第9話

その次の日。

確かに八百屋の主人が言った通り海賊船は無くなっていた。

 

しかし。

 

「何で…何でまだいるのよ!」

マツリはまた家の屋根から様子を窺いながら忌々しそうに呟く。

そう、確かに海賊船は無いのだ。

代わりに白い帆をあげた海賊船と同じ構造の船が、ご丁寧に昨日と違う場所に停めているだけだった。

「ていうか、海賊船の帆はまだ甲板に置いていて片付けてないし…なめてんのか!」

と憤慨していると下から声が聞こえた。

「うるさいぞ、マツリ!」

「あ、ごめん!」

確かに一人で話し過ぎたと反省すると、次いでムマジから声が掛けられる。

「そんで、客だ。」

「え?」

「俺じゃ行けないからお前行け。」

「うん、分かった。」

屋根からベランダへ降りマツリは玄関へ急いだ。

(やっぱり、あまり動けないんだ。)

ほんの少しの寂しさを宿しながら。

 

玄関へたどり着きマツリはドアを開けた。

「すみません、遅くなって…用は―」

と言いかけたところでマツリは口を止めた。

「いや、こっちこそ急がせてごめんね。」

と割と顔の整っている男と

「ああ、すまねぇな。」

とヒゲを少し生やした男が出てきた。

 

島民なら判る。

誰が部外者なのかを

 

(この人達が海賊…。)

見ていたものの直接対面したのは初めてだった。

正直心の準備も何も無いが、これまでの経験を思い出し自分を奮い立たせる。

「ご用は何ですか。」

如何にも警戒心丸出しの感じを出しながらマツリは言った。

「いえ、ちょっと道案内を頼みたいだけなんですよ。」

「そんなに緊張するなよ。」

そう言われても海賊じゃなくても知らない人に対して警戒心を出してしまうのは仕方がない事だと思う。

「そうそう、こんなおやじだけど恐くないから。」

「おやじって言うな。俺はまだ二十七歳だしお前より年下だ。」

「はぁ…それでご用はどこの道案内ですか?この島は小さいですから、だいたいのところはすぐ分かると思うんですけど…。」

と少しだけ探りをいれてみた。

「ああ、すみません。この島の領主様のところを教えてもらいたいのですが。」

内容を聞いて内心驚いた。

「何しに行くのですか?」

「それは嬢ちゃんには関係ねーなぁ。」

とヒゲを生やした男が横槍をいれてきた。

「…分かりました。領主様の邸宅はこの道をまっすぐ行ったところです。」

「そう、ありがとう。」

一人は笑顔、もう一人は無愛想な顔で去って行った。

 

ギィィィ…パタン

扉を閉じてマツリは小さく呟いた。

「領主に海賊が用事?…気になるな。」

 

「…やたらと大人ぶった子ねぇ。」

周りに気配が無くなってからサナは喋った。

「おい、しばらくは敬語にしてろ。聞かれていたらどうすんだ。」

「やだぁノイちゃん、二人きりだからこの喋り方なのよ。」

いつも通りになったサナに溜息を吐きながらノイは呟く。

「二人きりじゃなくても船の中でもそれだろうが…。」

とぶつくさ文句を言っているノイをサナは面白そうに見ていた。

「でも、あのガキは妙だった。」

「―やっぱりそう思いますか?」

微笑みながら聞いて来るサナに、ノイは表情を変えないまま話す。

「…素直に言うこと聞く野郎じゃねぇよな、お前は。」

サナが無言で指を指した先にさっきの女の子だった。

「ところでこれからどうします?」

「そうだな、観光がてらちょっと島を回ってくるか。」

「じゃあ先に戻っていますね。」

と二人は別れて歩いて行く。

『…これで、撒けるか?』

『利口な子なら諦めるけどねぇ。』

と歩きながら様子をうかがっていたが、女の子はばれたと悟ると何処かへ行ってしまった。

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