原因だと朱音ちゃんも知っている。

高校生の途中でようやく体調が一時的に回復して今は特に異常とかはない。



「あー確かにね、心配してくれてありがとね!私は大丈夫だよ!もし万が一の時は託すからw」



「縁起でもないことは言わないでよマジでー。

未紗は前科があるからね、どうしても心配になっちゃうんだよー。」



「きっと大丈夫!最近はもう発作とかもないしなんとかなるよ!

それより明日のお昼に陸くんたち花火誘ってみよ♪」



そう朱音ちゃんには言っておく。

もう心配かけるわけにもいかない、自分のことは自分でけじめをつけるから。


切り替えて陸くんと花火行く時にどんな感じに好きって伝えようか考えないと!




「じゃあ朱音ちゃんまた明日学校でねー!」


「うん、じゃあね!」



詳しい内容を明日の学校までに、そして陸くんを花火に誘ってみよう。





       ーーーーーー


次の日のお昼に透くんたちを呼んで花火に誘う。朱音ちゃんは肝心な時に誘ったりできない奥手タイプだから私が少しリードして話すことにする。



そしてお昼に透くんがやってきた。

あれ、陸くんはいない。



「透くんお疲れー!

あれ、陸くんはまだ合流してないのー?」



「あぁ未紗ちゃんお疲れ。

陸は今日は休みだよ、いや何日かは多分学校来ないと思うよ。」



「え、そうなの?風邪引いたとかかな?」



「いや、違うよ。」



「え、もしかしてサボり?w

陸くんレポートとかそっちのけで遊びに行くのは余裕あるねー♪」


私は珍しく透くんにからかうような態度で話すと


「だから違うっつってんだろ!」



いきなり大声で怒鳴ってきたからビックリしてしまった。



「あ...ごめん怒鳴っちゃって。

未紗ちゃんは何も悪くないから。」



「全然大丈夫だけど...

透くん何か知ってるの?」


そう聞かれて透くんはしばらく黙っていた。

話そうかをすごく悩んでそうな感じだった。

まさか美緒さんとよりを戻したとか?



「透くん、陸くんがどんな理由でしばらくいないのか説明は欲しいよ。

私たちも話したいことあるし、もっと2人のこと知っていきたいから!」



朱音ちゃんが黙っていた口を開いた。

その熱意に負けたのか、悩みに悩んでいた透くんの口がようやく開く。


「ほんとに知りたいの?後悔しない?」


「「うん!」」


「そっか...わかった。」



今思うとこのことを聞いてよかったのかなと自分を責める時がある。










「今日は、陸の家族の命日なんだ...

あいつは墓にお参りするために地元へ今帰ってるんだ。」



「え...」


「そんな...」


そんな事情があったなんて。

家族をみんな、亡くしてたなんて思わなかったから。そんなことも知らずに今透くんをからかっていたじゃん。


「あいつには止められてたんだよ。

過去のことは言わないでくれって。特に2人には今の自分を知って欲しい。過去を知って同情だったりして欲しくないって。」



自分の能天気さに嫌気が刺す瞬間はきっとこういう時なんだと初めて知った。



ーーーーーー


「久しぶりだな。

父さん、母さん、海梨。なんだかんだで2年ぶりになっちゃったね。」



おれは墓の前でそう言って目を閉じてお参りをする。今地元に帰ってるおれは透にノートを取るように頼んでいた。



...正直地元にはもう2度と戻りたくはない。

けど墓が地元にある以上は定期的に帰ってこなくちゃいけない。



もうあれから7年、時間は本当に経つのが早い。この間のバイト帰りに美緒に言われたっけ。




「そろそろ、自分を許してあげなよ...

充分頑張ってきたじゃん。」



そうだよな、家族はおれのこと許してくれるだろうか。きっと大丈夫だよな。



「おれ、好きな人できたんだ。

美緒とはまた違う人なんだけど、ドジで抜けてるんだけど。

優しくて、自分の気持ちに嘘をつかない人なんだ。羨ましいだろ海梨。


花火の日、おれ彼女に好きだって伝えてみるよ。だから、だからどうか見守っててくれ。



また来るよ。」



そう言っておれは墓の前を後にした。

もう前を向いて歩く時が来たんだ。




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