つながる点と点 4
(ダンス、一回だけですんでよかった……)
王族席にルーファスとともに座って、挨拶に来る人の相手をしながら、ヴィオレーヌはホッと安堵していた。
パーティーがはじまってすぐに、お披露目もかねてルーファスと一曲踊ったあとは、ずっと挨拶に来る貴族の相手である。
ずっと微笑んでいないといけないので頬の筋肉がプルプルするが、ダンスをするよりはましだ。
(さっきもステップ、ちょっと間違っちゃったし)
ルーファスのおかげで、間違えても問題なく踊り切ることができたが、あれだけ控室で入念に確認したと言うのに、ちょっと悔しい。
ファーバー公爵たちが欠席を表明したためか、ファーバー公爵派閥の貴族たちの多くが不在だった。それもあって、挨拶に来る貴族たちはヴィオレーヌに好意的な人が多く、警戒していたほどの心労はない。
(お義母様に毒を盛ったのがアラベラの侍女だって、公表したらしいからね)
ヴィオレーヌが王妃に毒を盛ったと吹聴していた側に真犯人がいたのだ。そのせいもあり、ヴィオレーヌの悪評は一気にひっくり返り、むしろ、陥れられた同情票も集まっているらしい。
おかげで、敵国の王女であるというのに、ルウェルハスト国の王太子妃として受け入れられてもらえているようだ。
ファーバー公爵家とその派閥の動きは軽視できないが、ポーションが公爵家の独占状態ではなくなった今、以前よりだいぶ勢いが削がれている。
ヴィオレーヌが嫁いで来た際に、ルーファスからアラベラとファーバー公爵家をどうにかしてほしいと言われていたが、うまくいったと考えていいだろうか。まあ、ヴィオレーヌだけの力で何とかなったわけではないが、結果を見れば悪くない状態だろう。たぶん。
(あとは、アラベラの侍女が誰の指示で王妃様に毒を盛ったかがわかるといいんだけど)
公爵家の誰かが関与しているのか否か。それが明確にならなければ安心できない。
ほかにも、ダンスタブル辺境伯領にて尋問中の、マグドネル国の残党兵の問題もある。あちらの尋問は進んでいるだろうか。マグドネル国の関与が疑われるのならば、こちらも早く情報がほしい。
挨拶に来た貴族の対応がひと段落したところで、ルーファスがジュースを差し出してくれた。
以前ヴィオレーヌが強い酒に咽たからか、ルーファスはヴィオレーヌが酒が苦手だと思っている節がある。
ジュースを受け取りのどを潤していると、何か食べるかと訊ねられたのでフルーツをお願いした。
ルーファスが使用人に命じてフルーツの盛り合わせを持ってこさせる。
広間を見下ろせば、着飾った男女が楽しそうにダンスを踊っているのが見えた。
ミランダはどこにいるだろうかと探してみると、数人の男性に囲まれている。だが、そのどれもが年配の男性だ。そしてミランダが楽しそうに笑っているので、もしかしてあれば商売の話をしているのではあるまいか。
(ミランダ、婚約者探しはどうしたの……?)
可愛らしく着飾っているというのに、もったいない。
苦笑していると、ルーファスが「どうした?」と訊ねてきたのでミランダを指してやると、彼が肩をすくめた。
「今が最大の商売のチャンスだと思っているんだろう。宰相が持って行く縁談をことごとく断っていると言うし、あれはしばらく相手は決まらないと思うぞ」
「パーティーがはじまる前は、自分にとって都合のいい相手を探すのだと息巻いていましたけど」
「気が変わったんだろう。もしくは忘れているかどちらかだな」
「ミランダ……」
商売っ気が強すぎる。
ミランダを取り囲んでいる年配の男性の誰かが、自身の息子なり親戚なりをミランダに紹介してくれないだろうかと、ヴィオレーヌがそっと息を吐き出したときだった。
バタバタと王族席の入り口から宰相オークウッド侯爵が飛び込んでくる。
オークウッド侯爵が国王の側で膝を折ると、そっと何かを耳打ちしたのが見えた。
「何かあったんでしょうか?」
宰相に耳打ちされた国王が、狼狽したように瞳を揺らしている。
「確認してくる。ヴィオレーヌはここにいろ」
ルーファスが席を立ち、国王の元に向かった。
国王と宰相と三人で何かを話してから、険しい表情を浮かべて戻って来る。
「ヴィオレーヌ、まずいことが起こった。この場はクラークに任せて、俺たちは下がるぞ」
ルーファスの焦りを含んだ声に、ヴィオレーヌは緊張しながら頷いた。
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