第17話
「…ふーん。」
船から降りてきて船長は島の様子を見ていた。
商店街のところへ辿り着いたが、声を掛けてくる人が少ない。
(メソド達が来たときは目的が分かっているように多くの人が声を掛けてきたみたいだが。)
島民達を見て、自分が少し恐れられている事を感じる事は出来る。
(ま、クマが酷くて人相が悪いってのもあるんだろうけどな。)
商店街を抜けて、適当にぶらぶらと特に目的もなく船長は島を散歩していた。
畑が一面に広がる場所に出てきて、船長はずっと後ろから付いてくる気配に声を掛けた。
「なぁ、そこにいるんだろ?」
後ろを振り向いた先には、人が隠れるにはちょうどいい果物のなる木がある。
風によって青葉が揺れる音に混ざって、小さな音ではあったが髪が揺れるのを船長の耳は拾っていた。
「得体も知れない旅人かもしれないが、話し相手になってくれないか?」
数分時が過ぎたが、特に何も反応はなく、反応が無いのならしょうがないと船長はまだ回っていないところに行こうとして歩き始めた。
「………。」
足音が遠くに行ったのを聞き、木からひょっこりマツリは顔を出す。
(どんな奴が後をつけているかまでは分からなかったみたいだけど…。)
心の中でこのまま目的が分かるまで追うか、あきらめて家に帰った方がいいか迷っていた。
(話しかけられた様子だと、無表情だったけど話し合う気はあるみたいだったな。)
マツリは静かに頷くと、行動を起こしにある場所へ向かって走る。
「ここは…いい景色だな。」
船長は、自分たちが船を置いている場所とは別の浜辺に来ていた。
雲一つない空の水色と海の藍色が船長の瞳に映る。
自分以外の人がいないことを確認した船長は、浜辺に生えている木の木陰を見つけそこでひと眠りすることを決めた。
少し歩いて火照っていた自分の体の熱が影によって冷まされていくのを感じながら、船長はゆっくりと、目を閉じる。
しばらくして、波辺の砂を踏む音で船長は目を覚ます。
誰かと思って、起き上がると。
「…こんにちは。」
黒髪のガーナと同じ歳くらいのスケッチブックを持った女の子が話しかけてきた。
「こんにちは。」
愛想笑いというものが苦手な船長だが、できる限りの笑顔を作ってみる。
「………。」
対応から見て逆効果だったようだ。
「すまん、怖がらせたか。」
「…ううん。」
女の子は、顔を横に振るのを見て船長は少し安心する。
「この島はいいところだな。」
特に何も考えていなかったが、船長は女の子に話し掛けると「うん。」と女の子はすぐに答えた。
「島の人、皆いい人だよ。」
「ああ、旅人の俺にも優しい。」
「…おじさんは、なんでこの島に来たの?」
内心まだ三十歳と思っていた船長は少し傷ついたが、表情に出さずに話を続ける。
「食料補給かな。」
「お魚がおすすめだよ。」
「そうなのか。」
他愛もない会話を進め、時間になったのか女の子は帰っていく。
日は暮れ始め、少しずつ船内が慌ただしくなり始めた。
「宝と言えるものはほとんどないけど、なくなったら大変なものはたくさんあるものねぇ~。」
「おい、ぼさっとしてないで働け!」
「ねぇメソド、このおかしどこに置いたほうがいいと思う?」
「それは…他の人に聞いた方がいいんじゃないか?」
各自怪盗対策に自分が宝と呼べる物を隠していた所に、船長が帰ってきた。
「あっ、お帰りなさい。」
「おう、ガーナいい子にしていたか?」
「うん!」
すぐに寄ってきたガーナの頭を船長は撫でていると、横からノイが割って入ってくる。
「どこ行ってたんすか。」
「まあ、俺だけこの島に上陸してなかったし…。」
あ、あと…と船長は船員たちに告げた。
「その作業、正直意味がないから。」
「「「「………ハァ!?」」」」
船員一同からツッコミを受けた船長は何事も無い様に、自室のベッドへ行こうとしたがノイとサナに阻まれる。
「ちょっと、俺眠い…。」
「流石に今のは聞き捨てならねぇぞ!」
「意味が無いってどういうこと!?」
船長の言葉の真意を探ろうと二人が質問を投げるが、船長はあまり気乗りしない様子を見せた。
「え~今言わないとダメ?」
「寧ろ今言え!!」
「………。」
不服そうに唇を尖らせたがやがて諦めたように溜息を吐くと、船長はすぐそばにあったソファーに座り話し始めた。
「俺が出歩いていった時から、誰だか知らんがずっと後をつけられた。」
「…ずっと?」
「いや、詳しく言えば途中までだが話し掛けたし。」
「話し掛けたのですか…?」
ああ、何ともないように答える船長に船員たちは一斉に呆れ顔になる。
「…せめてさ、捕まえるとか。」
「だって、眠かったし。」
子どもの様な言い訳を受け「この寝坊助!!」と一喝された。
「あ~やめろ、あんまり大声で叫ばれると眠れなくなる…。」
そこで立つと、逃げる様にのそのそと自分の部屋に戻っていく。
「…相変わらず、やる気があるのかないのか分からない人ねぇ。」
「そうでもないよ。」
さらりと、メソドはこう言った。
「今寝るってことはちゃんと体を休めるって事だから。」
まあ、あの人の場合に限るがと微笑するメソドに他の船員も納得した。
「そうね。」
船員の意見が全員一致したところで、部屋の扉が開き、船長がこんな一言を放つ。
「そういえば、つけられたのは割と最初からだったから今もこの船の中見ていると思う。」
バタリと扉が閉まり、船員たちはすぐに首筋や顔に血管を浮かべながら窓のカーテンを閉めた。
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