デアデビルダイバー・ディストピア・ディスオベイ（DareDevil Diver Dystopia Disobey）

第32話 剛力の暗殺者

「……初対面なのに死ねなんて、だいぶイカレタ奴だな」

「オラに個人的な恨みがあるわけじゃないんけど、てめえを殺して欲しいって奴がいんだ」

「ああ、殺し屋か。いったい誰の差し金だ。……っと」

「兄を殺された可哀そうな魔法使いだッ。とおりゃぁぁぁ！！！」

　ロイは大きく振りかぶると、大鎖鎌をネベルに向かって勢いよく投擲した。

　ネベルは飛んでくる鎌をエクリプスで受けとめようとした。奴の鎌を弾き返せれば、攻撃のチャンスになるからだ。だがロイの放った大鎖鎌の投擲はネベルの予想以上の威力があった。

　―コイツ、なんて馬鹿力だ。それにこの鎌もすさまじく重い。ただの鉄の武器じゃないな―

　大鎖鎌の衝撃を食らいネベルはそのまま砂浜を１０メートルも後退させられた。

「くっ」

「やるなぁ。オラの大鎖鎌の受けて倒れなかった奴はてめえが初めてだ」

　ロイは片手だけで数１００キロもある大鎖鎌を自由自在に操れるようだ。

　また鎌も旧文明の希少な超合金素材で作られており、大型のモンスターを骨ごと砕く破壊力を持ち合わせていた。

「兄を殺された可哀そうな魔法使いだと？　あいにく、そんな奴の恨みを買った覚えはないな」

「ん゛？　依頼主の名前はアーバン・ベルギウス。あんたが、兄のロゼ・ベルギウスをが殺したんだろ」

「……は？　誰だソイツ」

　ネベルは数か月前に滅ぼした黒魔法使いのゴロツキ集団の事などすっかり忘れてしまっていたのだ。そもそも名前なんて記憶していなかったし、そのような雑魚の事などネベルにとってどうだってよかった。

　だがピクシーに限ってはファントムローゼのボスの名前をしっかり憶えていた。誕生して間もない彼女にとって、あそこでの記憶はとても凄惨で印象深いものだったからだ。

　戦闘の騒ぎを聞きつけネベルの所に駆けつけたピクシーは、自分の情報を彼に伝えた。

「ネベル、ほらあれだよアレっ　この前、瘴気の森にあった悪い黒魔法使いのアジトを潰したでしょ。そこの親玉の名前だよ」

「……ああ、アイツか」

　ピクシーに言われて、ネベルはようやくロゼ・ベルギウスの事を思いだした。過去にあった戦いの事も。

　いつの間にか、ネベルとロイの周りにはコロニー〈サキエル〉の住人達が集まって野次馬と化し、彼らの戦い見物していた。平和な日常を送る彼らにとって、これ程までに苛烈なよそ者同士の死闘は、とても珍しいエンタテイメントだったのだ。

　ピクシーは野次馬の集団の所からネベルの肩の上まで飛んでいった。そして彼の耳元でこう囁いた。

（ところでさ……勝てるの？アイツ馬鹿そうだけど、力は強そうじゃん）

「ククッ　余裕。あんな力だけの馬鹿に俺が負けるわけないだろ」

「だ、だよねーーッ　えへへ、流石ネベル！　でもどうやって？？」

　すると二人がこそこそ話すのを見ていたロイは、ネベルに向かってこう言った。

「てめえら。今オラのこと馬鹿にしてねぇか？」

「ああ、してるぜ。それがどうかしたか？」

「っ！　ほ、ほぉう。そんなに早く死にてぇんなら、そう言えばいいんだ！　とぉぉらあぁっ」

　正面から罵倒されて頭に血がのぼったロイは、再び馬鹿力を持って鎖鎌を投げつけた。

「あわあわっ　危ない！」

　ピクシーは慌てて姿をくらました。

　ネベルには一度見切った攻撃は当たらない。

　ワンモーションで投擲を躱すと、エナジー瓶（ボトル）を取りだし魔法を行使した。

「フンッ　鎌の投擲だけか？　芸がない奴だ」

「何だとぉ？」

「俺が賢い戦い方ってのを教えてやるぜ。灰燼と化せ、ヒートヘイズ！」