第15話 「焼き加減」
そんなこんなで香先輩の目的達成のための計画を始めることになった。
透にアタックするのは構わないけどおれを巻き込むなと声を大にして言いたい。
「さぁ、陸君。
透君の好きなものだったりいろいろと教えて!絶対私は未紗ちゃんや朱音ちゃんを出し抜いてやる。」
「まぁ、いいんじゃないんですかね・・・」
正直もうあきれてる。
もう勝手にやっててほしい。
「あ、もうそろそろみんなと集合時間になってるから行こっか!」
ようやく解放される。
そうして店を出てさっきの場所まで戻ってきた。
5分くらいして最初に未紗さんと朱音さんがやってきた。
「あ、陸君!やっほー♪」
「未紗さん朱音さんやっと来てくれた・・・」
「どうしたのーそんな焦った顔して?」
「いやー実は・・・」
言おうとした瞬間、香先輩からの鋭い眼光で背筋から震えてきた。
こんなこと現実にあるんだな・・・
2人は不思議そうな顔でおれを見ている。
すぐに透や他のサークルメンバー、代表の翼先輩もきて最初に軽く一言を言って目的地に向かう。
ーーーーーーーーーーーーー
今回は自然が豊かな山の中でバーベキューとなっている。
山に流れる川の音、穏やかに吹くそよ風が心地よく冷たい。
みんなで焼きたい食材だったり飲み物を各自持参することになっていた。
おれは定番のピーマンや玉ねぎ、カルビなどを持参した。飲み物は透に頼んでいたから何を買ったのかわくわくする。
未紗さん朱音さんはお菓子を持ってきていた。
さすがにお菓子は焼かないよな?
「よし、じゃみんな始めよう。
わかんないことあったら聞いてねー」
無気力な声で翼先輩は開始の音頭をとった。
とりあえず透、未紗さん朱音さん、そして香先輩の5人で一緒に焼いていくことになった。
「よし!みんなたくさん焼いてたくさん食うぞー!!
・・・・・
って、どうやってまず火を起こすの・・・?w」
朱音さんは多分料理できない人だきっと・・・w
「全く、しょうがねぇなぁー」
透はカバンの中にある新聞紙をちぎりねじれさせていった。
炭を中央に置き、新聞紙を周りにしきつめていく。やっぱり透はいろんなことをそつなくこなせるタイプだから手際が早い。
「朱音ちゃんは水を汲んできて、米を炊きたいから。
未紗ちゃんは陸と一緒に食材の仕込みをお願い。
そして香先輩は・・・まぁ座って待っててください。」
「え!?
私もなにかするよ透くん。さすがに何もしないのは・・・」
「そうですか、じゃ食器とかの用意お願いします。」
透は的確にみんなに指示をすると火を起こすライターを借りたいとのことだったから渡した。新聞紙に徐々に火がつき、やがて炭にも引火していった。
そうしておれは未紗さんと2人で食材の仕込みをしていくことになった。
「陸君は料理ってできるの?」
「まぁ、人並みって感じかな。
1人暮らしだから簡単にはって感じ。」
「そうなんだ~♪
てっきり普段から美緒ちゃんに料理作らせてんじゃないのかなーって思ってw」
「いや、むしろおれが作ってるんだよなこれが、あいつ料理できねぇからw」
「そうなんだ!美緒ちゃん典型的なヒモ女なんだw」
こらこら、あいつがいたら怒られるって。
まぁそれも見てみたい気もするけど。
「ちなみに未紗さんはどうなの?」
「まぁ私も大体は自炊するよー!
インフルエンサーだったり料理動画を見てレシピ参考にしたりして作ってるんだ♪」
確かに包丁は使い慣れてるように見える。
サクサクと野菜を一緒に切っていく、気が付くともう少しで仕込みも終わってしまう。
「陸君も包丁使えるのは助かったよ、朱音ちゃんはさっきも見た通り家事全般できないから・・・。」
未紗さんは頭を抱えながら言った。
目をそらしながら言うもんだから多分以前に朱音さんの料理を食べたんだろう・・・
そんなことを話している間に2人で食材の仕込みはあらかた完了した。
誰かとこうして料理をしていくのは初めてのことだった。
いつか2人で何かしら1から料理を作りたいなと思った。2人でキッチンで分担しながら。
一方透達はというと
「朱音ちゃんダメだってそんなもの焼いちゃ!」
「え?甘いお菓子を焼いて食べるの動画で見たよ?」
あっちはあっちで夫婦漫才しているようで何よりだ。
香先輩の目が怖いのは見なかったことにする。
ーーーーーーーー
「じゃ、みんな準備できたことだし乾杯しよー
かんぱーい」
翼先輩はさっさと乾杯を済ませて即缶ビールを口にした。
余程飲みたかったんだろうな。
「やっと食えるな、相変わらずこういうイベントの時は透は頼りになるよーw」
「心にも思ってないこといいやがってw
まぁみんなで楽しめるから好きだけどさ
てかそっちは未紗ちゃんとイチャイチャしてたんだろ?」
「まぁそうだけどさ、料理できる人はやっぱおれ的に好感度上がるわw」
そんな話をしていると少し怖い目をした香先輩も話に混ざってきた。
そしておれに目配せしてきた。早く透くんと接点作れと言っているように感じたから合わせることにする。
「透くんは今好きな人はいないのー?」
いかにも猫被った声で話すなっての
「いやー、今はいないっすね。
みんなで楽しむ方が好きですよ。逆にそういう先輩はどうなんすか?w」
「私?私は内緒!
