第5話 コンビニバイト

 コンビニバイト

 

「おい加藤。勇気ってやつ覚えているか?」

 蓮さんが唐突に話しかけてくる。勇気という名前には強く聞き覚えがあった。

「あ、あの不良ですよね」

 加藤が中学生の頃からここの辺りでは有名で、友達とよく根も葉もない情報を交わし合った。

「人を殺したらしい」であるとか、

「金の力で解決するらしい」とか、

「噂は全て本当らしい」のような。

 とにかく様々な噂が立っている。その中でも鮮烈なのが、

「小西小石を殺したらしい」

 という噂だ。真妻が、正確にいえばその父が言っていた、らしい。ただ、やはり確証はなかった。

「あいつ、今話題の連続殺人の犯人なんじゃないかって」

 確かに、勇気が人を殺している図は容易に想像でき、腹の底に痛みと怒りを感じた。

「あの、ぼく、こういうやつ許せないです。なんで何も悪いことしてない人が、あんな」

 それ以上、加藤は言葉が継げなかった。声の代わりに涙が出てきた自分が、加藤は情けなくなる。そんな加藤のそばに、蓮さんは何も言わずにただいてくれた。

 

「蓮さんは、人が死んだあとどうなると思いますか」

 少しずつ落ち着いていき、頬も乾いてきた頃に、加藤は蓮さんに聞いた。

「どうなるって、どういうことだ?」

「いや、感情はあるのかな、とか。よくあるじゃないですか。天国やら地獄やらって」

 蓮さんは少し考える様子を見せると、ちょっとの間をあけて、口を開いた。

「何もないんじゃないか?こうして何かに悩むことも、愛することもない」

「寂しいことを言いますね」

 加藤がそう言うと、蓮さんがいきなり背中の右後ろあたりを、勢いよく手でおさえた。

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと怪我しててな」

 蓮さんが見せた右脇腹の後ろには、湿布が貼られていた。

 そう言うお前はどうなんだ。誤魔化すように蓮さんは加藤にそう聞いた。加藤は先ほどの蓮さん以上に悩んだ。言葉がまとまったのか、数分の沈黙を経て喋り始めた。

「あの、よく分からないですけど、死んでもまだ、生きていたくはありたいですよね」

「それはあれか。輪廻転生というやつか」

「それとはまたちょっと違うと思うんですけど」

 自動ドアが開く音がし、客が入ってきたので、話題はここで途切れることになった。

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