別れの季節

3月 あなたへの想いが教えてくれた――

 今日は卒業式だ。

 卒業証書授与式が、どんどん進行していって……。

 ぼんやりとしながら、とくに何も考えることなく見ていた。


 そのときだった。

 聞いたことのある名前が聞こえたのは。


「三年五組。陽谷 悠」


 ひだに、はるか。

 それって、この一年一緒に過ごしてくれた人の名前と同じ……。

 この状況を受け入れるのを、現実を受け入れることが、できない。


 一番考えたくなかった可能性。

 今まで薄々感じていたけれど、今になって認めたくなかった。

 それは……。


 ――悠さんは三年生で、今年卒業する……。


 だからあの時、あと少し、なんて言ったのだろうか。


 嫌だ。嫌だよ。


 ――行かないで。


 ほんとはそう言いたかった。

 でも……。

 そう言っても、迷惑をかけるだけだから……。




 いつものように屋上へ行く。

 屋上は……汚れることを知らない、透き通った青色で囲まれていた。

 吸い込まれてしまうような、透明な空。


 その中にポツンと人影が見える。

 私はためらうことなくその背中に声をかけた。


「悠さん」


 彼は振り向かない。

 それでも、私は続けた。


「三年生だったんですね。ご卒業、おめでとうございます」


 悠さんは動じることなく、ただ青色の世界を見つめていた。


「今まで、ありがとうございました。悠さんは、いつだって私を救ってくれました。先輩としてではなく、同じ者同士として。とっても嬉しかったです」


 自分で言いながら、涙が溢れてくる。

 ダメだ。今ここで泣いてしまったら、悠さんを困らせてしまう。

 今の私にできる、精いっぱいの感謝を、あなたに。



「私はあなたの過ごしたこの一年を――一生忘れません」



 絶対に、絶対に、忘れないから――

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