でもやっぱり彼氏にするならいろいろと率先して動いてくれる人が好き!
透くんは普段からイベントとか...」
なんだよ、おれがいなくても別に話せんじゃねぇかよ。
全く困った人だと呆れながら肉を食べていく。
未紗さんと朱音さんは他のサークルの人と話してるそうだし、しばらくは1人でゆっくりとしよう。
今回はおれたち含めて50人くらい集まってるからだいぶ賑わっている。
こんな大人数で遊ぶのは初めてだから人見知りが発動しそうだ。
「あれ、陸くん1人?
そういや香はどこにいるか知ってるー?」
翼先輩がやってきて隣に座ってきた。
「香先輩なら、今そこで透と話してますよ。
何か用でもあったんですか?」
「いや、話してるのならいいんだ。
今こうして陸くんと話す機会もできたし。
どう、このサークル入ってみて?」
「先輩たちがこうして楽しい企画立ててくれますし、女友達もできたので翼先輩には感謝してます」
「それは嬉しいね。
新歓の陸くんを見た時はほんとに大丈夫かとは思ったけど案外普通に話せんじゃん。
料理もできるしきっとそのうち何人から好かれてハーレム状態になりそうな予感。」
「それ透の方が適任じゃないですかね?」
「いや、陸くんも充分その素質はあるよ。
向こうでおれを呼んでるようだから行くよ、何かあったらすぐに呼んで。」
そう言って翼先輩は向こうの陽キャたちの元へ行った。
翼先輩はやっぱ優しい人でよかった。そこで話している香先輩とは大違いだ。
「陸くん!お肉追加してー!
未紗も待ってるからー!」
朱音さんが肉の追加を言ってきた。
不器用なのはわかるけどせめて何か手伝って欲しいものだ。未紗さんはおれに気づいてこっちに来てくれた。
「ごめんね陸くん!手伝うよ!」
「大丈夫だよ、友達と話してたんでしょ?
逆に手伝わせちゃって申し訳ないよ」
「気にしないで!私が一緒にやっていきたいから♪」
未紗さんがほんとに良い人でよかった。
網の上で肉がいい感じに焼けてきて肉汁が網の隙間を抜けて火を加熱していく。
今にも頬張りたいくらいの匂いでよだれが出そうだ。
未紗さんはやっぱり料理好きなんだろう、手際が良い。
「陸くんは香先輩のことどう思うー?」
いきなりそれを聞いてきたなー
「別に普通だけど、どうしたの?」
「いやーこの間偶然大学の中で会って少し話したんだよね♪
透くんのことが好きだって言ってたから」
「まぁおれにも相談してきたよ。
今ちょうど透と話してるよ、話せるんなら相談しなくてもよかったんじゃないかなとは思ったけど」
「そしたら透くんは先輩と付き合うのかなー?」
「いやそれはないっしょw
あいつがどう思ってるんだかわからんけど」
そう、こればっかりは本人どうしの問題だから口出しはしない。
それを言うなら未紗さんは...
「ねぇー2人ともまだー?」
朱音さんが催促してきた、せっかちな人だ。
「あーごめんごめん!
今持ってくよ!」
おれと未紗さんは2人で焼いた肉を持って行った。
みんなは口がやけどしそうないい焼き加減の肉を楽しく頬張る。
「はい、陸くん。」
未紗さんはそう言いながらあーんをしてきた。
みんなが見てる前で恥ずかしいけどそれに応えてく。
あぁー...熱いけど肉汁が口の中で染み込んで美味い。
「ヤバ、陸くんウケるw」
「未紗ナイスw」
あぁーめちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇかw
そう思いながらさらに未紗さんの持ってる串を手を引っ張りながら頬張る。
未紗さんは顔を真っ赤にしながらおれをどついてきた。
その顔は焼き加減がついていない生肉のように真っ赤になっていた。
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