つながる点と点 2
ルーファスが言ったお披露目パーティーは、二週間後に決定した。
ミランダは、ようやくヴィオレーヌを広告塔に使える大チャンスが巡って来たと張り切って、当日の準備に余念がない。
ミランダが全部手配してくれるので、ヴィオレーヌはまるですることがなく、結局この二週間もずっとポーション作りに励んでいた。
王宮からアラベラがいなくなったおかげで、ヴィオレーヌの近辺への警戒を緩めてもよくなっていて、護衛騎士たちは交代で騎士団の訓練に参加したり、庭で体を動かしたりしていて、以前よりも生き生きしている。
お披露目パーティー当日。
今日のパーティーには、王家への腹いせなのかファーバー公爵家が不参加を表明しているため、それほど気を張らなくてもいいそうだ。
ミランダに手伝ってもらってドレスに着替え、化粧と髪を整えてもらう。
普段、青やグリーンのドレスを着ることが多いが、今日はお披露目と言うこともあり、柔らかい雰囲気を出すためにサーモンピンク色のドレスが選ばれた。
髪は一つにまとめられ、金細工の髪飾りで彩られている。
ショールは若葉色で、金糸で蔦模様が描かれていた。
ミランダによると、気品がありながらも可愛らしい雰囲気になるようにしているらしい。
支度が終わると、一度自室に移っていたルーファスがやって来た。
ヴィオレーヌを見て、優しく目を細める。
「ああ、似合うな」
見つめられて、ヴィオレーヌはちょっと赤くなった。
あまり見ないでほしい。恥ずかしいから。
王宮から城までは歩いて行ける距離だが、表玄関は招待客の馬車が列を出しているので、王族専用の別の玄関から城に入るらしい。
ルーファスの護衛としてカルヴィン、ヴィオレーヌの護衛としてジョージーナがつくことになっていた。
パーティー会場では少し距離を取るそうだが、広間の端のあたりに控えていてくれるそうだ。
ミランダはオークウッド侯爵の娘としてパーティーに参加することになっている。
宰相の娘であるミランダは十六歳。婚約者がまだ決まっていないので、パーティーに参加するとあちこちから声をかけられて鬱陶しいとは言っていたが、貴族令嬢である以上結婚は避けては通れない。親に強制的に婚約させられる前に、自分にとって都合のいい相手を探さないといけないと疲れたようなため息をこぼしていた。
(まあミランダは、貴族の夫人として家のことを取り仕切るだけで満足するようなタイプじゃなさそうだから……)
生き生きと兄の商売を手伝っているくらいだ。自分がしたいことを邪魔しないような相手を探したいのだろう。なかなかハードルが高そうにも思えるが、ミランダなら何とかしそうな気もする。
城に入ると、控室へ向かう。
王族は案内があってから入場するので、連絡が来るまではそれぞれの控室でのんびりすごしていたらいいそうだ。
ルーファスとともに入った控室は王太子夫妻の控室で、側妃であるリアーナは違う控室を使うという。
(考えて見たら、パーティーってはじめてね)
マグドネル国がルウェルハスト国に戦争を仕掛けた時、ヴィオレーヌは十三歳だった。
まだ社交デビュー前だ。
そのまま戦争が終わるまでの四年間は、モルディア国では王家も貴族もパーティーを自粛していて、戦争が終わった後でマグドネル国に行くことになり、そこではルウェルハスト国へ嫁ぐための準備に追われていた。
ゆえに、一度もパーティーに出席したことがない。
ダンスも、幼少期に習っていたけれど、ダンス教師か父以外の相手と踊った記憶がなかった。
(……何も考えてなかったけど、ダンス、あるわよね?)
着飾って挨拶さえすればいいと思っていたヴィオレーヌは、さーっと青ざめた。
今日はヴィオレーヌのお披露目パーティーらしいので、ヴィオレーヌが主役だ。主役が一曲も踊らずに王族席に座ったままでいられるとは思えない。
「どうした、顔色が悪いようだが」
「今になって、重大な懸念事項に気がつきまして……」
「なんだ、何か問題があるのか?」
ルーファスがさっと表情を引き締める。
ヴィオレーヌは情けない顔をルーファスに向けた。
「あの、わたし、ダンスレッスン以外でダンスを踊った記憶が、なくて……」
しかもダンスレッスンを受けていたのは戦争がはじまる前のことだから、もう五年以上も前の話だ。五年レッスンを受けていなくて、本番は一度も経験していないと来れば、どんな悲惨な結果になるかは目に見えていた。
恥をかく前に仮病を使って欠席した方がいいのではないかと本気で考えていると、ルーファスがきょとんと目を丸くする。
「重大な懸念事項って、そんなことか?」
「そんなことなんて軽く言わないでください。わたしにとってはとんでもなく大問題です」
「大問題って……ぷっ」
真面目な顔で言うヴィオレーヌが面白かったのだろうか。
ルーファスが我慢できないと言わんばかりに噴き出して、それから「すまない」と言いながら肩を震わせた。全然笑いの発作がおさまっていない。
ヴィオレーヌはむっと口を曲げた。
「わたしと一緒に踊ったら、殿下も恥をかくかもしれませんよ」
「それなら、ほら。今ここで合わせて見ればいいだろう」
くくく、とまだ笑いながらルーファスが手を差し出す。
確かに、ぶっつけ本番で踊らされるよりは、多少なりとも練習しておきたい。
ずっと笑っているルーファスを軽く睨んで、ヴィオレーヌは彼の手を取った。
「足、踏んでも怒らないでくださいね」
むしろ、今すぐ笑うのをやめないなら、思いきり足を踏んづけてやろうかと、ヴィオレーヌは思った。
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